第282話 帰るつもりはなかったのだが……

 初っぱなからなかなかパンチの効いた物言い……原作アレス君ならキレてるところな気がする。

 それとも、よっぽど帰ってきて欲しくない理由でもあるのだろうか。


「誤解を招くような言い方になってしまいましたが、言葉のとおり単純に帰るつもりがあったかどうかの確認でございます」

「……そうか」


 このあえていいました感はなんだろう。

 もしかして、「誰がアレスをキレさせるか選手権」でも秘密裏に開催されているのかな?

 学園の小僧どもも、俺がいる場所で割と好き放題いってるし。

 とはいえ、俺レベルのスルースキルをもってすれば、ちょっとやそっとじゃキレないけどね。

 まあ、それはともかくとして、質問に答えてあげよう。


「答えとしては、帰るつもりはなかったということになるな」

「やはり……」

「ん? やはりとはどういうことだ?」

「アレス様……冒険者ギルドに登録の際、家名を伏せましたね?」

「ああ、そういえば、そうだったな」


 そりゃあね、貴族に転生を果たした異世界転生者は、家名を伏せて冒険者をやるのがマナーなんだから仕方ないよね。

 それに、卒業後はソエラルタウト家との縁も切れるだろうからさ。


「それから、学園に入学してから今まで、一度も手紙を書かれていませんね?」

「ああ、いわれてみれば、書いてないな」

「……これらのことから、今回の夏期休暇でアレス様がソエラルタウト領にお帰りになられないのではないかとリューネ様は考えられました……アレス様、リューネ様はいつもアレス様から手紙の返事がくることを心待ちにしておられたのですよ?」


 リューネ様というのは、義母上のことだね。

 それにしても、手紙の返事だって?

 正直、なんの話? って感じなんだけど……


「……手紙など、一通も受け取っていないぞ?」

「……!! それは……本当ですか!?」

「ああ、無意味なウソをつく理由もないしな」

「……そんな……まさか……」


 よほどの驚きだったようで、何やらブツブツいっているルッカさん。

 ……たぶんだけど、クソ親父が途中で握りつぶしてたんじゃないかなって気がする。

 原作アレス君の記憶によると、義母上が愛情を向けようとするのを阻んでいたぐらいだし、それぐらいのことはするんじゃない?


「おそらく、当主の意向だろうな」

「……!! そう……ですか」


 ルッカさんも、信じたくはないけど……あり得るかもしれないって顔をしているね。

 まあ、原作アレス君とクソ親父の不仲説っていうのは、俺たちプレイヤーにとどまらず、この世界の貴族界でも有名みたいだし。


「……手紙の件については私からもリューネ様に伝えますが、アレス様からもお話しくださいませんか?」

「釈明の手紙でも書けということか?」

「いえ、学園が夏期休暇に入ったところで迎えの馬車が来ますので、その際に私と共にお帰り頂きたいのです」

「はっ!?」


 正直、「帰って来んな」って話になるんだろうなって思ってたら、逆に「帰って来い」って話になるとはね……

 でも、実家に帰ってクソ親父と遭遇なんかしちゃったら、マズいんじゃないかな?

 なぜなら、俺の感覚的に原作アレス君が破滅した一番の原因だと思ってるからさ、そういう態度が出てしまう気がするんだ。

 というか、下手したら臨戦態勢に入るかもしれん。


「当主と顔を合わすべきではないと思っていたから、帰るつもりはなかったのだが……」

「ソレス様は王都にいらっしゃいますので、その心配はありません」


 ソレスというのはクソ親父こと、ソエラルタウト家当主の名前だね。

 そんで、ソエラルタウト領は義母上と兄上に任せて、当主は王都でって感じなのね。

 それにしても、義母上は王都に一緒に行かなかったんだね、なんとなく意外って感じがするよ。

 まあ、それはそれとして、この感じだとちょっとぐらいは実家に帰んなきゃって感じかな。

 そうじゃないと、ルッカさんも困るだろうし……しょうがないね。


「……分かった、帰ればいいんだな?」

「そうしていただけると幸いです……何より、リューネ様もお喜びになられます」


 ふぅん? 義母上がねぇ……

 そもそも原作ゲームにおいて、アレス君が主役じゃないこともあって、義母上とアレス君の関係もそういう設定があるってだけで、そんなにガッチリと描写されていたわけじゃないからなぁ。

 とりあえず、マヌケ族みたいに明確な敵ではないことは確かだし、普通に接すればそれでじゅうぶんだね。

 とまあ、ルッカさんとの面会はこんな感じの内容だった。

 そして、終業式の次の日の朝に迎えが来て、それからソエラルタウト領に出発するとのことだ。

 ちなみに、ルッカさんはそれまで学園都市で営業しているホテルに泊まっているそうだ。


「それでは、今日のところはこれにて失礼いたします」

「ああ、気をつけて戻ってくれ」


 こうして、ルッカさんとの面会は終わった。

 なんというか、お姉さん相手にソエラルタウト家モードは疲れる……

 なんか、一言発するたびに今の言葉遣いってあんまり印象よくないかも……とか考えちゃうからね。

 あ、ということは……ソエラルタウト家の実家に大勢いるであろうお姉さんたちに対しても、そんな感じで接しないといけないのか……精神的にメッチャ疲れそうだな。

 う~ん、いくらソエラルタウト家モードだったとしても、もうちょっと丁寧な言葉遣いにしとくべきだったか……いやぁ、ミスったなぁ。

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