第14話 空腹感を忘れて

 小鳥のさえずりが優しく俺の目覚めを促す。

 今日も休日。

 この爽やかな空気に包まれながら、今日も俺は早朝の読書ウォーキングに向かう。

 お馴染みの設定資料集を携えて。

 そういえば、この世界に転生してから今日までめちゃくちゃ規則正しい生活を送ってるね。

 前世の最後の方とか、生活のリズムがめちゃくちゃだったし。

 ま、この世界で生き抜くためにはもっともっと強くなんなきゃだし、それこそゲームの強制力が何を仕出かすかわからないからね、魔王でも主人公君でも捻り潰せるようになっときたいよね。


 設定資料集ことサルでもわからせてもらえる歴史書も大体読めた。

 明日にでも図書館に返そう。

 こうして早朝の読書ウォーキングを終えたのだが、この習慣は続ける価値がありそうだから、明日からも早起きして続けて行くこととしよう。

 実に健康的!


 そうして本日最初のシャワーを浴びて、回復ポーション片手に少々くつろいでから朝食へ。

 今日は5割4分で行きましょう。

 腹内アレス君の許可も出たので一安心。

 1日につき0割1分ずつ食事量を減らして行けたら良いなと思いつつ。


 さて、朝食も終わったところで、今日の午前中も昨日同様に運動場へ。

 まずは体を温める意味も込めてのジョギングのつもりの早歩き。

 ある程度のウォーミングアップも済んで、受け、払い、受け身、突き、蹴りの基本練習をみっちりと行う。

 一撃先生の教えを守り、愚直に基礎を積み重ねる。

 本物の一撃になるように全身全霊を込めて一撃一撃を真摯に打ち込む。

 ふぅ、1時間ほどの基礎練習が終わった。

 ここで俺は休憩がてら貸し出し武器を見に、武器庫へ向かった。

 いろいろな武器に触れてみて、自分に合った武器を見つけなさいということで、自由に使えるみたい。

 おお、ゲームにも出てきたからあると思ってたけど、日本刀が置いてある。

 俺も日本男児だからっていうのもあるのかな、やっぱ憧れちゃうよね、ゲームでも使ってたし。

 ……でもな、手とか斬ったら怖いから木刀にしとこ。

 今、木刀ってしょぼくね? とか思ったかもしれないが、これが地味に侮れないのよ。

 モンスター素材であるトレントの木刀とかエグイよ?

 硬いし粘りがあるから折れない、しかも魔法が得意なモンスターなだけに魔力との親和性もバツグンと来たもんだ。

 ポテンシャルは天才魔法士のアレス君が前衛もこなすなら最適な武器だと俺は思うね。

 てなわけで、木刀を物色。

 ふむ、ここにあるのは普通の木材の木刀だね、まぁトレントの木刀は高級品だからね、仕方ないね。

 ま、今は訓練だからここにある木刀で素振りをさせてもらおうかな。


 やはり今回も動画内師匠の記憶を頼りに素振りを行う。

 ここでも一撃先生の教えが生きてくる。

 一振り一振りが俺をより高みへと連れて行ってくれる。

 腹内アレス君に止められるまでじっくりと素振りに打ち込み午前中が過ぎていった。


 シャワーと昼食を終え、午後からは学園から街に出てみようと思う。

 さっき話したトレントの木刀あったじゃん? あれ欲しくなったんだよね。

 まぁ、入学前のアレス君は体を動かすのが嫌いだったからね、剣術とかもやってこなかったから武器系統を持ってないのよ。

 だから、この際だから買っちゃってもいいかなって、お金は侯爵家から潤沢に持たされてるから問題ないし。

 一応予定では1週間後ぐらいから冒険者ギルドの活動もしていくつもりだからね、装備品も整えなきゃだし。


 てなわけで、やって来ました、武器屋。

 いや~並んでる武器たちを見るとワクワクが止まらないよ。

 それとやっぱ、一番人気は剣みたいだね、一番品数が多い。

 そして……お、あったあった、木刀見っけ、あとはトレント材のがあるかだな。


「何を探してるんだ?」

「ああ、トレントの木刀をな」

「ほう、若いのになかなか渋いのを選ぶんだな」

「魔法も使うからな、魔力の通りが良さそうな武器を選んでのことだ」

「なるほど、そういうことか、なら、これがお勧めだな」

「何か違いがあるのか?」

「木刀の素材となったトレントが今うちにあるなかで一番年輪を重ねた個体のだからさ。エルダーまでは至っていないが、それでも結構なもんだ、魔力の通りも良いと思うぞ」

「おお、それは良いな。よし、それにしよう」

「まいどあり」

「良い買い物ができた、ではな」


 武器屋の店主らしくいかついオッサンだったが、こちらの希望にぴったりの物を選んでくれたので好印象だね。

 しかもちょっとレベル高めのトレント材っていうのがウレシイ。

 いやぁ、素振りが楽しみになってきたよ。

 帰ったらめちゃくちゃ素振りしよ。

 

 あとは、普通の冒険者らしい服と装備を買っておこうかな。

 今着てるアレス君の私服さ、だいぶ地味めなのを選んだつもりではあるんだけど、やっぱまだ派手っていうか貴族感強いのよね。

 だから、もっとおとなしそうなのが欲しいなってね。


 ……やっぱさ、先輩転生者の皆さんに倣ってね、黒で統一しちゃいました。

 この世界的には普通のファッションセンスだから中二病とか言われても気にしない。

 そして、素材はブラックリザードの革製ってことで防御力も高いから安心だね。

 あとは、雑貨屋で見つけた冒険者セットとかいう解体用ナイフとかロープとかそういう細々としたグッズのセットをひとつ買っておいた。

 よし、これでいつでも冒険に出る準備は出来たぞ。

 あとはそれまでに俺がどれだけ強くなれるかってところだね。

 そうと決まれば、帰って素振りするぞ!


 男子寮に戻ってきてまだ夕食まで1時間ほどあったので早速素振り。

 部屋が広いし天井も高いので、部屋の中でやっちゃう。

 そして、木刀に魔力を通してみる。

 トレントの力を見せてもらおうか。

 ……すげぇ、なんか滑らか。

 自分の体内を循環させるときより、楽に魔力が通る、なんか意外だね。

 ステータスで表示されないからわかりづらいけど、明らかに攻撃力が上がってる感じがする。

 これは良いぞ。

 本格的に魔法騎士と名乗れる日が着々と近づいてるよ。

 よし、この波に乗れてる感のある今、思い切り素振りをしよう。

 

 その後、空腹感を忘れて素振りに没頭した。

 気付いた頃には食堂が閉まっていたのにはさすがに驚いたね。

 そのため当然、腹内アレス君は超ご立腹。

 ごめんって、素振りに集中し過ぎてて気付かなかったんだよ。

 まぁ、仕方ないので部屋に備え付けの冷蔵庫感バリバリの保存庫から食べ物を出して食べた。

 そう、元々アレス君は一日中食べてる系男子だからさ、男子寮に入るときにいっぱい準備してたんだよね。

 俺としてはそれを知ってたから、食堂で食べ損ねたら部屋にあるもの適当に食べれば良いやって思ってたのも原因としてはあるね。

 それは良いんだけどさ、拗ねた腹内アレス君をなだめるためにね、ちょっと食べる量増えちゃったのが痛かった。

 ま、その分は素振りで燃焼出来てたら良いなと願うばかりだね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る