第862話 気配が感じられるのよねぇ……?

「くぅ~っ! これだよ、これ! 俺はこの、メイルダント風の濃厚な味付けの料理が食べたかったんだ!!」

「まったく、ケインは大げさだよ……そして、アレス殿はいかがです? 味が濃過ぎるなどということはありませんか?」


 ようやく、まともなメイルダント風の料理を口にすることができたケインは、喜びとともに料理を噛み締めているようだ。

 そして、ワイズから俺に感想を求められたわけだが……


「……味が濃過ぎるなんてことはなく、とても美味しい……なんというか、食べているという実感があるとでもいえばいいのか、この料理ならケインが気に入るのも大いに納得だよ」

「おお、それはよかったです」

「でっしょう!? だから言ったんですよ、メイルダント風の料理は美味いって!!」

「ああ、そうだな、まったくもってケインの言うとおりだった」

「ふふっ、ケイン殿は我が家で食事をするときいつも『美味しい』と言ってくれているものねぇ? それから、アレス殿にも気に入ってもらえたようで、何よりだわ」

「そりゃもちろんです、ソニア夫人! こんな美味しい料理を食事のたびに食べることができるワイズが羨ましいったらないですよ!!」


 むむっ、ケインの奴め……上手いことソニア夫人のポイントを稼いでいるようだな……?

 ちなみに、「話の流れ的に言わなくても分かるよ!」って言われちゃうかもしれないけど、ソニア夫人というのはワイズのお母上のことである。

 それにしても、ソニア夫人……うんうん、いい名前だ。


「そこまで言ってくれるとは……もしケイン殿とワイズが異性同士であれば、今頃『うちのワイズはどうかしら?』って、婚姻を勧めていたところだわ」

「え……えぇっ! 俺とワイズが……ですか!?」

「……」

「クッ……」


 まあ、婿でも嫁でもどちらでもいいが、とにかくケインがメイルダント家の人間になれば、確かにこの料理を毎回食べることができるであろう。

 そして、思わぬソニア夫人の発言にケインが驚いてしまったのは……まあ、分かるって感じかな。

 ただねぇ……今回ワイズがメイルダント領に急遽帰ってきた理由は、まさにその婚姻に関してのことなんだよね……

 そのためというべきか、ワイズが言葉に詰まってしまっている。

 また、今の話を聞いて、ソニア夫人の隣に座っているワイズの弟君が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。

 いやまあ、もし仮にワイズとケインが異性同士で婚姻を結ぶってなったら、もう完璧といってもいいぐらいにワイズが後継者として確定してしまっていただろうからねぇ。

 なぜなら、ツァマヌイ家もメイルダント家と同格の子爵家で、それ以上の家から配偶者を得るっていうのは……まあ、楽なことではないと思う。

 それに、この両家はなかなか仲もいいようで、そういった観点からも後継者レースの勝利が確かなものとなってくるに違いない。

 というわけで弟君としては、そうして勝ち目が一切なくなってしまった状況が脳内に浮かんできて、思わずイラッときてしまったのだろうなぁ……

 とまあ、この様子から、メイルダント家の後継者としてワイズが最有力であるものの、ライバルである弟君もまだ諦めてはいなさそうって感じだ。

 ふむ、弟君にそれだけの意欲があるならば……最悪ワイズがミカルって娘を嫁に迎えて独立する道を選んだとしても、割と上手く収まるかもしれないね。

 とはいえ、その場合は……弟君をビシッと鍛えてやらんといかんもしれないが……

 だって、こんなにアッサリ表情を曇らせていたら、貴族社会でやっていけなさそうだもん。

 まあ、これは多分に俺の貴族イメージが偏っているからかもしれないけどさ……それでも、やっぱり貴族ともなれば、ポーカーフェイスが基本なんじゃないかと思うんだよね。


「あら、私ったら、変なことを言ってしまったわね……」

「い、いやぁ、ハハハ……まあ、俺もワイズも男なんで……なぁ?」

「え? ええ……そうですよ、母上……」

「……」


 ふむ……前世では確か、同性婚の是非について議論がされるようになってきていた気がするが……こっちの世界では、まだそういう動きが目立ってはいないといえるだろうか……

 でもまあ、血筋を重要視する貴族だと、やっぱり厳しいものがあるだろうからなぁ……

 そして弟君はというと……ポーカーフェイスに戻ってはいるものの、全身から発せられる魔力の感じまでは隠し切れていないようで……

 うん、まだ若いもんね……とりあえず、「魔力操作の練習を頑張れ!」と伝えてあげたいところだ。


「それはそうと、リリアン様のご子息であるアレス殿からリリアン様の気配が感じられるのは当然のことだと思うけれど……どうしてだか、ケイン殿とワイズからも、うっすらとリリアン様の気配が感じられるのよねぇ……?」

「おおっ! 母上の気配を感じられますか!?」

「ええ、先ほどなどは懐かしさのあまり、目が潤んでしまったぐらいよ……そして夏頃にケイン殿とワイズを見たときは、2人からリリアン様の気配を感じなかったのに……不思議だわ……」

「……もしかしたら、この移動中にアレス殿と魔力交流を続けていたからかもしれませんね?」

「ああ、そっか! それだよ、きっと! 俺たち、アレスコーチの魔力を思いっきり流してもらったもんな! しかも光属性の!!」

「あら、魔力交流? 今年の学園では、もうそんな高度な練習を始めているのねぇ? それにしても……リリアン様の光属性ですって!? それはそれは、とっても羨ましいことだわっ!!」


 あ、この勢い……やっぱりソニア夫人も母上ガチ勢だ……

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