第680話 武術は最高のコミュニケーションツール

『今……今ようやく、審判の宣言により……アレス選手の勝利が確定致しました……!』

『手に汗握る、素晴らしい試合でしたね……』

『ええ、まさしくスタンさんのおっしゃるとおり、熱く素晴らしい試合でした!』

『そして、特に最後の攻防なんかは、この上なくヴィーンさんの気持ちが溢れており……そんな姿を観ると、やはり武術というものは、人と人が分かり合う、最高のコミュニケーションツールなのだなと再確認させてもらいました』

『武術は最高のコミュニケーションツールですか……なるほど、とてもスタンさんらしい表現ですね!』

『おっと……私も、少々気持ちが高ぶっていたようです』

『いいと思いますよ! スタンさんのそういう面、どんどんください!!』


 ふむ……確かにこの試合で、より深くヴィーンと分かり合えた気がする。

 そして俺は、さらにヴィーンのことが気に入ったよ。

 こんな男と、これからも高め合えたら幸せだなって……強く強く思った。

 こうして、湧いている会場の中で一部の生徒たちの会話がやたらと耳を刺激する。


「おう! さっきお前……ヴィーンの気絶するところを見たいとかいってたよな? お望みどおり見れたぞ? どうだ、満足か?」

「……ッ!!」

「黙っちゃってさ……どうしたの? 思ったこといっていいんだよ?」

「笑えばいいじゃん? そうしたかったんでしょ?」

「まあ、笑ってもいいが……その先のことをシッカリと考えた上で、行動を決めたほうがいいぞ?」

「そうさな、お前さんという人間の質が問われること……よぉく、心に留めておきんしゃい」

「……クッ!!」

「おら! どしたよ!?」

「あ、あわわ……お、俺も……さっき笑っちゃって……」

「お前は、まあ……反省してんだろ? 次から気を付けな!」

「あ、ああ……!」

「そんでぇ……問題はお前だよ! あんな熱い男を根暗呼ばわりしたんだ……分かってんだろうな!?」


 う~ん……彼ら、1人を詰め過ぎかな?

 まあ、ヴィーンに舐めたことをほざいたのは事実だろうけどさ……


「……う……っ……私は……」

「おお、ヴィーン! 目が覚めたか?」

「……そう……か……どうやら、私は負けたようだな……?」

「まあ、勝敗自体はそうだが……でも、限界を超えて、お前に眠る潜在的な力すらも発揮して闘った……まさに最高の気分だったろ?」

「……ああ……悪くない……気分だ……」


 ……そのとき見せたヴィーンの清々しい笑顔は、男の俺ですら惚れ惚れするほど……いい笑顔だった。


「……ッ……」

「……あぁ? お前……何急に泣き出してんだよ……?」

「周りから責められて泣くぐらいなら、最初からいわなきゃよかったのに……」

「う~わ、ダッサ! ダサ過ぎ君でしょ!!」

「悪態をつくなら、せめて貫き通せよなぁ……なんで、心折れてんだよ……」


 ひょっとして彼……ヴィーンの笑顔にやられちまったか……?

 いや、それぐらい破壊力があったからな……

 普段は無口で表情もほとんど変わらずって感じの、クールガイを絵に描いたような男が不意に見せた笑顔なんだ……その衝撃の凄まじさといったら、途轍もないものだろう……


「まあまあ、みんなもさ、詰めるのはそれぐらいにしとこ? それに君だってさ、どんどん先に進んで行こうとしているヴィーンが羨ましくて、つい憎まれ口を叩いちゃったって感じなんでしょ?」

「……ッ!! いや、俺は……」

「あ~はいはい、強がんなくてもいいよ! 大丈夫、分かってるからさ!!」

「なッ……いや!」

「それに何より……ヴィーンのやり切ったって笑顔を見て、君が流した涙……それが全てを物語っていたよ?」

「……し、知るか! そんなもん!!」

「ま! 心の中のくすぶりをそのままにして終わるか……それとも、ヴィーンを見倣って激しく燃え上がるか……ここが君の人生の分かれ道だよ!!」

「人生の……分かれ道……」

「な~んだ、結局ヴィーンに嫉妬してたってわけね?」

「まあ、俺はその程度、最初から見抜いていたけどな?」

「その割に……本気で責めてたよね……?」

「えっ! あっ、いや……」


 ……ふぅん? とりあえず、解決したっぽい?


「……アレス……そろそろ席に戻ろう」

「おっ! そうだな!!」


 まあ、ヴィーンは頑張り過ぎて気絶したってだけで、ケガ自体はしてないからね、医務室に行くほどではないのだろう。

 それに早速、空気中の魔素から魔力、そして体力へと変換しながら回復を図っているみたいだしさ。

 これで少し時間が経てば、さらに一戦することだって可能に違いない。

 とまあ、そんな感じでヴィーンはもう、自分の足で歩くまでに回復しているのだ。

 そうして、ヴィーンと並んで歩きながら席に戻る。

 その際、リッド君たち村の子や知り合いたちに手を振って応える。

 その中にはもちろん、義母上やルッカさんたちもいる。

 あと……義母上のほうに視線を向けると、微妙に親父殿が視界に入ってしまうんだよなぁ……マジうぜぇ……

 それから、ヴィーンはヴィーンで同じく知り合いたちに小さく手を上げて返事をしていた。

 この、小さく手を上げて返事する辺りが、ヴィーンのかわいらしいところなんだよねぇ……

 おそらく、そんなヴィーンの姿を見て、キュンキュンしちゃってる女子たちもいるんだろうなぁ……

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