第62話 丁寧な作業に意識を向ける
「アレスさん、今日はここまでにしましょう」
「おお、もうこんな時間か」
「長い時間お疲れさまでした。最後の方はだいぶいい感じになってきていましたよ」
「そうか……う~ん、もうちょっとでなんか掴めそうって感じなんだけどな」
「それなら、明日も講習に参加してみませんか? 定員にもまだまだ余裕がありますし、僕から見ても、もう少しやり込んだらグッとよくなるような気がするんですよね」
「そうだな、それなら頼もうかな」
「わかりました、僕の方で手続きをしておきますね、他の皆さんもどうですか?」
なんと、今日参加した講習生全員明日の講習にも参加することに決めたのだった。
解体士に舵を切るつもりだった青年はもともと来週にあるらしいギルドの解体士採用試験までは継続参加の予定だったらしい。
そして、雑用のスペシャリストを目指す青年もいい機会だし、解体講習費用がかからない今のうちにもう少し解体の腕を磨くことにしたとのこと。
それから、天才解体少年はやればやるほど上達するっていう状況が楽しくてしょうがないらしく、解体にハマりかけてるみたい。
そんなわけで、明日も参加することに決めたそうだ。
ちなみに本日の講習生で彼のみが解体報酬をゲットするに至り、お金が稼げるからっていうのも理由としてあるみたい。
この、彼しか報酬を得られる水準に達しなかったっていうのは、地味に悔しい気持ちもあるが、認めざるを得ないほど鮮やかな手並みだったのも確かだった。
いや、別に俺とほっそりーずの解体技術も一冒険者の作業としては十分ではあるんだ。
ただ、プロの解体士の仕事はもっと上の技術だってだけの話なんだ。
そして俺の場合、以前ザムトルのオッサンが下っ端がどうのとか言ってたから内心、プロとはいえ解体士の最低限の水準っていうのを舐めてた部分もあった。
うう、謙虚さがまだまだ足りんね……
まぁ、そんなわけで俺とほっそりーずは天才解体少年への対抗意識を地味に燃やしているわけだ。
この真っ当な形のライバル意識っていうのは人を成長させてくれると思うから、俺たちは天才解体少年の存在に感謝しなきゃだね。
そんなわけで、今日のところは講師の解体士にはお礼と、講習生同士はまた明日頑張ろうぜと激励し合って解散した。
いやぁ、今日の解体講習はなかなかに充実した時間だったと思うね。
やっぱ俺って、大ざっぱっていうか、力押しみたいなところがあるから、こういう機会に丁寧な作業に意識を向けるのはすっごく貴重な経験だったと思う。
そんなことをつらつらと考えながら、学生寮までチュロスをかじりながら帰った。
このザクザクした食感がたまらないね。
そして部屋に戻り、まずはみなさんお待ちかねのシャワーシーンをサービスしちゃう。
まぁ、魔纏を常時展開しているから返り血や脂的なものを一切浴びてないし、表面的にはキレイなもんなんだけどね。
なんか、部屋に戻って来てからシャワーって言うのが習慣もしくはクセになっちゃって。
それと、魔纏のお陰でエプロンもキレイなわけで、エプロンの意味は……って感じだけど、まぁそれはいいね。
とか言っているうちに、シャワーを浴び終わった。
さて、夕食を食べに行こう。
今日は頑張ったから、きっとご飯も美味しいだろうね!
「あの野郎マジ調子に乗りやがって!!」
「気持ちはわかるけど、落ち着きなよ」
「そうだヨ、彼の人生今がピーク、あとはどん底ヨ!」
ああ、また更にボルテージが上がって来てるみたいだね。
しかし、あの語尾がちょっと変な奴の物言い、単なるイキりじゃなかったとしたら主人公君、そろそろヤバそうだね。
まぁ、彼が本物の主人公の器なのだとしたら、その辺のモブ助など物の数ではないだろうけどね。
ゲームでも何度もアレス君と衝突し、その度に跳ね返していたし。
とりあえず、俺を変に巻き込まないのなら好きにやってくれって感じだね。
それに、言ってもこの学園の生徒はどいつもこいつもお坊ちゃんだから、命に関わるほどの問題にまでは発展するまい……最悪最上級ポーションもあるし。
しかも、下手したら家同士の問題で済まず、派閥同士の争いにまで発展しちゃうだろうからね。
そんなリスクを負いたい奴なんかおらんだろうから、基本は上から目線で文句を言って終わりで肉体言語が飛び出すのは稀だろう。
とはいえ、加減を知らん馬鹿がいた場合は……責任を取って追放でもなんでもされるがいい。
そんな感じで、いきり立ったり、謀を企ててますみたいな顔をしている奴らを冷ややかに眺めながらの夕食だった。
う~ん、明日の夕食は講習生たちを誘ってどっか食いに行こうかな、お疲れさん会みたいな感じでさ、その方が楽しそうだ。
そうして部屋に戻って来た。
今日の解体作業を頭の中で反芻し、明日に向けて何度もイメージトレーニングを行い、ある程度のところで精密魔力操作に切り替えてしばらくし、就寝とした。
翌朝、まずはいつも通り朝練の時間。
今日も解体手引きの冊子を音読しながら魔力操作ウォーキング。
既に内容は頭に入っているつもりではあるが、意外と重要性を感じずに読み流していたところもあるかもしれないので、そういった部分の確認も含めて実際の解体風景のイメージと照らし合わせながら読み込む。
こうしてきっちり1時間ほどの朝練を終え、シャワーと朝食を済ませて、まずは昨日と同じように昼の集合時間まではモンスターの討伐をこなすつもり。
「1日経ってみて改めて試してみたけど、やっぱゴブリンたちは俺の魔力に触れた瞬間、大慌てでその場から逃げ出すね……」
ついつい独り言が漏れちゃう。
ま、ゴブリンには嫌われてしまったので仕方ない、これからはオークをメインにしよう。
よろしくね、オークたち。
「ブゴォ!!」
「おお、さっそくだね、ほいっ」
とまぁ、あっさりと眉間をつららで貫く。
そしてさっとマジックバッグに回収。
昨日の解体作業を経験したことで、モンスターを倒した後はノロノロしてないで速やかにマジックバッグに回収した方がいいことを学んだ。
いやまぁ、そりゃそうだろうってなもんだけど、鮮度や解体のしやすさっていうのを実感したのは大きい。
そうでなければ、頭では理解してても、まぁいいやって気持ちに流されやすくなるからね。
とはいえ、これは余裕のあるとき限定の話だけどね。
回収することに意識が向き過ぎて、他が疎かになっては本末転倒だ。
実際それでミスって怪我をした冒険者もいるみたいだし。
そんな感じで、午前中のオーク狩りを終えた。
討伐数としては、オーク16体にゴブリン18体だった。
そうだ、今日の講習の最後に、この狩ったオークを1体出して、頑張った成果の集大成としてオークの解体にみんなでチャレンジしつつ、そのあとは流れでオークの焼き肉でお疲れさん会をするっていうのよくね?
腹内アレス君が大きくうなずいてるし、名案だ。
そうと決まれば、ちょっと早めにギルドに行ってザムトルのオッサンかタカテスに提案してみよう。
よし、それじゃあ学園都市に戻るとしますかね。
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