第61話 新しい方向性を模索
「どうも、タカテスっていいます。僕がアレスさんの解体演習のサポートをするので、わからないことがあったらなんでも聞いてくださいね」
「ああ、よろしく頼む」
俺の担当になった現役解体士であるが、ほっそりした体格の真面目そうな雰囲気の青年だ。
俺の中の解体士のイメージはザムトルのオッサンみたいに、ガタイがよくて豪快な感じだったのだが、さっきの戦闘が苦手そうな講習生といい、意外とこういうほっそりした人も多いんだなって思った。
もちろん、他の講習生担当の解体士にはゴツイ人もいるけどね。
そんな感じで、さっき買った解体ナイフを手に取る。
「一応ギルドでも貸し出しはしていたのですが、アレスさんは自分用を準備していたのですね。それに、いいナイフをお持ちだ」
「ああ、技術がない分を道具でカバーしようと思ってな」
「そうですね、切れ味が悪いと変に力が入って使いづらかったりしますからね、道具にこだわるのは大事なことだと思います。それに、丁寧に扱えば長く使えるので、結局は安上りだったってことも多いですし」
まぁ、解体士がいいナイフと言うように、高級品を買ったった。
使われている素材が単なる鉄ではなく、魔鉄と呼ばれる魔力を帯びた鉄なのだ。
ミスリルなどの魔法金属ほどではないが、魔力をある程度通すので、武器の素材としても人気があるが、こうした作業用の道具としても非常に人気がある。
それで、武器ほど大量に素材を使わないし、魔鉄の含有量にもよるが、一般家庭でも手が届く値段で売られているのだ。
そして、この魔鉄であるが、普通の鉄より物がいいというのは当然のこととして、魔力を通すことで包丁なら切れ味を増したり、刃こぼれしづらくなるなどの効果がある。
また、食材を切るなどの料理に使う程度なら、魔力量が少ないと言われる平民でも十分足りるのだ。
そのため、平民の間で「奥さんに魔鉄の包丁1本も買ってやれない奴は男じゃない」なんて言葉があるぐらいだし、主婦の間では魔鉄製の調理器具マウントみたいなものもあるらしい。
ちなみにではあるが、ナミルさんの使う調理器具は全て魔鉄製だった。
そのことからしても、リッド君のお父さんは夫としても立派だったんだなと思わずにはいられないね。
そんなこともちらっと考えつつ、解体演習の1体目をスタートさせた。
イメージは完璧なはずなのに……なかなか上手く行かない。
ふとした瞬間に、手順を飛ばしてしまったり、次の作業を忘れてしまったり……
更に言えば、思い切りが足りないせいか、切り口が汚いなど、反省点がいくつも出てくる。
一応タカテスは「初めのうちはみんなそうです」とか言ってくれるけど、違うんだ、俺は「アレスきゅん、しゅごい!」を求めてたんだよ……
しかもなんか、同じ講習生の少年がスイスイ上達していくのが目に入って、余計切なくなった。
それも、ギルド貸し出しのなんてことない鉄製ナイフでだよ?
なんだろう「弘法筆を選ばず」っていうのは彼みたいなことを言うのかなって思っちゃったね。
きっと彼、前世なら天才解体少年としてテレビに呼ばれてただろうね。
あと、他の講習生のほっそりーずの2人は俺と大差なかった。
ただ、道具のレベルを加味すると俺の方がヘタクソ疑惑が持ち上がる、ぐぬぬ。
ま、まあね、もともと俺は前世で工作とかあんま上手くなかったし?
アレス君もそういう細かい作業大っ嫌いだったし?
だ、だから、こんな感じになってしまうのも仕方ないじゃん?
……はぁ、言い訳してても悲しくなってきた、頑張ろ。
そうして、2時間ほど解体作業を続けたところでタカテスから声がかかる。
「アレスさん、いったん休憩にしましょう」
「ん? ああ、そうだな」
周りを見てみると、講習生たちはみんなバテバテの汗びっしょりでぐったりしている。
特に、天才解体少年は体力の限界らしく、大の字になってその辺に転がっている。
やっぱ、解体って体力使うよね。
まぁ、俺は運動用魔力操作をフル稼働させていたから、その辺はわりと余裕がある。
そんな中で、1人だけポーションをゴクリと行くのもなんだかなという気がしたので、周りのみんなにも配ってあげた。
すると、バテバテの講習生たちが特に喜んでくれたので、あげた甲斐があったなって思った。
ま、俺たち同じ目標に向かって努力するライバルであり仲間だからね、助け合っていこうぜ!
そして休憩中の会話によると、ほっそりーずはやっぱ戦闘方面の冒険者活動に限界を感じて新しい方向性を模索しに来たらしい。
冒険者の登竜門的な1人でオークを狩るっていうのが出来ないまま数年を過ごしているうちに、組んでたパーティーメンバーから実力的に取り残されてしまったらしくてね。
いや、別にそれで追い出されたとか言うわけじゃないけど、本人の気持ち的にツラかったみたいでさ。
そして、1人は完全に解体士に舵を切るつもりで、もう1人は雑用のスペシャリストみたいな方向性を考えているらしい。
なので、解体の他にも料理や装備品のメンテナンス、ダンジョンのマッピングや罠の解除みたいな技術の講習も受けているんだってさ、頑張るねぇ。
それから、天才解体少年は11歳で年齢的にモンスターの討伐はまだちょっと早いという判断により、今のうちに必要そうな技術を学びに来たらしい。
ただ、解体の才能がありそうってことで、担当の現役解体士にも解体士の道に誘われてて、それもアリかなって感じらしい。
それと、俺のことはゴブリン狩りとして噂で聞いていたらしく、たいして説明する必要がなかった。
そのとき、午前中にあったなぜかゴブリンに逃げられるって話をして、今後はゴブリンの総討伐数が少なくなりそうだって言ったら、現役解体士たちが明らかにホッとした顔をしていたのが印象的だった。
そんな感じで、休憩時間をみんなでいろんな話をしながら過ごした。
あとついでだから、ここでも魔力操作の凄い効果を熱く語っておいた。
そうすれば、体力的にバテる心配も減らせるし。
だけどやっぱみんな、一度は習ったことがあるらしいんだけど、飽きて続かなかったんだって。
確かにさ、前世でもこっちの魔力操作に似てる瞑想をやってはみたけど続かないとかよく言われてたし、そんなもんかもしれないなって気もしたね。
ただ、こっちの世界では魔力が明らかに存在しているだけに、やる価値はあると自信を持って言える。
だからこそ、そんな気持ちも込めて、強く勧めておいた。
一応、ゼスの体験談で歩きながらなら意外と出来たとかいう話なんかも交えてね。
そうしたら、みんなもまた魔力操作をやってみてもいいかなって気になったみたい。
そんなわけで、みんなにも是非魔力操作を楽しんで練習してもらいたいなって思う。
ついでがちょっと長くなっちゃったけど、そんな感じで休憩を終了し、演習再開。
それから、今日の講習生はいつもよりヤル気があったらしく、こうして長時間演習を続けていることにタカテスも感心していた。
まぁ俺もね、技術力が低いだけに、数をこなして熟練度を上げて行くしかないからね。
こうして、お互いに励まし合いながら、夕方まで一緒に演習を続けたのだった。
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