第207話 その身をもって思い知れぇ!

「そんなにこの剣が気になるのか? 仕方ない、サービスとして教えてやる……お察しのとおり、この剣は誇り高き『救国の剣聖女・レミリネ』から俺が剣術とともに受け継いだものだ」

「……!!」

「驚きのあまり声も出ないか? ハハッ、そうだろうな……お前らとしては完全に歴史の闇に葬ったつもりだったのだろうからなぁ……だが、密かに語り継がれていたのさ、心ある民たちによってな!」

「オ、オオォ……オオォ……」

「おっと、ついついおしゃべりに興じてしまったな……そろそろ本格的に戦闘を開始しようか……フフッ、レミリネ師匠の剣で切り刻んでやるよ」

「……オ、オオォ! オォオオーオーォ!!」


 俺がレミリネ師匠の剣術を学んでいると知り、キングは明らかに狼狽していたが、どうやら心を奮い立たせて戦闘意欲を取り戻したようだ。

 まぁ、そうしてもらわんと、こっちとしても気持ちよくボコボコにできないからな。

 しかしながら、やはりレミリネ師匠の剣が恐ろしいと見えて、魔法による遠距離攻撃を仕掛けてきた。


「……ふぅん、ファイヤーボールか」


 そうして飛んできたファイヤーボールを、魔力を込めたレミリネ師匠の剣で斬り消した。

 とはいえ、別にそんなことをする必要もなく、この程度のファイヤーボールなど俺の魔纏ならびくともしない。

 では、なぜそんなことをしたのかというと、コイツを煽りたい欲に影響され、俺のイキリ虫なところが顔を出そうとしているからだ。


「ほら、一発撃っただけで満足してないで、どんどん撃ってこいよ……そうじゃないと、すぐ距離が詰まって切り刻んでしまうぞ?」

「オ! オオォ!!」


 そして、キングは……いや、こんな奴は愚王でいいや、確かそういうあだ名だった気がするし。

 それはともかくとして、愚王は保有魔力量にものをいわせ、次々にファイヤーボールを撃ち込んできた。


「なんというか、絨毯とかに燃え移ったらどうしようっていう考えはないんだな……」


 そんな呟きを漏らしながら、次々と飛んでくるファイヤーボールを斬り消していく。


「……どうした、もう終わりか?」


 そう語りかけながら、一歩一歩ゆっくりと歩み寄っていく。

 イキリ虫は愚王に圧をかけたんねん!

 どや! 恐ろしいやろ!?

 ……あぁ、テンションが変な方向に行きかけてるよ、こいつはいかんなぁ。


「……オ、オオオォ!!」


 そして愚王のほうも、苦し紛れにファイヤーボールを連射してくる。

 まぁ、全て斬り消して終わりなんだけどね。

 そしてついに、剣の間合いにまで距離が縮まった。


「……お前も守役あたりから剣の手解きぐらいは受けているのだろう?」


 そう問いかけながら、豪華な装飾の施された剣を構えた愚王に対し、レミリネ師匠の剣を一閃。

 その一振りだけで、愚王の剣は粉々に砕け散った。


「おそらくその剣も名剣ではあったのだろうに……使い手の腕でそこまで性能が落ちるとは……実に哀しいものだな」

「……オ……オォォ……オォォォ!」

「おいおい……敵に背を向けるのか?」


 もう手詰まり感いっぱいで、走って逃げ出そうとする愚王。

 この城内で戦ったスケルトンたちの中には、同じように逃げ出そうとした奴もいた。

 だが、コイツとは決定的に違うことが一つある。

 それは、敵に無防備な背中を見せて逃げ出す奴など一人もいなかったということだ。


「……オッ!?」


 そんな情けない愚王は、石につまずいてすっ転んだ。

 ……情けなさ倍増。

 それからこちらに向き直り、腰が抜けたとでもいうように長座のような姿勢のまま、じりじりと距離を取ろうとしている。


「……オ、オォ……オォォォ! オォォォォ!!」


 加えて、命乞いのような声音を発する。


「いやいや……俺はスケルトン語を習得していないとさっきもいっただろ?」


 そしてなんとなく、愚王がつまずいた石に目が留まった。


「ふむ……石か……そういえば、投石スケルトンにもらった石があったな……」


 そこでふと、こんな奴の血でレミリネ師匠の剣を汚していいものだろうかという気がしてきた。

 ……いや、スケルトンに血なんか流れてないだろうけどさ。

 そんなツッコミを自分自身に入れながら、投石スケルトンからもらった石をマジックバッグから取り出す。


「……いいじゃん」


 なんか、意外と握り心地がいい石だね。

 これなら、さぞかしステキな投石ができることだろう。

 ああ、そういや、シュウという名のメガネによると、コイツはレミリネ師匠を慕う民を弾圧してたって話だっけ?

 自分が弾圧してきた民の怒りの一撃によって最期を迎える……シナリオとしては悪くないな!

 そのシナリオに、この石はまさにうってつけといえるだろう。


「……決まったよ、お前を始末する方法がな」

「オ、オォ!!」


 そしてゆっくりと振りかぶる。


「オォォ! オオォォ!!」


 愚王は必死に何やら懇願しているようだが、関係ない。

 しっかりと外さないよう、細心の注意を払って……

 そして気合を込めて……


「一石入魂! お前が踏みつけにした人々の怒りと悲しみ、その身をもって思い知れぇ! イゾンティムルの愚王ぅぅぅ!!」

「オォォ! オオオオオォォォォォ!!」


 俺は愚王へ全力投石した。

 そしてそれは、石が愚王へぶつかる瞬間のこと。

 愚王が爆発四散した。


「……は?」


 俺のイメージでは、石が愚王の頭蓋骨を貫通する感じを想像してたんだけどなぁ……

 それにあの石って、マジでなんの変哲もないただの石だったはずなんだが……

 そのときふいに、俺の脳裏に投石スケルトンが朗らかな笑顔でサムズアップしている姿が思い浮かんだ。


「えぇ……」

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