第871話 常に最善を考えて行動するのよ
「それじゃあ、領都にある本店はワイズ……あなたたちに任せるから、しっかりね?」
「はい……必ずや、母上の期待に応えて見せます」
ソニア夫人のうっとりタイムが終わったところで、さっそく明日から開始されるベイフドゥム商会の一斉摘発について打ち合わせがおこなわれた。
そこでなんと、ソニア夫人は大胆にもワイズを本店担当に抜擢した。
いやまあ、今回の異変は俺たちが発見したことだったからっていうのもあるかもしれない。
加えて、おそらく領都にいる兵たちのほうがワイズと顔見知り度が高いからっていうのも理由としてあるだろうか。
「まっ! 俺たちも付いててやっから、自信を持って指揮すればいいってことよ!!」
「うむ、仮にベイフドゥム商会の人間が秘密の抜け道を用意していたとしても、俺の魔力探知から逃げ切るのは不可能というものだしな」
「ケイン、アレス殿……2人がいてくれて、この上なく心強いです」
「兄上っ! 僕がいることも忘れないでよっ!!」
「ああ、タム……お前も頼りにしているぞ」
「うんっ! まっかせてよっ!!」
まあ、タム君のことを実質的な戦力として数えるのは少々無理があるというものだろう。
とはいえ、その心意気はじゅうぶんワイズの力となってくれるに違いない。
あと、ベイフドゥム商会の人間を捕縛したり問題の調味料を回収したりといった実働的な部分は領兵の皆さんが主に担うことになるだろう。
そのため、実質的な戦力がそこまで求められていないともいえるかもしれない。
ただし、自暴自棄を起こして襲いかかってくる奴がいないとも限らない。
その際、とっさに一番小さいタム君を狙ってくるってことも可能性としてはあり得るだろう。
もちろん、タム君だって全く武の心得がないわけではないだろう……それでも、俺がしっかり守るとソニア夫人と約束したのだからな、全力をもってタム君を守る所存だ。
とまあ、ここまで意気込みを強くしておいてなんだけど……果たして、ベイフドゥム商会の中に俺の防御を突破できる奴なんているのかね? って話ではある。
ぶっちゃけ、それだけのことができる奴なら商人をやっているより、騎士や魔法士……はたまた冒険者とかになったほうが才能を活かせるんじゃないかと思うんだけどね。
いやまあ、デカい商会にまで育て上げることができれば、相応に扱う金額もデカくなっていって、そっちのほうが稼げるのかもしれないけどさ。
あとは……マヌケ族がしゃしゃり出てくるかどうかってところかねぇ?
とりあえず、これまでの移動中にマヌケ族らしき反応は感じられなかったが……奴らの隠蔽力もバカにはできんからなぁ……
とはいえ、仮に実戦バリバリの武闘派マヌケ族が現れたとしても、シュウほどの超強烈な一撃を繰り出せる奴がどれだけいるかって話でもある……っていうか、原作ゲーム終盤に出てくるボスとかそれに準ずるレベルでもないと無理じゃね? って言いたい。
いやまあ、俺が知らないだけで、実はもっともっと凄い実力者がいる可能性もあるけどさ……
なんてことを頭の片隅で考えているあいだにも、打ち合わせは進んでいき……
「さて、打ち合わせはこれぐらいでいいわね……それじゃあ、明日は忙しくて顔を見合わせる暇もないかもしれないから言っておくけれど……」
そうしてソニア夫人は、ワイズとタム君の頭に手を乗せ……
「実際の現場は訓練の場と違って何が起こるか分からないわ……どんな場面に遭遇したとしても冷静さを失わないように、常に最善を考えて行動するのよ……いいわね?」
「はい、肝に銘じておきます」
「うんっ! 分かってるよっ!!」
「それからタム……公な場では、言葉遣いの注意を忘れないこと」
「あっ! は、はい……気を付けます!!」
「よろしい……それではアレス殿、ケイン殿……ワイズとタムのこと、よろしく頼みましたよ」
「はい、お任せください」
「もっちろん! バッチリ2人をサポートしますよっ!!」
ふと思ったことだけど、タム君の言葉遣いがくだけがちなのは……ケインの影響があったりして?
「……うん? アレスコーチ、どうかしましたか?」
「ああ、いや……俺たちも、しっかりと気を引き締めて行かねばならんと思ってな」
「そうっすね! とはいえ、ベイフドゥム商会にそこまで腕の立つ奴がいるかどうかって気もしますし……仮にいたとしても、雇われの用心棒かなんかだと、メイルダント家を敵に回してまでベイフドゥム商会のために抵抗しようとするとも思えませんけどねぇ……っと、そうやって甘く見るのはマズいっていうのも分かってますけどね!!」
「まあ、俺も似たようなことを考えてはいたが……それでも、細心の注意を払っておきたいものだな……とまあ、こうして自分自身に言い聞かせているわけだ」
そんなこんなで打ち合わせが終わったところで、俺たちは執務室を出たのだった。
そして、それぞれの部屋に戻る道すがら……
「ああ、そうだ……アレス殿、学園ほどではありませんが、当家の風呂もそれなりの大きさがあります……どうです、ひとっ風呂浴びて行かれませんか?」
「おおっ! 大浴場があるのか!? それはいい、ぜひとも入らせてもらいたい!!」
「まっ、部屋に備え付けられている風呂より、やっぱりデッケェ風呂のほうが解放感が違うもんなっ!!」
「僕も、僕も~っ! みんなと一緒に入る~っ!!」
こうして、メイルダント家の大浴場へ向かう俺たちだった。
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