第39話 自然体でいられる

 昨日の夕食から今日の昼食まで、ちょっとしたタイミングであの取り巻き小僧どもが近寄ろうとするのを睨みつけて追い返すの繰り返し、正直面倒。

 それだけ追い返されてもまた来るって根性があったのなら、ゲームのアレス君を見捨てず最後まで支えてあげればよかったのに。

 戦闘では2ターンを越えたあたりでアレス君を置いて次々に逃げ始めるし……

 ストーリーでは裏切って全ての悪事をアレス君のせいにしたし……

 だから、あんま信用出来ないんだよな……いや、実はあいつらじゃない可能性もあるけどさ。

 CGでは取り巻きの顔が描かれてなかったし、戦闘グラフィックは全員同じで名前の表記もアレスの取り巻きで唯一の違いはアルファベットだけ。

 そんなわけで、この学園の男子生徒で本当は誰がゲームでの取り巻きだったのかわからないっていうのもあって、この学園の生徒とあんまりつるむ気になれなかったんだよな……

 ……まぁ、なんだかんだ言ってソロ活動するのが気楽っていうのが一番の理由だけどね。

 そんなことを考えながら歩いていると、エリナ先生の研究室に到着。

 ノックをして……さて、誰がいるのやら。


「どうぞ」

「失礼します」

「待っていたわアレス君、まずは紹介するわね、こちら……」

「ああエリナ君、私からするよ。宮廷魔法士団三番隊隊長、ドミストラ・コモルトランだ」

「ソエラルタウト侯爵家次男、アレス・ソエラルタウトと申します」


 ゲームで見た記憶はないな、アレス君の記憶にもない……まぁアレス君の記憶ってほぼ食べ物のことばっかだからな……

 しっかし、ダンディズム漂うイケおじの雰囲気に騙されそうになるが、その内に秘める武威とも言える魔力圧……このオッサンただもんじゃねぇ!

 さすがエリナ先生の所属していたところの隊長さんってだけはある。

 魔力量的には俺の方があるだろうから、戦ったとしても一方的に負けるとは思わんが、おそらく今の俺では経験の差、とっさの判断力で負ける気がする……

 この世界、つぇー奴がまだまだたくさんいそうだな……いいじゃん、ゲーム脳的にはレベル上げが楽しみになってくるよ!


「ふむ、戦力分析が済んだようだね……エリナ君、君の言うことはやはり正しかったようだ……どうだいアレス君、卒業後は宮廷魔法士団に来ないか?」

「……?」

「た、隊長! 言ったはずですよ!?」

「ん? ああ、そうだったな……いやぁ、優秀な子を見るとついつい勧誘したくなるのが私の癖でね……確か君は卒業後冒険者活動を本格化するつもりだとか」

「ええ、その通りです」

「いいね、私も若い頃冒険者をやっていたことがあるからな、あの経験は素晴らしいものだった! うむ、君にもきっと得るものがあるだろう。そうだな、卒業後すぐにとは言わない、いつか気が向いたら宮廷魔法士団の門を叩いてくれたまえ!」

「承知しました、お声がけありがとうございます」

「ああ、よろしくな!」

「……隊長、そろそろ本題に入りませんと」

「おお、そうだったな! いやぁ、すまんすまん……それでアレス君、君から報告のあった魔族の件、これについて王国を代表して私から礼を言う、ありがとう、本当によくやってくれた」


 そう言って頭を下げる隊長さん。

 なんかえらい気さくな人だが、戦って勝てるかを吟味していたのがバレてたと知ったときは正直焦った、別に魔力探知を使ったわけでもないのに……

 まぁ、経験的にそういうのってわかっちゃうものなのかもな……しかし、俺を宮廷魔法士団に誘ってくれるとはね、ちょっと驚いたが悪い気はしないね。


「そして、謝らなければならないことがある。今まで魔族の暗躍に気付かなかったこともそうだが、実は王宮内にも魔族が入り込んでいた。そして奴等が君の悪評の多くを誇張して広めていたようだ。そのことに気付かず放置してしまっていたこと、申し訳なかった」

「いえ、悪評を流されるような隙を見せた私の落ち度です」

「済まない、だがそれだけではない。 陛下や陛下直属の宮廷魔法士団、宮廷騎士団では既に君の評価がほぼ改まっているが……まだ王宮内に潜り込んでいる全ての魔族を発見出来ていないことと、君の悪評が強く根付いているため、君のことを未だに悪く思う者もいる。そのため、それを払拭するにはまだ少し時間がかかる……」

「いえ、ソエラルタウト侯爵家は兄上が家督を継ぐのですし、私は王宮に仕官するつもりもありません。そのような理由から、王宮内での悪評を気にする必要など私には一切ありませんので、何の問題もありません」

「そう……か」

「しかし、そうなりますと王国として魔族対策に動くことは難しいということでしょうか?」

「ああ、人魔大戦以来、200年かけて築き上げてきた人間族と魔族の融和を壊してしまう恐れがあるとして本格的な魔族対策に反対する派閥があるのだ……普通に穏やかに暮らしている魔族が大半で、そのような危険思想を持つ魔族が一部であり、かつそれを見分けるのが難しいというのもあるが……」

「なるほど、その主張もわからなくはないですね」

「よって、陛下直属の宮廷魔法士団と宮廷騎士団のみで対策にあたることになった」

「なぜ宮廷魔法士団と宮廷騎士団のみなのでしょうか?」

「理由は3つ、まずは陛下直属のため、王宮内の賛同を必要としないこと。次に単純に実力の問題、おそらく並の魔法士や騎士なら魔族に返り討ちになる。最後にこれが一番大きいが、我々宮廷魔法士や宮廷騎士は陛下と直接契約魔法を結んでいるため、裏切者が出ないことだ」

「そういうことでしたか、納得しました」


 なんというか、ゲームでは単に主人公を目立たせるために王国の対応が遅かったのだろうと思っていたが、一応そういう設定だったのね。

 だから、魔王が復活したあたりから王国が本気を出し始めるってわけか。

 この隊長さんやそれに近しいクラスの実力者が揃っていれば、総力戦で魔王を倒せたっていうのもわかる気がするし。

 まぁ、めちゃくちゃ戦死するからその後が悲惨だけど……


「そんなわけで、歯痒い気持ちもあるが、あまり目立たないように水面下で魔族の暗躍を阻止していくということに陛下と我々で決まった。一応これは極秘事項なのでそのつもりで」

「はい、反対派に知られると困りますものね」

「理解に感謝する。そして、今回の君の活躍に対する報酬だが、このような理由もあって陛下の個人資産から金銭で授与される……君の功績を公に出来ないこと、誠に申し訳ない」

「滅相もない。魔族全体との関係を考えれば妥当な判断です」

「ありがとう……そしてこれが、その報酬だ」

「陛下の御恩に感謝致します」


 ズッシリしてるね……中身はノールックでマジックバッグにインだ。

 中身を見てしまうと、おそらく眩い輝きに頬が緩んでだらしない顔になってしまうに違いない。

 そんな顔をエリナ先生に見せるわけにはいかない、あくまでもアレス君はクールガイなんだ。

 エリナ先生にだけはそう思っていて欲しい。


「そして私から、この短剣も受け取ってくれ。これには私の魔力紋が刻印されている。王国内であれば、これを見せれば多少の融通は効くと思うから、冒険者活動中に何かあれば役立ててくれると嬉しい」

「有難く頂戴いたします」


 これは地味に嬉しい。

 ゲームでも特殊アイテムとして出てきたが、偉い人に認められると貰える魔力紋入りの短剣。

 これは隠し要素的なクエストとかダンジョンに挑戦するための通行手形みたいなもんだね。

 この世界ではどういう扱いになってるのかは知らんけど、たぶん言葉通りいくらか無茶を通せるようになるのだろうから、ありがたいね。

 ちなみに、ゲームでは一応武器としても使えるし、偉い人の持つ武器だけあって普通に強い。

 ただ、他に強い武器もあったし、俺としてはなんとなく勿体ない気がして装備せずにアイテム欄の肥やしにしてただけだったけどさ。

 そうして報酬の受け取りも完了し、あとはそのまま隊長さんの若い頃の武勇伝とかを聞きながら、時間が過ぎて行った。

 聞いてて思ったけど、どっちかと言うと冒険よりもスカウト活動の話の方が尺が長かったように思う……面白かったから別にいいんだけどね。

 ただ、それだけにこの世界、眠っている才能がゴロゴロあるんだろうなというのは思った。

 まぁ俺も、リッド君と言う才能を発見したからね! なんとなく張り合ってみた。


「ああ、長く話し過ぎてしまったね、時間を取らせてしまって済まない」

「そんなことはありません。とても興味深いお話を聞かせていただき嬉しく思います」

「そう言ってくれると助かるよ。ああそうそう、今後王都に来ることがあったら、もしよかったら宮廷魔法士団にも顔を出してくれ、歓迎するよ」

「はい、そのときがありましたら、是非」


 そんなやり取りをし、今回のお話を終え、エリナ先生の研究室を後にした。

 いやぁ、宮廷魔法士団とかって言うからもっとエリート意識まんまんなのかと思ったけど、そうでもなかったね。

 むしろ、余裕というか実力に自信があるからいちいち虚勢を張る必要もなく、自然体でいられるってことなのかもしれないな。

 俺の場合は……アレス君の体と言うチートに酔って今はまだイキリ虫だからな……ああ言う余裕を持った大人の雰囲気っていうのもいつか身に着けられたらなって思うよ。

 ううむ、ダンディズム!

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