第638話 問いかけてみた

「スタンはああいっているが、お前らはシュウについてどう思う?」


 なんとなく、ロイターたちに問いかけてみた。


「身体能力の高さはもちろんとしてシュウのことだ、私たちの知らないような技術の知識もあるのだろうな……」

「ええ、シュウさんならいろいろと知っていそうですね……」

「とはいえ、シュウさんが使っているのは魔法じゃないのだとしても、魔力と似たような力だっていうなら、やっぱりソイルの阻害魔法はそれなりに効いているはずだし……そう考えるなら、何よりも基礎的な身体能力の高さが大きく関わってるんじゃねぇか?」

「そうですねぇ……身体強化やそれに類する魔法的な技術も、元となる身体能力あってこそ効果が発揮されるのでしょうからねぇ……」


 まあ、前世の俺の精神がこっちで目覚めた当初のアレス君ボディだと、どんなに身体強化をかけてもたいした効果を得られなかっただろうからなぁ……

 というか、下手したら身体強化によって生み出されたパワーに体が負けて、あっちこっちズタズタのボロボロになっていた可能性すらある……


「……ソイルの阻害魔法……最近はイメージの対象を限定して訓練し過ぎていたかもしれない……」

「イメージの対象を限定?」

「……以前は、あらゆるものが阻害対象となってしまっていた……それを改善するため、最近は特に模擬戦等で対戦相手の魔法に対象を限定するように訓練していた……それが裏目に出てしまっているのかもしれない……」

「なるほど、そういうことか」


 うん、そういう方向でソイルに訓練をさせていた記憶が俺にもあるね……

 もしかしたら、あの頃のソイルのほうがシュウには脅威となっていた可能性があったりする?

 ……いや、さすがにそれはないか……というか、まずもってあの頃のソイルなら本戦に残れていなかっただろうし。


「ふぅん、魔法に対象を限定かぁ……でもまあ、もともと魔法に限定せず阻害できていたのなら、そういう修正もすぐにできるんじゃない? そこで僕は、シュウの魔法防御力の高さっていうのを挙げさせてもらうとしようかな? だから、ソイルの阻害魔法に抵抗できているって感じなのさ!」

「そうか……セテルタはさっきの試合で、トイの魔法防御力の高さに苦労させられてたもんな?」

「そう! まさしくなんだよね~」


 セテルタの予想もあり得なくはないだろうが、ソイルの阻害魔法はちょっとやそっとの魔法防御力で防ぎ切れるようなものではないはず……ということは、シュウのそれは途轍もないほど優れているということなのかもしれない。


「……もしかしたら、魔素を魔力に変換せず、魔素を魔素のまま使っているのかもしれないわね……だから、ロスを少なくして身体強化の魔法を運用できているとか……幸いにして、魔素は周囲に大量にあるわけだし」

「えぇっ!? そんなこと……できれば便利だけど……できるのかなぁ……?」


 ほうほう、ファティマの発想は地味に面白いな……今まで考えたこともなかったよ。

 しかし、パルフェナのいうとおり、そんなこと可能なのか?

 そこで、試しに魔素から豆粒サイズの氷の塊を生成しようとしてみたが……できなかった。

 やっぱ、無理じゃね?

 まあ、この1回で無理と決めつけず、これから魔力操作の練習をするときついでに練習してみてもいいか。

 こんなふうに考察をしているのは俺たちだけではなく……


「魔力と似て非なる力だってよ……ラクルス、お前が使っている不思議な力もそうなのかねぇ?」

「……う~ん、どうなんだろ……俺自身、あんまりよく分かってないんだよな……でも、いわれてみれば確かに、魔力ではないのかもしれない……」

「そういえば、拙者は父上から『常日頃から火を観想せよ……それがやがて焔力となる』と教えられておりました……それを聞いたときはあまりよく理解できておりませんでしたが、ラクルス殿やシュウ殿が使っている力に類するものだったのかもしれませんなぁ……」

「えっ、そうだったのですか? てっきり、ティオグはいつも火属性の魔力を刀に込めていたのだと思っていましたよ……」

「いえ、特に火属性の魔力を込めていたといったことはないでござる……ですが、カイリーがそのように感じてくれていたというのなら、拙者も多少は焔力を使えるようになってきているのかもしれませんなぁ……まだ、無意識のレベルですが……」

「焔力か……そなたとの試合、注意させてもらうとしよう」

「おやおや、思いがけず拙者の手札が一枚減ってしまったようでござる」

「フン、さほど困った様子もないくせによくいう……」

「ハッハッハッ、武士は食わねど高楊枝でござるよ!」

「そっか、お前たち……次の次の試合で当たるんだったな?」

「同じ王女殿下の近衛を目指す者同士の試合……というわけでござる」

「そういうことだ」

「2人ともしっかり全力を出し切っていい試合をするんだ……そして、俺みたいに情けない試合をするんじゃないぞ?」

「またマトゥは自分を卑下して……それはそれとして2人とも、頑張ってこいよ!」

「まあ、その前に私の試合があるんですけどね……」

「おっと、そうだったな! カイリーも頑張れよ!!」


 王女殿下の取り巻きたち、あっちはあっちでシュウの考察をしつつ、その後の自分たちの試合に意識を向けているようだった。


『ここまでソイル選手、数えきれないほどのストーンバレットを放っていますが……そのどれもがシュウ選手にキャッチされ、一発たりともヒットしておりません! 果たしてソイル選手、このまま打つ手なしなのか!?』

『これで終わりではないと思いますが……かといって、ソイルさんは得意魔法を攻略されてしまっているわけですからね……ここからどのような手を選ぶかに注目したいところです』

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