第251話 まだ全力を出していないわね?
「それじゃあ、反省会を始めましょうか」
模擬戦を終え、談話室に移動してきた俺たちは、本日の反省会を始める。
「ソイルは魔法の暴発を恐れているとのことだったが、昼間の森の中や先ほどの模擬戦ともに、暴発させずにこなせたようだな」
「そうですね」
「うん、一歩前進って感じかな?」
「そうね……でもソイル、あなたまだ全力を出していないわね?」
「……ッ! えっと、それはその……」
ロイターたちのいうように、本日ソイルは魔法を暴発させなかった。
だが、ゴブリンを一発で仕留められていなかったところを見るに、ソイルが全力を出していなかったというのは、そうだろうと思う。
「ふむ、ファティマさんのいうとおり出し惜しみはしていただろうな……」
「確かにそうかもしれません……ですが、魔法を暴発させないように段階を踏みながら出力を上げていくというやり方も悪くはないと思いましたが?」
「そうだね、ちょっとずつできるようになっていけばいいんじゃないかな?」
「それも一つの方法ね……ただし、ソイルの場合このままだと、早い段階で頭打ちになると思うわ……だってあなた、力を出したがらないのだもの」
「う……」
「森の中を走りだす前、『暴発を気にせず、思い切り魔法を撃て』と私たちはいったわよね?」
「……すみません」
やべぇ、ソイルがファティマに詰められ始めたぞ。
ここは擁護せねばならんか?
「そうはいってもファティマ、自分の魔法で仲間を……それも主君を傷つけたともなれば、やはりためらいがあっても仕方ないんじゃないか?」
「それはつまり、ソイルは魔法を暴発させると私たちが怪我をすると思っていたということかしら? 随分と甘く見られたものね」
「いや、そういうことじゃないだろ……」
「いえ、そういうことよ……私たちは自分の身を守れるのだから、思い切り魔法を撃てといったのに、ソイルはそうしなかった……結局ソイルは私たちのことを信じていなかったということではないの?」
「……そ、そんなつもりは!!」
「ないといえるの? それならなぜ、中途半端に力を抑えたの?」
「……えっと、その……すみません」
「ファティマちゃん、もうそれぐらいで……」
ソイルも手を抜いたわけではないのだろうが、かといって力を出し切ったわけでもなかった。
ファティマとしては、そこを見過ごすわけにはいかなかったというわけか。
それもわからんではないが、今のソイルにはちと厳しいような気もしないではない。
「確かにファティマさんのいうとおり……今のソイルに必要なのは、本気を出すことだったかもしれないな」
「なるほど、力を出すことを恐れていてはいけないということですね」
「そういうことよ……それに、言葉をいくら矯正したところで、芯の部分がこうだと、いつまで経っても中途半端なまま……前にもいったけれど、本来ならあなたは以前のアレスみたいな魔法に特化した人の天敵となれるだけの素質があるのだから、こんなところで立ち止まったままではいけないわ」
なんか、微妙にディスられた気もするが……まあいいか。
それにしても、厳しい言葉を並べていたファティマだが、ここにきて慈愛のこもった言葉をかけ始めた。
これによって、ソイルの沈痛な面持ちが和らいできたぞ。
「……ファティマさん……そう、ですね……僕が、間違っていました……すみません……これからはもっと魔力を込めて、魔法を撃ちます」
「ええ、そうしてちょうだい」
なんというか……女の子からこれだけ落差を利かせた言葉をかけられたら、納得してしまうしかないのかな。
いやぁ、でも……正直なところ、俺が詰められていたわけじゃないのに、怖いなって思っちゃったし、本人であるソイルだとなおさらだっただろう。
いずれにせよ、今回のことでソイルは多少なりとも前に進めるはずだ。
明日からが楽しみだな。
「ソイル、明日からのお前の魔法、期待しているぞ!」
「明日こそ、思いっきりですよ!」
「自信を持ってね!」
「そういうわけだから、明日の目標は魔法を暴発させることね」
「えぇ……あえての暴発、ですか?」
「ええ、そうよ」
「まあ、それぐらいがちょうどいいのかもしれないな」
「そうですねぇ」
「あはは……いいのかな、それで……」
「ソイルよ、うちのパーティーはファティマがリーダーだからな……指示には従うように」
「は、はい」
こうして、ソイルの特訓は新たな段階に突入することになったのである。
ソイルよ、己の恐怖心を越えていけ!
そんな感じで、今日の反省会が終わった。
「それじゃあ、明日も昼食後に学園の正門に集合よ、遅れないようにね」
「みんな! また明日頑張ろうね!!」
そういって、ファティマとパルフェナは大浴場の女湯へ向かった。
ちなみに、明日は休日なのだが、午前中は各自で勉強を頑張りましょうということになった。
まあ、午後からランニングと魔法の練習はキッチリやることになるからね、勉強時間も確保しとくべきってところだろうさ。
「さて、私たちも男湯へ向かうか」
「そうですね」
「よっしゃ、今日の疲れを全て流すぞ! な、ソイル!!」
「……アレスさん、痛いです」
「フッ、これがスキンシップというものだ」
「そうか、ならば私も一発いっとこうか」
「では僕も……ソイルさんも、遠慮なさらずアレスさんに一発入れてあげましょう」
「え、えぇ……」
なんとなく、ソイルの背中をスキンシップと称してビターンと叩いたった。
すると、ロイターとサンズも便乗し、俺の背中にビターンとかましてきた。
もちろん、2人に促されてソイルもだ。
なので俺もロイターとサンズに一発お見舞いした。
そんな感じで、俺たちは大浴場の入り口前で背中を叩き合った……当然、魔纏は解いておいた。
こうして4人は、背中に3枚ずつモミジの葉っぱを貼り付けることになったのである。
「……あいつら、何やってんだ?」
「……いい」
「そうね……実にいいわね」
「え!?」
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