第850話 品物がまともなら……

「この街には、依頼かなんかでたまたま立ち寄ったってところなんだろうけど……ウチの商品が気に入ってくれたら、また来てくれよな!!」

「そうだな……俺がメインで活動しているのは中央部のほうで、メイルダント領がある北西部はたまにしか来ることがないと思うが……それでも、こっちに来る機会があったら、また立ち寄らせてもらおうと思う」

「おう! 待ってるぜ!!」


 こうして店主のオッサンと挨拶を交わし、店を出たのだった。

 そして、まだ調査を始めて1件目だが……なかなか貴重な情報を得ることに成功したといえそうである。

 店主のオッサンの口ぶり的に、調味料関連はベイフドゥム商会のほぼ一人勝ち状態のようだ。

 それはつまり、吸命の首飾りの粉末が混入されている調味料を扱っているのはベイフドゥム商会だけと言い換えることもできるだろう。

 そのため、胡椒とか砂糖みたいな必須ともいえる基本的な調味料を狙い撃ちして調査すれば、おそらくベイフドゥム商会の物だけから吸命の首飾りの反応が出ることだろう……なんとも効率のいい話だ!

 これは、なかなか幸先のいいスタート切れたといえるだろうな!!

 フフッ、フフフフフ……これも転生神のお姉さんのお導きによるものに違いあるまい。

 改めて、感謝の祈りを捧げるとしよう……ありがとうございます、転生神のお姉さん……


「ママぁ~! なんか、あのお兄ちゃんがキラキラしてるよぉ~!?」

「何をわけの分からないことを……あら? でも、この辺じゃなかなか見ないキレイなお顔……って、そうじゃなかった……人を指さしてはダメだっていつも言ってるでしょ! まったく、もう……」

「うぅ……本当にキラキラしてたのにぃ……」


 ほう? あの子……俺が転生神のお姉さんに祈っていた際、微かに発せられていたであろう光属性の魔力を認識できたとでもいうのか?

 子供ゆえの感受性の高さによるものか……はたまた、魔法を扱う才に恵まれたか……

 どちらにせよ、魔力操作を頑張れば魔法士としての道が開けていく……ぜひとも頑張ってもらいたいところだ。

 それには俺も、引き続き魔力操作の素晴らしさを皆に語っていかねばならんね。

 まあ、メイルダント領に関しては、これからワイズが魔力操作を奨励していってくれることだろう。

 そんなことを思いつつ、次の店に向かった。


「ふむ……次はここに入ってみるとするかね……」


 見た感じの規模感は、さっきの店と似たレベルといったところか……


「いらっしゃいませ……」


 しかしながら、こちらの店主は元気がなさげ……

 カラ元気でも出しておかないと、客商売としてはマズいのではないだろうか?

 なんて、少々心配になるほど弱った印象のオッサンだった……いやまあ、もともと細身の体型なのかもしれんけどさ。


「ふむ……野営に使えそうな調味料を適当に見繕ってくれないか?」

「えっ! と、当店のを……買っていただけるのですか……?」


 いやいや、このオッサン……どんだけ悲観的になっちゃってるんだよ……

 とはいえ……それだけ厳しい状況におかれているということなのかもしれんね。

 ちなみに、基本的な調味料を求める理由として「野営に使うから」っていうのがちょうどいいのではないかと思って言ってみたが……どうやら違和感はなかったようだ。

 ただまあ、店主のオッサンとしては、この店で調味料を買う客がいたってことのほうが、よっぽど驚きだったのかもしれないが……


「別に、品物がまともなら構わんぞ?」


 品物がまともなら……これはベイフドゥム商会に対してだと、なかなかの皮肉になるかもしれんね……


「も、もちろんです! 当店の扱う品は、どれも私が厳選して仕入れております! それだけは、他店に負けません!!」


 よほど目利きには自信があるのか、このオッサンから初めて覇気のようなものを感じ取れた。


「……ほう? であれば俺は、店主の目を信じるとしようか」

「はい! お任せください!!」


 ふむ……入店時に比べれば、多少は元気を取り戻せたかな?

 まあ、その調子で頑張ってもらいたいところだ。

 そんなこんなで、店主のオッサンがチョイスした調味料を購入して店を出た。

 そうして次の店を探しながら、購入した調味料を軽く調べてみるが……吸命の首飾りらしき反応はなかった。

 というか、店に入った段階でうっすらと魔力探知で調べてはいたからね……やっぱりなって感じだ。

 とりあえず、だいたいの要領としてはこんな感じでいいかな。

 そんでもって、俺が調査を担当する中央ルートに位置する街はここだけではない。

 そう考えると、あまりのんびりし過ぎるわけにもいかないので、ここからはもう少しペースアップして店を回るとしよう。

 こんな感じで、あちらこちらで調味料を買い集めていったのだった。

 そして、この街のラストとして向かうのは、もちろん……


「ふむ……ここがベイフドゥム商会の支店か……」


 ひとまず店を外から眺めてみたところ、俺がここまで回ってきた店と比べてお客さんが集まっており、なかなかの賑わいを見せている。

 この様子から、さぞかし儲かっているだろうことが窺える。

 まあ、それが本当に企業努力による成果であればいいんだろうけどねぇ……

 そんなことを思いつつ、店に入ることにした。

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