第264話 俺たち以外はほとんど知らない
「まずは改めて学科の試験、お互いにお疲れ様といったところかしら……それじゃあ、今日の反省会を始めましょう」
学科の試験が終わって、いつものように昼食後は森の中を走り、夕食後は魔法練習場で魔法の練習と模擬試験に時間を費やした。
そんなわけで今は、談話室に移動して反省会である。
「この1週間、アレスの光弾を習得しようと頑張ってみたが、完璧には無理だったな……」
「そうね、もう少しという手応えはあったのだけれど……」
「う~ん、ロイター様とファティマさんはあと一歩という感じでしょうか」
「でも、何回かは障壁魔法にもヒビを入れることができていたんだから、充分凄いよ!」
「……」
みんなも光弾に挑戦したのだが、速度と威力を両立させるのが難しかったみたいで、完全習得には至らなかった。
いや、何をもって完全というかは人それぞれというべきか。
現段階のロイターとファティマの光弾でも、ある程度の殺傷力はあるわけだからな。
加えていえば、ゆっくり時間をかけて魔力を込めさえすれば、もっと威力を出せるみたいなんだけど、それだとすぐ消える障壁魔法に対応できないからね……
そして、サンズとパルフェナはさらに苦戦の度合いが高く、今はまだ牽制用のライトバレットというレベルだろう。
あと、ソイルの場合は少しだけ光弾も試してみたが、基本的には魔法の試験に向けてストーンバレットの練習に集中していた。
そのため、本格的な光弾の練習は試験後になりそうって感じだろうか。
それでそのソイルだが、明日の魔法の試験が気になるのか、昼から徐々に言葉数が少なくなっていって、今は無言である。
「ソイルよ……緊張する気持ちも分かるが、お前のストーンバレットは一級品だ、自信を持つがいい」
「そうだな、きっと明日の試験でも好成績を残せるだろう」
「そのとおりですね、僕も明日はソイルさんに負けないように気合を入れて試験に臨むつもりでいますし」
「うん! 私も地属性が一番得意なのもあって、ソイル君にはライバル心を燃やしてるよ!!」
「ふふっ、そういうことよ……あなたは既に私たちといい勝負ができるところにいるのだから、それをそのまま試験で示せばいいだけ」
「……みなさん……ありがとう……ございます」
俺たちの言葉に、噛み締めるように返事をするソイル。
そうして、緊張は多少まだ残っているかもしれないが、それは駄目な緊張ではなく、やる気に満ち溢れたものに変わっていく。
その証拠に、今ソイルから漏れる魔力に弱気は感じられない。
……それにしても、今に至るまで結局、ソイルの魔力が周囲に漏れてしまうクセは残ってしまったな。
この点については、これからの課題として追々と改善していかねばといったところかな。
とはいえ、それが周りを鼓舞するようなプラスに働く魔力であればアリと考えることもできるかもしれないが……
そんなわけで、明日の魔法の試験へ向けてお互いに激励し合う形で、今日の反省会は終わった。
ちなみにこの1週間の俺たちは、いつも模擬戦をしていた時間に魔法練習場の個室で、魔法の練習や模擬試験をしていた。
そのため、ソイルの魔法の上達具合を俺たち以外はほとんど知らないと思う。
ということはつまり、明日の魔法の試験……ソイルの実力を目の当たりにして周りの連中はさぞ驚くことだろう!
特にヴィーンたちの驚愕した顔……くぅ~っ! こいつは楽しみだね!!
「アレス……まあ、気持ちは分かるがな……」
「そうですね」
「あはは……そだね」
「確かに、楽しみではあるわね」
「え? えっと……う~ん、無表情なアレスさんの顔の中に、ちょっと悪い笑顔が見え隠れしているよう……な?」
「ほう、ソイルもだいぶアレスの顔のうるささが分かるようになってきたか?」
「そのようで」
「そうみたいだね!」
「ふふっ、ソイルも成長したわね」
「え、え~っと……そうなんでしょうか?」
「「「「あはははは」」」」
「まったく、お前らなぁ……」
こんな感じで俺たちは、たわいない会話に笑い合いながら大浴場へ移動していた。
すると前方からヴィーンたちが歩いてきた。
そしてすれ違いざま……
「……」
「チッ」
「調子に乗っちゃって……」
相変わらずの無言を貫くヴィーン、そして舌打ちと嫌味をこぼす取り巻き2人。
「ヴィーン様……トーリグ、ハソッド……」
そして、遠ざかるヴィーンたちの背中を切なそうに見つめるソイル。
フン! お前らは明日、ソイルがどれだけ凄い奴だったのかってことを思い知らされることになるんだ!!
せいぜい、今だけはソイルのことを下に見てるがいい!
明日からは、そんなことできなくなるんだからな!!
そんな思いを込めて、ソイルの背中をバシンと引っ叩いてやった。
みんなも俺につられて、同じようにソイルの背中でバシンといったった。
「それじゃあみんな! 明日も頑張ろうね!!」
「それじゃあね」
そういって、女子2人は女湯へ去っていった。
叩き逃げか。
いやまあ、さすがに女子の背中を叩き返すのは無理だろうけどさ……女子に免疫のないソイルだと特にね。
「どうした、俺たちなら叩き返していいんだぞ?」
「うむ」
「どうぞどうぞ~」
「あ、えっと……はい、では………………ありがとうございます」
最後は小さく呟きながら、ソイルのお返しが俺たち3人の背中に返ってくるのだった。
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