第391話 気の利いたもの

 現在、8階へと続く階段を上っているところだ。

 また、階段を上っている途中でドロップ品のお菓子を食べるのがリラックスタイムとして俺たちの中で定着しつつある。

 まあ、気負い過ぎないようにっていう意味合いもあるね。


「このゼリーって……こんにゃくか?」

「どうやらそのようですね」

「あっ、ここに『喉を詰まらせないように注意してください』って小さく書いてあるよっ!」

「……ゴムのときもそうでしたが、小さく書いてあるところが全くもって小賢しいですわね」

「むしろ……注意書きがあるだけ親切と思うべき?」


 まあ、もう少し分かりやすく書いておいてほしいところではあるんだがな。

 それはともかく、俺も前世で一時期ハマってよく食べてたんだよなぁ、懐かしい。

 そんで、この歯に当たる弾力がたまんないんだぁ。

 そういえば、こんにゃくつながりで思い出したけど、ドリンクタイプのも気に入ってたんだよなぁ。

 このスライムダンジョンでも、そのうち出てこないかな?

 とまあ、そんな感じで心にも栄養を与えてあげたところで8階に到着だ。


「……この階はスライムが少なめだな」

「はい、そして見たところここにいるスライムは上位種というわけでもありませんね」

「ということは、繁殖のペースはこれまでの階と同じはずだよねっ?」

「ええ、そう考えると……スライムの数を減らした存在がいるということですわ」

「要するに、ヒナの父親がいるかもしれないということ」


 というわけで、さっそく魔力探知を発動した。

 ……! この魔力の感じ……人間だ!!


「……いた! 人間の反応があった!!」

「それはようございました」

「おおっ! やったねっ、アレス様!!」

「これでひと安心ですわね」

「あとは、私たちの探している人物かどうか……」

「うぅむ……ヒナちゃんの魔力の感じに似ている気はするから、当たりだと思いたいところだが……とにかく反応のあった場所に行ってみるしかないだろうな」


 こうして、反応のあった場所へ急ぐ。

 そして向かった先は、ライトグリーンに淡く光る半透明な仕切りのようなもので囲まれた場所だった。

 これは原作ゲームで見たことがある、セーフティーゾーンだ!

 まあ、ゲーム的には回復とかセーブポイントって感じかな?

 この光の仕切りみたいなものの内側に入ると、「休みますか?」とか「セーブしますか?」みたいなコマンドが出るんだ。

 とはいえ、この世界にはセーブポイントなんて気の利いたものなどあるわけがない。

 そのため、単純に休憩スペースってだけだね。

 ただ、そうはいっても、モンスターに襲われずに休むことができるってだけで、かなりありがたい場所ではあるといえるだろう。

 そんなわけで、原作ゲームにおいても宿屋に泊まったのと同じように回復できたのだろうと思う。

 とまあ、思考が脱線してしまったが、このセーフティーゾーンにオッサン過ぎない感じの男が1人いる。

 もちろん、生存者だ。

 そこで、あちらのほうは俺たちが来たことで驚いた顔をしている。

 まあ、このタイミングでこのダンジョンに来る奴なんて領軍を除いて基本的にいないみたいだからね、仕方ないって感じかな?

 ……おっと、そんな余計なことばかり考えている場合じゃないな。


「アンタがヒナという娘の父親で合ってるか?」

「あ、ああ、そうだが……どちらさんだ?」

「俺たちは、たまたまこの街に立ち寄った冒険者さ……それで、メシ屋で食事を楽しんでいたところを、アンタの娘さんに『お父さんを助けてください』って頼まれて来たというわけだ」

「そうだったのか、ありがとう……そして、ヒナには心配をかけてしまった……」

「そうだな、『1週間帰ってない』といって、あっちこっちの冒険者に必死に頼んで回っていたぞ?」

「うぅ、なんということだ……すまん、ヒナ……」

「ま、無事だったんだから、ひとまずヨシってところだな。あとは戻ったら娘さんにしっかり謝っておくことだ」

「ああ、そうさせてもらう……」


 というわけで、ヒナちゃんのお父さんが見つかったことで、俺もすっかり気が楽になった。

 見つからなかったらどうしようっていう考えが常に頭の片隅でチラついていたからね……

 そんな心配から解放されて、この上なくホッとしている。

 あとは、しっかりと護衛をしながらダンジョンから出るだけ。

 これについても、魔纏でガッチガチに守るつもりだから、ほとんど成功したも同然といえるだろう。


「さて、どのルートで帰るかだな……そのまま来た道を引き返すか……もしくは10階まで行って中ボスを倒して転移陣で帰るか……」

「そうですね……このまま10階を目指されてはいかがでしょう?」

「私も、このまま先に進んじゃったほうが早いと思うなぁ」

「ええ、歩く距離のことを考えれば、わたくしもそう思いますわ」

「ボスとはいえ、私たちならそう苦戦することもないはず」

「……ふむ、決まりだな。このまま10階へ進むとしよう」

「え? えっ!? 今は大繁殖中だぞ? ボス部屋のスライムだって増加するんじゃないか!?」

「するかもなぁ……でも、その程度のことは大した問題じゃない」

「そ、そうなのか……なんという自信だ……」


 こうして俺たちは、ヒナちゃんのお父さんを連れて10階へ向かうこととなった。

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