第63話 そっちの発想で行ったか

 学園都市に戻って来た。

 まずはモンスター討伐後の汗を銭湯で流す。

 昨日今日と土日で休みだからか、結構客が多い。

 こっちの世界でも風呂は人気みたいだね。

 俺としても既に広まってくれていてよかった。

 異世界転生の先輩諸兄のように、俺が前世の知識チートとして風呂の習慣を広めるっていうのもそれはそれでアガる展開ではあるけれど、正直めんどくさかっただろうなって思っちゃうんだよね。

 だからこの世界で風呂を考え付いた天才には心の中で拍手を送ろうと思う。

 そんなことを考えながら風呂で汗と疲れを落としたところで、お昼を食べに行こう。

 昨日のオークボーンラーメン美味かったしな、今日も行くか。

 あの屋台のオッサン、自分のラーメンに絶対の自信がありますって感じでいい顔するんだよね。

 そうして、今日も美味しくいただいて、ギルドの解体所に向かう。


「おうアレス! 講習にはまだ早いが、買取か?」

「いや、買取の素材がないわけでもないが……それよりも今日の講習後みんなで、お疲れさん会と称して焼肉でもどうかと思ってな。食材は俺が狩って来たオークを提供する」

「おお、いいじゃねぇか! 近くにバーベキュー広場があるから、そこでやろうぜ!! 聞いたなタカテス? 肉はアレスが用意してくれたからそれ以外の準備をしとけ、それが終わるまではアレスの演習は俺が見といてやる」

「わかりました。それじゃあアレス君、少し待たせるかもしれないけど、その間はザムトルさんにいろいろ聞いてね」

「ああ、だが仕事を増やしたみたいですまんな」

「いやいや、気にしないで」


 そうしてタカテスは焼肉に使う道具の準備や野菜等の買い出しに向かった。


「それにしてもアレス、遂にオークも狩り始めたか、成果はどうだった?」

「オークは昨日13体、今日16体ってところだったな」

「昨日も狩ってたのか、しかし相変わらず数が多いな……まぁ、つい先日もオーク狩りって呼ばれる新人が出て来たし、やっぱこの時期はそういう新人が多いんだよな」

「ああ、そいつなら街中で何度か見たな、まぁ、学園でなら頻繁に目にしているがな」

「そういやお前も学園の生徒だったか、あんまりそういう雰囲気を出してねぇから、つい忘れちまうな」


 まぁ、前世では普通の大学生だったからね、そういう高貴な雰囲気っていうのは持ち合わせてないや。

 それに、ギルドでは一介の冒険者ムーブを楽しもうと思ってたし。

 とかなんとか話していたら、そろそろ講習の時間が近づいてきたので、おしゃべりを終了して、解体技術を磨くことに意識を切り替えていく。

 そして既に講習生も揃っている。

 昨日のライバル兼仲間の3人と軽く挨拶を済ませ、今日参加の講習生2人にもちらと目を向ける。

 1人は姉御って感じの娘で、もう1人は神経質そうな男。

 ふむ、今日の方がクセ強め?

 そんな感じで本日の講習がスタート。

 流れは昨日と同じように、解体手順の説明と解体士による実演を経てからの演習。

 説明も聞き流さずきちんと聞き、実演はちょっとしたコツなんかも見逃さないよう真剣に見学した。

 これでイメージがより鮮明になったんじゃないかと思いつつ、演習に移る。

 そうして、ザムトルにアドバイスを貰いながら解体の技術を少しずつ磨いていく。

 そこでふと、以前エリナ先生が食材を切るときに風属性魔法を使っていたのを思い出した。

 今の俺の練度では風属性魔法を包丁のように使うのは手間だが、魔鉄のナイフに風属性の魔力を込めることは比較的やりやすいだろう。

 何気に、昨日から今に至るまで特になにも思わず無属性の魔力を込めていただけだった。

 しかし、こういう工夫は効果的かもしれない。

 そんなわけで風属性の魔力で細胞を傷つけないように切るイメージでナイフを入れていくと切り口が滑らかで綺麗になった、これだ!


「ほう、そっちの発想で行ったか」

「ん? なにかマズかったか?」

「いや、多くの解体士は経験の積み重ねの中から自分の捌き方を模索して行くもんだが、魔法の扱いに長けた奴はまた違った方法で行くんだなと感心してたんだ」

「そうか、これは俺の先生が見せてくれた技でな」

「なるほどなぁ」


 その後しばらく演習を続け、休憩に入った。

 昨日と同じようにポーションをみんなに配ろうとしたが、神経質そうな男には断られた。

 まぁ、無理強いするのもよくないからいいんだけどね。

 とりあえず彼、俺らとは馴れ合いたくないという雰囲気をめちゃくちゃ出してくるのでそっとしておくことにした。

 姉御って感じの娘は気さくだね、ただ俺の感覚的にはお姉さんまであと数年って感じかな。

 前世的感覚では俺、18歳だけど学年で言えば19歳だったからさ、20歳以上じゃないと同年代とか年下って感じてしまうんだよね。

 たぶん姉御って感じの娘も見た感じ17歳ぐらいだからね、お姉さんと呼ぶにはまだ早いって思っちゃう。

 そうして、休憩が終わる頃、タカテスが戻って来たので、俺の担当がザムトルからタカテスにバトンタッチし、演習再開。

 しばらく演習を続けていくうちに魔鉄のナイフが手に馴染んできた。

 そして、捌き方にためらいがなくなってきたのもあって、解体のテンポがよくなってきたところで、遂にタカテスから解体報酬が出る最低限度に到達を認められた。

 それを知ったほっそり―ずは「よかったな! 俺も負けてられん!」と言って更に気合を入れて解体に励んでいた。

 また、天才解体少年はニカッと笑って頷いていた。

 なんか彼、既に職人の風格があるんだけど……

 そして本日の講習修了が近くなってきた頃、遂にほっそりーずにもオッケーが出た!

 そのときは昨日の講習生4人で喜び合った。

 なんか知らんが、妙な達成感があったね。

 そんな俺らに忌々しそうな視線を向けて来る神経質そうな男。

 ……うるさくしちゃってごめんね。

 そうして本日最後、オークの解体にチャレンジとなった。

 さんざんゴブリンで練習をしたので基本は同じとは思いつつも、やはり違うのも確かなので、緊張感が漂う。

 とりあえず、難易度の高い部分から順に天才解体少年、俺、ほっそりーず、姉御って感じの娘、神経質そうな男で解体にあたった。

 うん、いい経験になったはず!

 こうして本日の解体講習が修了となった、お疲れさまでした。

 そして、腹内アレス君お待ちかねの焼肉が始まる!

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