第64話 自由な感じがするんだよな
「解体講習参加の諸君……まぁ1人いないのは残念だが、よく頑張った! 今まで講習を開いてきた中でも、こんなに長時間演習に打ち込んだ冒険者は稀だ! その分かなり上達したし、教えた側としてもとても嬉しい! さて、もう待ちきれないって雰囲気が出てきているな、それじゃあ挨拶はこの辺にして、解体講習お疲れさん会のオーク焼肉を始めよう、カンパーイ!」
せっかくのザムトルのオッサンの挨拶なのに、待ちきれないって雰囲気を出したのはどこのどいつだ?
……腹内アレス君だよ、言わせんな。
それはともかくとして、ザムトルのオッサンによる乾杯の掛け声で焼肉がスタート。
まぁ、察しのいい人なら気付いたかもしれないが、神経質そうな男は不参加だった。
一応誘ってはみたんだけどね、心底迷惑そうな顔をして断られた。
まぁね、一匹狼を気取りたい気持ちもわかるし、もしかしたらなにかしらの事情を抱えていてそんな余裕がないのかもしれない。
とりあえず、今の俺に言えることとしては、人それぞれだよねってことぐらいかな。
不参加の彼のことはそれぐらいにして、今はオークの焼肉だ!
焼肉サイコー!
そしてなんか「焼肉に一番合う炭を調達してきました!」とか言ってタカテスがドヤ顔をしてるんだ。
それを受けて、腹内アレス君がタカテスの評価に加点したことは言うまでもないよね?
あと、タレに関しても「にんにくが効いててガツンとくるでしょう!?」とかこれまた得意そうな顔で言ってくる……
いやまぁ、それは認めるけども……って感じだった。
それをニヤニヤとした顔で見て来るザムトル……メシが絡むとタカテスがめんどくせぇ奴になることを知ってて黙ってたな?
そうして、オークのお肉を美味しくいただきながら、講習生の各自が担当だった解体士にお褒めの言葉をもらっていた。
俺も一応タカテスからお褒めの言葉をいただいたのだが、どっちかというとオーク肉の美味しい食べ方とかそういう話の方が多かった。
まぁ、腹内アレス君が大喜びだったから、いいんだけどね。
そんな感じで各自思い思いの会話を楽しんだ。
その中で、天才解体少年の進路であるが、昨日家に帰って家族に相談してみたところ、解体士の道に進むことを推されたらしい。
もともと両親としては討伐みたいな危険なことは反対だったってのもあり、解体士ならその心配もあまりしなくてよさそうだと喜んだらしい。
ま、下手すりゃ死ぬからね、そうだろうなって思った。
前世の俺みたいな不注意の塊のような死に方をした奴もいるけどさ……
それで本人としては冒険に対する憧れもまだいくらかはあるみたいだけど、解体士としてやっていくのも悪くないなって感じらしい。
そのため、担当の解体士から勧められたこともあり、さっそくではあるが来週にあるギルドの解体士採用試験を受けてみるんだってさ。
そこで、ほっそりーずの解体士に舵を切った青年に「これからは、同じ道を歩むライバルだな!」とか言われ、ワクワクした顔をしていたのが印象的だった。
なんかね、熱い男の友情が始まったって感じ。
そんなこれぞ男のメルヘンって感じの光景の後ろで俺は、わかってます感を出しつつウンウンって頷いておいた。
なんていうか「今日は君たちが主役でいいよ!」って気持ちだった。
それから、ほっそりーずの2人には感謝の言葉をもらった。
ポーションで疲労回復出来たから長時間の演習に耐えられたというのもあるが、ゴブリン狩りとして噂になるぐらいの実力があるのに、普通の冒険者ならやりたがらない解体に真剣に取り組む姿に刺激を受けたお陰で自分たちもここまで頑張れたとか言われた。
クール道に身を置く者としては、背中で語ることが出来たのだなと嬉しい気持ちにもなる。
ただ、最終的に頑張ったのはほっそりーず自身なのだし、中身は同年代とは言え、見た目はガキの俺に反感を持たず刺激とした2人の謙虚な姿勢が敬意に値することだなって思った。
それと、姉御って感じの娘なんだけど、彼女の場合は組んでるパーティーに解体を出来るメンバーがおらず、誰か1人ぐらいは覚えておこうということで、くじ引きに負けて仕方なく参加したらしい。
そんなわけで、最初はあんまりモチベーションが湧かなったらしいが、俺たち4人の熱心さに影響されて、最後まで残ったそうだ。
その結果、プロ解体士の水準には達しなかったが、冒険者としては十分なレベルにはなったので「これでパーティーメンバーに文句を言われないで済むよ。しかも美味いオーク焼肉もゴチになれたしな!」と喜んでいた。
そのときの笑顔に頬を染めモジモジするほっそりーず……そしてなんと天才解体少年も!
まったく、青春してるねぇ。
ただ、いい笑顔だし魅力的だとは思うんだけど、俺としてはちょっと若すぎると思っちゃうんだよな……実に惜しい……
そんな感じで、解体講習お疲れさん会のオーク焼肉はたくさんの笑顔の中で終わりを迎えた。
「ああ、腹内アレス君も満足してくれたし、楽しい時間だったなぁ」
学生寮への帰り道で自然とそんな声が出るぐらい、充実した1日だった。
なんか、元か現役かにかかわらず冒険者を経ているせいかみんな、自由な感じがするんだよな。
もちろん家族や仲間、生活のためっていう縛りはそれぞれにあるんだけど、根底に流れるものがそんな感じがする。
だからかわからないけど、学園の生徒たちがなんとなく窮屈に見えちゃうんだよな。
俺の感覚からすると彼ら、家や自分の地位とか名誉へのこだわり強いし、主人公君みたいな目立つ奴に対する嫉妬とか凄いなって思っちゃうし。
まぁ、地味に俺も魔力で目立っちゃってるサイドの人間だけどね!
いや、全然そんなことない自由な生徒もちゃんといるんだけどね、割合的にそういうのが多いなっていう個人の感想ってやつ。
そんなことをなんとなくぼんやりと思いながら部屋に戻った。
部屋ではお決まりのルーティンをこなしてベッドへダイブ。
心地よい眠りに誘われ一瞬で熟睡。
目が覚めると、新たな1週間が始まった。
今日からまた授業、エリナ先生に会える!
そんな嬉しい気分に浸りながら、まずは朝練である魔力操作音読ウォーキング。
解体に関しては一応一段落ついたので、今日からまた学園の教科書を読む。
そうして早朝の冴えわたる空気感の中、1時間の朝練を終え、シャワーを浴びてから朝食をいただきに食堂へ。
「聞いたか? アレが冒険者ギルドでモンスターの解体をやってたらしいぞ」
「ふ~ん、そうなんだ」
「まったく、侯爵家の人間ともあろう者が何を考えているんだか……あんなもの従者にでもやらせばいいだろうに」
「確かにそのような意見もよく耳にするが、かと言って我らにも全く必要のない技術というわけでもあるまい?」
「あんな下賤な技術、俺たち貴族には必要ない!」
「てかさ、他人がどんな技術を学ぼうと僕らには関係ないことなんだから、どうでもよくない?」
「なにを言ってるんだ!! 俺たち貴族全体の沽券に関わることなんだぞ!?」
「そんな大げさな……」
「……実家の領地の多くがモンスターの森に隣接していることもあって、我も既に解体の基礎を学ばされたのだが……すまんな」
「い、いや……それは……」
やめて、私のことで争わないで! って感じかな?
それにしても、貴族全体の沽券ねぇ……
俺としては正直、そんなん知ったことかって思っちゃうな。
どうせ卒業後は冒険者として自由に生きるつもりだし。
やっぱこの辺の発想が窮屈に思えるんだよな……まぁ、ソエラルタウト家は優秀な兄上が継いでくださるから俺としては楽でいいけど。
こうして微妙な空気を感じながらの朝食を済ませ、お待ちかねのエリナ先生の授業!
よっしゃ、気持ちを切り替えてこ!!
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