第419話 難易度に釣り合ってない

 階段を上り終え、スライムダンジョン19階に到着。


「この色とりどりのスライムたちを見れば……これまでの総決算といったところかな?」

「さすがにユニオンスライムこそいないようですが、アレス様のおっしゃるとおりでしょう」

「でもさ、19階にもなってノーマルで居続けるスライムってどういうつもりなんだろうね? 進化したくなかったのかな?」

「……彼らには『自分はあくまで一兵卒』という気概があるのかもしれない」

「そういえば領兵の中にも、あえて昇進を断るなんて方もまれにいらっしゃいますものね……」

「ふむ……そういうスライムのほうが、半端な進化個体より強いかもしれないな」

「そうかもしれませんね。いずれにせよ、気を引き締めて挑むべきでしょう」

「ああ、違いない……それじゃあ、そろそろ行こうか」


 こうして、スライム軍団との戦闘が始まる。

 そして18階のときにも感じたが、ここ19階ではジェネラルを中心として連携がさらに強化されているようで、なかなかに強敵度が上がっている。

 その例として、地と水のマジシャンが連携して泥水を生成し、こちらの進行を阻害しようとしてきたり、火と風のマジシャンがファイヤーボールに風属性で威力を増幅させてきたりと、いろいろやってくるのだ。


「わっ、まぶしっ!」

「……この衝撃、ナイトが物理攻撃を仕掛けてきましたわね」

「連携とは、生意気」


 とまあ、光属性の魔法で目くらましをして、その隙に近接戦闘組が距離を詰めて攻撃を仕掛けてくるとかね。

 そして今は闇属性の魔法を煙幕のように展開し、姿を隠しているようだ。

 そこでこちらが敵を見失ったと判断したのだろう、四方八方から魔法を撃ち込んでくる。


「なかなかやるじゃないか……でも、魔力探知があるから君らの居場所はお見通しさ、残念だったね」


 というわけで、反応のあった方向につららを射出。

 そして暗闇が晴れたところを見ると……


「ナイトが……味方を守ってつららに串刺しになってるっ!」

「……敵ながら、見上げたものですわね」

「あのナイトに守られたノーマル……もしかして新米?」


 その光景を目にして、思わずスケルトンダンジョンにいた身なりがキレイでカスみたいな騎士クラスのスケルトンたちのことを思い出してしまった……


「ギュワァッ!!」


 その一瞬の隙にジェネラルは号令を発し、マジシャンたちから魔力を集めてトルネードを生成。


「その程度で、俺の障壁魔法を突破できるとは思わないことだな」


 こうして俺たち全員を囲んだ障壁魔法により、トルネードを無事に防御。


「今の大技で、魔力を使い切ったみたいだね?」

「ええ、そのようですわね。そして彼らもなかなか素晴らしい連携でしたが……」

「相手が悪かった」


 魔力を使い尽くしたこともあってか、その後は精彩に欠けるスライムたちを討伐していく。

 このような団体戦を何度か繰り返し、ついに19階を攻略完了。

 そして20階に上り、ボス部屋前のスペースでしばし休憩。

 そこで改めてドロップ品を確認。


「19階まで来て……なんでガム?」

「……19階の難易度に釣り合ってない」

「ええ、そうですわね……ガムでしたら1階のドロップ品でもよかったぐらいでしょうに」

「あ、あはは……はは……そだね」

「おやっ? このガムには『サンウーロン』が配合されているようです」


 えぇ……そこはキシリトールじゃないんだ……

 というか俺もよく知らんのだが、前世で父さんがキシリトール配合のガムを見て「俺が子供の頃はサンウーロンだったんだけどなぁ」とかしみじみ語ってたのをかろうじて覚えているだけだし。

 それから、このダンジョンに対して今までずっとゴキゲンだった腹内アレス君であるが、ここにきて初めて不機嫌を表明していらっしゃる。

 そりゃあ、お腹にたまらないもんね……


「そしてお菓子以外のドロップ品は……ランニングシューズということですわよね?」

「……中敷きと被ってる」

「あ、あはは……はは……そだね」

「まあまあ、このダンジョンに挑戦する方みんながランニングシューズを持っているとも限らないのですから、これはこれでいいではありませんか……それにほら、今回は『平静』のロゴも入っていませんよ?」

「ねぇ、それってこのシューズ側面の『HS』のことだよね?」

「やっぱり『HeiSei』……」

「ギドさん……分かっていながらいいましたわね?」

「はて?」

「しらじらしい」

「ほんとうだよねぇ」


 なんてギドが3人娘にジト目を向けられているが……

 そういえば、前世のランニングシューズの側面にも各メーカーのロゴとかが付いてたし、たぶんそういう感じなんだろうなぁ。

 そしてここまでくるあいだにも、うすうす感じるものがあったけど……これってシリーズ装備だね。

 ああ、シリーズ装備っていうのは、読んで字のごとくだと思うけど、同系統で装備をそろえるとプラスアルファで効果を発揮するっていう装備のことさ。

 これはまあ、まともな装備もあるけど、どっちかというとネタ装備の意味合いが強い。

 例えばそうだな……メイド服にホウキなど、全身をメイドに関する物でそろえると「シリーズタイプ:メイド」といって素早さや器用さのステータスがアップし、加えてアイテムによる回復量アップみたいな効果があったと記憶している。

 ただね……そういうネタ装備でふざけていると、ヒロインたちからの好感度が下がったりもするんだ。

 確か「猫耳カチューシャ」「鈴付きチョーカー」「汎用ふわふわ着ぐるみ」「後付けしっぽ」そして「にゃんこグローブ」といったシリーズ装備をすると、特に獣人ヒロインからの好感度が容赦なく下がったハズ。

 とはいえこの「シリーズタイプ:猫」はレアドロップ率アップという優秀な効果が付いているので、決してバカにはできない。

 いや、それどころかクリア後のアイテム収集というやり込みの際、俺たちプレイヤーから「招き猫様」と呼ばれて親しまれていたぐらいだ。

 とまあ、そんな感じでこれも「シリーズタイプ:平静」じゃね? って話をしてみた。


「シリーズ装備といいますと……職人が装備一式を作る際、会心の出来で完成したときに特別効果が付与されている装備のことでしたわね?」

「うん、そんな感じだったねぇ……あんまり出回ってないから忘れてたよ」

「まさにレアもの」


 なるほど、この世界ではシリーズ装備という概念を、そんなふうにして扱っているんだなぁ。


「まあ、特別効果があるとはいえ、それぞれ別個に優秀な装備をそろえたほうが手っ取り早いともいえますからね」


 ギドのいうとおりで、俺も原作ゲームを普通にプレイしていたときはシリーズを無視して、それぞれ強い装備で固めていたし、たぶんほかのプレイヤーたちもそうしていたんじゃないかな?

 ま、シリーズ装備の検証はボスを倒してからゆっくりするとして、そろそろ20階の最終ボスに気持ちを切り替えるとしましょうかね。

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