第385話 並の冒険者には荷が重い

 今日はダンジョンの日! 今日はダンジョンの日!!

 なんてノリノリでウインドボードのフウジュ君をかっ飛ばす!

 というのはいささかオーバーな表現で、ヨリのペースに合わせて飛ぶ。


「アレス様がダンジョンを楽しみになさっておいでのようですわね?」

「そうだね~ま、私らも久しぶりにガンガン暴れちゃう? 私のメイスも、モンスターの肉の感触を求めているみたいだし……なんちゃって」

「ダンジョンのモンスターなら素材の状態を気にしなくていいから、荒っぽいノムルにはうってつけ」

「確か……ダンジョンのモンスターは討伐後にドロップ品を残すだけなのでしたわね?」

「そうそう! だから、思いっきりフルスイングできて気分爽快なんだよね!!」

「そのぶん空振りも多い……フォローする私の身にもなってほしいところ」

「あらあら……ノムルさんはサナさんに感謝しなくてはいけませんわね?」

「あ、あはは~どうもどうも~」

「あまり誠意が感じられないが……これもいつものこと」

「2人とも、それでよく続きますわねぇ」

「まあね! 私たちは親友だから!!」

「単なる腐れ縁」

「あ~ひっど~!」

「私は事実をいったまで」

「そんなことをいう子には……こうだっ!」

「……あっ! くすぐるのよくない! 今すぐやめるべき!!」

「まったく、仲のおよろしいことですわね……それと、今は空の上だということをお忘れなく」


 本当に仲のいい娘さんたちだねぇ。

 とまあ、そんなふうにワイワイしながら空を飛び、腹内アレス君が空腹感を示してきたところで……


「見えてきました、あの街です」

「ほう、あそこにダンジョンがあるのか」

「正確には、街から少し離れたところになります」

「……まあ、街のど真ん中にダンジョンがあったら、何かあったとき危ないもんな」

「そうですね……よっぽど自信のある方でなければ、ダンジョンを中心とした街づくりはできないでしょうね」


 つまり、強気な領主はそういうこともやっちゃうというわけだ。

 俺の感覚だと正直、そのうち管理をしきれなくなって街がモンスターに飲み込まれるんじゃないかって気がしてしまう。

 まあ、そういうところの住民は基本的に戦える人ばっかりなのかもしれんがね。


 とかいってるうちに、街に到着。

 さあ、まずは腹ごしらえだ! 食べるぞぉ~!!

 というわけで、適当に前世のファミレス的な店に入る。

 そして俺が選んだのは……「オークかつ定食」だ!

 やっぱり、これからダンジョンに挑むっていうんだからね、「勝つ」っていう験担ぎをしとこうかなって。

 といいつつ、単純にとんかつが好きっていうのもあるけどね。

 そんなこんなで昼食を楽しんでいたところ……店内で1人の少女があっちこっちのテーブルで何やら訴えて回っているのが気になった。


「お願いします! 助けてください!!」

「いや、ごめんね……オジサンたちにも、そんな余裕はないんだ……」

「そこをなんとか!」

「無理なものは無理なんだ……ほかをあたってくれ」


 ふぅむ?


「あのっ、どうか、お願いします!」

「おいおい、そういうのは冒険者ギルドで依頼を出すもんだろ?」

「お前も無理いうなって……スライムダンジョンなんか普通の冒険者は寄り付かねぇだろ、依頼を出すだけ無駄ってもんだ」

「ちげぇねぇ! ま、そういうこったから、お嬢ちゃんも諦めな」

「そんな……」


 スライムダンジョン……ということはつまり、主に出現するモンスターがスライムのダンジョンということだな?

 なるほどね、スライム……スライムかぁ~

 いや、前世で俺がプレイしたことのある数々のゲームの中で最弱モンスターとして扱われることが比較的多かった気はする。

 だが、逆に強キャラとして扱われることもあった。

 また、異世界転生の先輩諸兄の中にも、「最弱モンスターのスライムしかテイムできないけど、それを育てて最強にしました」みたいな感じで活躍されていた方もいらっしゃったはず。

 そんな感じでスライムの強さっていうのは、作品ごとにかなり極端なバラツキがある。

 では、この世界のスライムはっていうと……その辺の冒険者っぽいオッサンたちの反応からも分かるとおり、強い。

 というか、魔法を使えない奴にとっては戦いたくない相手といったほうがより正確かもしれない。

 というのも、この世界のスライムっていうのは、弾力性のあるボディによって物理攻撃が効きづらいんだ。

 まあ、上手く核を突いたり、平べったいハンマーかなんかでぺしゃんこにしたりすれば倒せはすると思う。

 ただし、そういった技術や腕力が要求されるんだけどね。

 でも、スライムの難易度の高さはそれだけが理由じゃない……奴らの体液である「酸」こそが一番厄介なんだ。

 奴らの酸によって武器や装備品が溶かされる……それが非常に困るわけなんだ。

 だって、痛んだら買い替えなきゃいけなくなるからね……冒険者たちにとって、そのサイクルが早まるのは避けたいところだろうことは容易に想像できる。

 あと、スライムのドロップ品は、通常でグミ。

 これは一応、食べれば体力とか魔力が多少は回復するんだけどね……でも「多少」で正直オヤツってレベルでしかないといえるかもしれない。

 それで、運がよければポーションをドロップする。

 でも、等級の高いポーションをドロップするのは、当然の如く相応に上位のスライムとなる。

 というわけで、ドロップアイテムも労力の割に渋いといえるかもしれない。

 まあ、実戦レベルで魔法を使えるのなら、遠距離から一方的に倒せるから、比較的戦いやすい相手になり下がるんだけどね。

 とまあ、こんな感じでスライムはぶっちゃけ並の冒険者には荷が重いモンスターというのが結論といえるかな?


「……ギドよ、あの少女が話しているスライムダンジョンというのは、俺たちがこれから行く予定のところだよな?」

「ええ、そのとおりです」

「よし……そこの君! 詳しい話を聞かせてくれないか?」

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