第652話 初めて聞いた名前

 恒例の王女殿下によるポーション挿入という儀式。

 そこで、主人公君の胸ポケットに王女殿下がポーションを挿入する姿を見ていて、原作ゲームのプレイ中に王女殿下の好感度が高いと、このシーンがムービーとして流れるんだっけ……とかのんびり考えていた。

 あと、このシーンの直後に原作アレス君が主人公君に「勘違いするなよ! この痴れ者が!!」とか文句をいったりしていた記憶なんかもある。

 まあ、王女殿下としても公平な態度でこの儀式を進めないとならないのだろうけど、やっぱり親愛の雰囲気っていうのは、出さないようにしていたとしても、どこかしら出てしまうものなのだろう。

 ついでにいうと、こういうタイミングで文句をいうのが原作アレス君に割り当てられた役割でもあったわけだね。

 ……ん? そう考えると……俺も主人公君に文句をいったほうがいいのかな?

 とはいえ、主人公君と王女殿下が上手くいくぶんには一切の文句もないからなぁ……むしろ応援したいぐらいだし……

 う~ん……でも、なんかいっといたほうがよさそうな気もしてくるんだよなぁ………………ハッ! これが原作ゲームの強制力!?

 まあ、実際のところは分からんが……ちょっくら主人公君を煽っとくとするかね……


「お前は、えぇと……確かラクスルといったか……」

「いや、ラクルスだ……今さら名前を間違えられるなんて思ってもみなかったけどな……」

「おお、そうだったか……まあ、お前の名前など、きちんと覚えておく必要があるのかどうかといったところだが……」

「おいおい、なかなか辛辣じゃないか……」

「まあ、名前のことはともかくとして、一つ忠告しておいてやろう」

「へぇ、優しいんだな?」

「まあな……とはいえ、さほど大げさなことをいうわけではなく、内容としては簡単なことだ」

「ふぅん、簡単なことねぇ……まあいいや、それで?」

「それは『出し惜しみせず、最初から全力で来い』ということだ……さもなくばお前は何もできず、ただただ王女殿下の前で無様に恥をさらして終わりとなってしまうだろう」

「……なるほど、そういうことね……オーケーだ、お言葉どおり最初から全力で行かせてもらうとしようじゃないか!」

「うむ、その意気だ……そして、くれぐれも俺をガッカリさせてくれるなよ?」

「アンタこそ! 余裕ぶって、オレのことを甘く見過ぎないようにな!!」

「フフッ……いいぞ、その調子で心を熱く燃やすがいい」

「いわれなくても! オレの心は熱く燃えてるさ!!」

「さて、お前たち……おしゃべりはそろそろいいか?」


 ここで、審判の先生から声がかかった。


「お待たせして申し訳ありませんでした、こちらは準備完了です」

「こっちも、大丈夫です!」

「よし分かった……それじゃあ、両者構えて!」


 そういって審判の先生が右手を天に掲げ、振り下ろすと同時に……


「始めッ!!」

『今、審判の掛け声とともに2回戦第1試合! アレス・ソエラルタウト対ラクルス・ヴェルサレッドの試合が開始となりました!! そこでスタンさん、1回戦でアレス選手は魔法をメインとして、ラクルス選手は剣術をメインとして闘っていたわけですが……この試合、どういった展開になるとお考えですか?』

『そうですねぇ……少し前までのアレスさんは、まさに規格外ともいうべき保有魔力量の多さから魔法士として注目される存在でした。それに加えて最近は剣術にも力を入れて取り組んでいるようで、剣士としても注目を集め始めています。そこで、これまで見てきたアレスさんの闘いぶりからすると、どうやら相手の戦闘スタイルに合わせる傾向があるようなのです。それらのことを踏まえるとこの試合、剣術が得意なラクルスさんにアレスさんが合わせ、剣術勝負となるのではないかと思っています」

『なるほど、剣術勝負ですか! そしてスタンさんのおっしゃるとおりの展開というべきか、試合開始から両者、猛烈に木刀と剣で打ち合っています!! ここでスタンさん、剣術についての話ですが……まず、ラクルス選手が使っているのは、私たちカイラスエント王国民にとってお馴染みともいえる王国式剣術ですよね?』

『はい、ラクルスさん……というよりはヴェルサレッド家が独自に込み込んだのだろうと思われる動きもところどころ見受けられますが、基本的には王国式剣術を使っているといえるでしょう』

『独自に組み込んだ……』

『ええ、例えばですね……ほら、今見せた上段からの振り下ろしからのつなぎ方なんかは、割とラクルスさん独自の動きになっているといえるでしょう』

『あぁっ、いわれてみれば確かに! 少し独特かもしれませんね!!』

『でしょう? あの場面、通常の王国式であれば、相手からの反撃に備えた動きとなっていたはずですが、ラクルスさんはさらに攻撃を加えようとしましたからね』

『そうですねぇ……もし私があの場面にいたとすれば、おそらく防御態勢に入っていたと思います。とまあ、私の話はともかくとして、スタンさん……アレス選手の使っている剣術はレミリネ流というそうですが……スタンさんは知っておられましたか? 私はアレス選手がそういっているのを聞いて、初めて知ったんですよ』

『それなのですが……実は、私も初めて聞いた名前なんですよね……』

『えぇっ!! そうなのですか!?』

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