第76話 そのときの俺に任せればいい

 夕食を食べ終え、自室に戻って来たところで、ゼスから手紙が届いていた。

 各部屋に郵便受けがあって、男子寮の管理人さんが配ってくれるシステムなのさ。

 それはともかくとして、どうやら人形師の屋敷で回収した物品の売却が完了したようだ。

 それで、来週の地の日にグベルとエメちゃんも呼んで分配を兼ねた食事会を開きたいそうだ。

 日程的になんの問題もないし、断る理由もないので、快諾の返事をさっそく出しておいた。

 これも管理人さんに渡したら送っておいてくれるという便利さ。

 まぁ、明日自分で冒険者ギルドから返事を出してもよかったんだけどね。

 そんなこともありつつ、魔力操作筋トレと精密魔力操作を行って眠りについた。


「今日は快晴、モンスター狩り日和!」


 今日の目覚めの一言をビシッと決めたところで、さっそくきゅるんとした小娘に嫌そうな顔スタンプを押してもらいに朝練に行きますかね!

 そして、1時間ほどの魔力操作音読ウォーキングを終え、シャワーも浴び、朝食もしっかりいただいて、準備万端!

 さぁ、モンスター狩りに行くぞ!!

 今日は日帰りとはいえ、1日中森を探索できるからね、結構奥の方まで行けるんじゃないかと期待している。

 あと、ゲームのイベント通りなら野営研修中はぐれオーガが出るからね、今のうちにオーガの実力を試しておきたい。

 一応最初のボス敵なこともあって、それなりに強い。

 まったくレベル上げをせずに突っ込むと普通に負ける。

 ただ、負けても問題ない……いや、パーティーメンバーに選んだヒロインたちからの好感度が下がるから全くないとは言えないけどさ。

 それで負けた後はムービーが入り勇者の力に目覚め、直後の2戦目で強制的に勝たせてもらえる。

 そのときの勝ち方がまた酷いのだ。

 はぐれオーガがなにをしてもダメージを受けないし、主人公の攻撃は全部クリティカルという徹底ぶり。

 なんというか、はぐれオーガ涙目って感じになるのだ。

 そうして一時的に無敵勇者に覚醒して、戦闘終了後はそれが鎮まり「あの力はなんだったんだ……」みたいな感じでシナリオが進行していく。

 そこでもちろん、ヒロインや周囲の人たちからは「あの力、まさか……いや、しかしあれは単なる伝説のはず……」とか言われながら注目を浴び始める。

 ま、こっから本格的にゲームが始まるって感じだね。

 ちなみに、きちんとレベル上げをしてはぐれオーガと戦うと勝利出来るが、それははぐれオーガの死んだふりで戦闘後に気の抜けたところを狙われて危うしってなったところでムービーが入り、以下は同じ流れ。

 とまぁ、ちょっとした原作ストーリー語りをしちゃったけど、野営研修での戦闘イベントはそんな感じ。

 そしてオーガだけど、ゲームではボスだけじゃなくてザコ敵としても出てくる。

 確か中盤ぐらいから行けるようになるフィールドでよく出てきていた気がするね。

 一応この世界、まるっきりゲームというわけでもないので、行けないフィールドみたいのはない。

 だからゲーム的にはまだ超序盤の今、オーガに会いに行けちゃうってわけ。

 ただまぁ、ゲームではずっと先に出てくるはずのマヌケ族とも既に遭遇しているから、その辺当たり前でしょって感じだったかな?

 ちなみに、マヌケ族とオーガはどっちが強いのって話だけど、身体能力的にはオーガの方が上だろうけど、魔法を加味すると総合力はマヌケ族の方が高くなるんじゃないかな?

 まぁ、ゲームではメインの敵だし?

 もちろん双方とも種族内での序列があるからオーガエンペラーとか出てこられるとマヌケ族も族長クラスを出さないとやべぇことになるとは思うけどね。

 それでなにが言いたいかというと、マヌケ野郎やザコマヌケみたいな弱い奴とはいえマヌケ族を2体ほど討伐しているので、正直オーガに対してもあんまり脅威を感じていない。

 ただ、実際に戦ってみると思わぬ苦戦を強いられるかもしれないから、その辺は気を付けて行きたいところ。

 そう思いつつ、森の中を進んでいく。

 ただ、オークのテリトリーが思ったより広くて、今日中にオーガに会うのは難しいかもしれない。


「ブゴォォォ!!」

「やぁ、ごきげんさんだね!」


 なんて一声をかけて名刀モードのミキオ君でスパッと首を刎ねる。

 まぁ、一振りで決めるために風属性魔法の鎖で拘束した上でのことなので、こんなアッサリだったのだ。

 たぶん、拘束せずに戦った場合、一振りでは終わらなかったんじゃないかな?

 地味に動き回られて、あっちこっち切り傷だらけになって商品価値を下げた可能性があるね。

 とりあえず、こんな感じで一振りごとに集中すれば名刀モードも実戦で使えることがわかったので、ひとまずはよしとしよう。

 その後も、オークのテリトリー内から出ることが出来ず、時間的にそろそろ戻り始める頃になったので、今回はこれで帰還することに。

 残念ながらオーガには会えなかったね。

 明日はソナー式の魔力探知で範囲を広げて、オーガらしき強さを持った魔力に向けて一直線に移動するかな。

 今日はその辺わりと適当で、森を奥の方に進みつつ魔力探知に反応があるたび横道にそれてたからね。

 でもま、野営研修までまだまだ先だから、そこまで焦る必要もないと言えばないような気もする。

 やっぱさ、こんな感じでそのときの気分で好きなように動きたいよね。

 パーティーとか組んじゃったら、周りにめっちゃ気を使わなきゃだろうし。

 ……せっかく忘れてたのに、俺のアホ。

 今この瞬間は気ままなソロ活動を謳歌しとけ!

 野営研修はそのときの俺に任せればいいんだ、今の俺が気苦労を先取りする必要はない。

 さて、そうと決まれば帰り道も気楽にオークを狩りながら行こうじゃないか。


「ブ、ブゴォ……」


 腹内アレス君が「あいつ、美味そう」とか思った瞬間、それを感じ取ったのかオークが及び腰になる。

 これも野生の勘ってやつなのかな?

 とかなんとか思っていたら彼、いきなり逆方向へ走り出す。


「敵に背を向けて逃げ出すなんて、君はそれでも戦士かい?」


 そう声をかけつつ射出したつららが彼の後頭部を貫く。

 その後、彼の体は緩慢な動きで一歩二歩と進みながらドサリと倒れる。

 帰ったら解体して焼肉でもいいな。

 そういえば、今日明日でギルドの解体士採用試験があったんだっけ、天才解体少年やほっそりーずの解体士に舵を切った青年は今頃頑張っているかな?

 そうだ、たぶん合格するだろうからお祝いに魔鉄のナイフをプレゼントしようかな?

 よし、学園都市に戻ったら寄り道して魔鉄のナイフを買って帰ろう。

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