第281話 ソエラルタウト家モードだぞ!!

 清々しい朝の空気の中、今日もファティマと早朝ランニング。


「ソイルがヴィーンのパーティーに戻って寂しいかしら?」

「……なんのことだ?」

「昨日の模擬戦のとき、無意識にいないはずのソイルの攻撃に備えていたでしょう?」

「……常にどこからでも攻撃がくることに備えるのは当然のことだ」

「それに、魔法を放つときなんかは、ソイルの阻害魔法が頭に浮かんだでしょう?」

「……伊達に俺は『魔力操作狂い』と呼ばれていないからな、魔法の発動には万全を期すようにしているんだ」

「ふふっ……本当のところこれは全部、昨日の私自身が思ったことよ」

「……そう、か」

「でも、あなたもそうだったんじゃない?」

「……まあ、ソイルのことがまったく気にならなかったといえば、ウソになってしまうだろうな」

「やっぱりね」


 そりゃあ、ここしばらくずっとソイルが一緒だったわけだからね。

 それが急にいなくなれば、違和感はどうしてもあるだろうさ。

 でも、別にもう二度と会えなくなったわけでもないのだから、そこまで気にすることじゃないはず。

 そして、またどっかでメソメソしているところを見かけたらケツを蹴飛ばしてやるつもりだ。

 だからこそ、俺はいつもどおりのクールなアレスでいるべきだろう……俺がメソメソしないために。


「……話変わるが前期試験の順位、お前が総合1位だってウワサされていたぞ、よかったな」

「そう? ひとまずありがとうといっておこうかしら……でも、あなたの魔法の点数を考えたら、たいしたことじゃないわね」

「まあ、伊達に俺は『魔力操作狂い』と呼ばれていないからな、魔法では負けられんよ」

「ふふっ、それ2回目ね……そういえば、新しく『最狂』ってあだ名も付いたとか」

「ああ、みたいだな」


 最強、最凶、最狂……こういった呼び名は異世界転生者には付き物だからね。

 異世界転生の先輩諸兄の皆様、とりあえず俺も一つ頂くことができましたよ!


「今度はどんなあだ名が増えるかしらね?」

「さあ、そのときのお楽しみってところだな……とはいえ、俺に相応しいイケてるものに違いあるまい」

「……だといいわね」


 こうしたおしゃべりを楽しみながら、1時間ほどの朝練を終えた。

 そんなふうにして始まった火の日であるが……昨日約束したソエラルタウト家の使者との面会、果たしてどんな内容になるのやら。

 なんてことを思いつつ、その後はいつものように朝食や授業を穏やかに過ごし、昼食ものんびりといただく。

 その際、原作アレス君の実家での振る舞いの記憶を一応確認しておく。

 基本的には、「エリナ先生のご指導のおかげ」といってゴリ押すつもりだけど、極端に態度が変わり過ぎると違和感を持たれるだろうからね。

 といいつつ、体型の変化に比べれば誤差のようなもんかもしれないけどさ。

 そんで異世界あるあるだと、使用人に優しく接してみたりお礼なんかもいってみたりすれば、「お坊ちゃまが『ありがとう』だなんて!」とかいって感激の涙を流されちゃったりするんだろうね。

 そうしたアレコレを考えているうちに午後2時が迫ってきたので食事を終え、外来用談話室へ移動する。


「……2号室はここか」


 管理人さんに教えてもらった部屋番号のドア前に着いた。

 また、ソエラルタウト家の使者も既に到着して部屋内にいるらしい。

 さて、俺流のアレンジはもちろん加えるが、ソエラルタウト家モードに切り替えるとしよう。

 そして切り替えが済んだところで、ドアをノック。

 するとドアが開けられ、お姉さんに出迎えられる。


「……お久しぶりでございます、アレス様」

「……ああ」


 一瞬の間があったが、おそらく体型の変化に驚きつつそれを顔に出さないように頑張ったんだろうね。

 それから俺も、危うくいつものようにお姉さんに対する態度が出てしまうところだった。

 そんなんじゃ駄目だ! ソエラルタウト家モードだぞ!!

 なんて思いつつ、侯爵子息感として適当に偉そうな雰囲気を出しながら席に着く。

 そしてこのお姉さん、原作アレス君の記憶によると……義母上付きの侍女であるルッカさんというらしい。

 そこまで接点はなかったみたいだけど、別に特に嫌われてたとかそんな感じはなさそう。

 それで、俺個人の印象としては、落ち着いた雰囲気のスラリとした美人で、なんとなく同性からも憧れられてそうって思った。

 ま! ああだこうだ言葉を並べ立てる必要もなく、「ステキなお姉さん」の一言でじゅうぶんといえるかもしれないけどね!!


「お茶が入りました」

「いただこう」


 俺が静かに観察しているあいだ、ルッカさんはお茶を入れてくれた。

 エリナ先生の淹れてくれたお茶に敵うわけもないが、これも美味しい。


「うむ、美味いな」

「恐れ入ります」


 ……だろうなとは思ったけど、「そ、そんな! あのお坊ちゃまが……私の入れたお茶を『美味い』だなんて!!」って展開にはならないみたい。

 う~ん、これはこれでちょっと残念って感じはしちゃうかな。

 でも、そういう反応って、ルッカさんのイメージには合わないだろうしな……

 まあ、それはともかくとして、そろそろ話を先に進めるとしますか。


「それで、用件はなんだ?」

「はい、アレス様は夏季休暇のあいだ、ソエラルタウト領にお帰りになるつもりはありましたか?」


 ……へえ、そうきましたか。

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