第849話 コイツで最高の激辛体験をしてみるかい?

 まあ、このままマヌケ族への文句をタラタラ垂れてばかりいるわけにもいかんからねぇ……

 というわけで、適当に目に付いた店に入ってみることにした。


「へい、らっしゃい!」


 そこでは、威勢のいい店主の声で出迎えられた。


「ウチはなんでもそろってるからよ! 探してるモンがあるんだったら、なんでも言ってくれよな!!」

「……うむ」


 この元気のいいオッサンが売ってくれた商品が実は……ってなったら……うん、俺のハートの繊細な部分が悲鳴を上げてしまうかもしれん。

 いや、「お前がそんな繊細な男なワケないだろ!!」って意見も聞こえてきそうな気もするが……それは聞こえなかったことにしておこうと思う。

 とりあえず、営業スマイルなのかガチスマイルなのか分からんが、とりあえずニコニコ顔のオッサンが俺に声をかけられるのを今か今かと待っているようなので、声をかけることにした。


「そうだな……最近新しく入荷した調味料で、コレというものはあるか?」

「おう! 調味料だな!? それならいいのがあるぜ!! えぇと、あれはこっちの棚に……」


 まあ、夏以降ということなら、新しいヤツのほうがアタリ……いや、本来的にはハズレなんだろうけど、とにかく吸命の首飾りの粉末入りが手に入ることだろう。

 また、こんなふうに店員のオススメを尋ねたところでふと、学園出発前にエリナ先生にご馳走になったチャーハンの味を思い出した。

 確かあのチャーハンを作る際、エリナ先生も新しい種類の調味料を店員にオススメされたって話をしてくれたなぁ……

 学園に戻ったら、エリナ先生に「思いがけず、私もメイルダント領で新しい種類の調味料を買うことになりました」って話をすることになるかなぁ……?

 どちらにせよエリナ先生への報告用にいくつか実物が必要だろうし……うん、そのときのエピソードトークとして話をさせてもらうとしよう。


「おっ、コレだよコレ! コイツをサッと一振りでもすれば、それはもう! 超激辛料理の完成ってワケだ! どうだ、凄そうだろぉ~!?」

「ふむ、激辛料理……それも『超』ときたか……」

「へへっ……コイツを仕入れるのには、なかなか苦労させられたからなぁ……そのぶん! アンタには最高の激辛体験を保証するぜ!!」

「ほぉう? そこまで苦労したとなると……いったいどんなルートで手に入れたのかって話も気になってくるところだな?」


 もしや、早速マヌケ族につながるルートにぶち当たったか?


「おっと! ソイツはダメだぜ? これはウチだけの超極秘ルートだかんな! そう簡単に教えるわけにはいかねぇってもんよ!!」


 まだ調査も始まったばかりだし、俺がアレコレ嗅ぎまわっていると街の人たちに思われて動きづらくなるのもマズいだろうしな……ここはアッサリ引き下がっておくとしようか。

 それに、超極秘ルートとはいえ、これだけオープンにしているところを見るに、どっちかっていうとセールストークの部類だろうしな……こっちが本気で辿ろうと思えば、あとからいくらでもできるだろう。

 ついでにいうと、このオッサンは『超』って付けるのがクセになってそうだし……


「まあ、そういう仕入れルートこそが商人の生命線でもあるだろうからな……図らずも、探るようなマネをしてしまって悪かったな?」

「へへっ、いいってことよ! それよか、どうする? コイツで最高の激辛体験をしてみるかい?」

「ああ、実に興味深い……それをいただこう」

「へい、まいどありっ!!」


 そして会計となり、その超激辛調味料だが……実はシリーズで辛さに段階があるようで、それをセットで買ったこともあり、なかなかいいお値段がした。

 そんな一瞬の驚きをオッサンは読み取ったのか……


「すまんねぇ……今年は不作の影響で、この値段でも頑張ってるほうなんだ……」

「まあ、仕事柄いろんな領を行ったり来たりしているが、どこも似たような感じのようだからな……そういえば昨日、宿屋の食堂で軽く耳にしたのだが……なんでも、メイルダント領は調味料価格が比較的安定しているだとか……」

「ああ、そりゃベイフドゥム商会のことだな……このご時勢の中、砂糖とか胡椒みてぇな基本的な調味料を格安で仕入れることができるらしい……まったく、どこでそんなありがてぇルートを見付けることができたのやらって感じだよ……」

「ふぅん? 基本的な調味料ねぇ……」

「そっ! だからウチは、アンタが買ってくれたみたいな、ほかとはちょっと違う特別な調味料で勝負してるってワケ!!」

「なるほど、基本的な調味料だと、価格差で太刀打ちできないというわけか……」

「そうなんだよ……まっ! 今のところ、あちらさんはウチみたいに一味違う調味料にまで手を出してくる気はないみたいだけど……もしそうなったら……はぁ~っ……考えただけで憂鬱になっちまうよ……」

「そうか……」

「おっと! こんな辛気臭い話を聞かしちまって、すまんね!!」

「いや、とても貴重な話を聞かせてもらった……それはそれとして気休めかもしれんが、そう厳しい状況ばかりが続くとも限らないはずだ……ゆえに、その元気を忘れず経営を続けてくれればと思う」

「あいよ!」

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