第657話 理想としている領域
『ひたすら激しく打ち合う2人……これは一体、いつまで続くのか……!?』
『ある程度の実力者同士の試合だったとしても、ここまでの激しさであれば、とっくのとうにスタミナ切れを起こしていてもおかしくないですからね……』
『はい、私も好きで武術関係の大会をよく観戦していますが……そうして観てきた中でもトップクラスの激しさですし、もっといえば、ここまで長時間打ち合えているのが驚きです……』
『ナウルンさんのおっしゃるとおりですね……そして、これ以上となるともう……技量や体力といった問題ではなく、どれだけ精神がタフかといった勝負になってくるのだろうと思います』
『どれだけ精神がタフかですか……なるほどですね』
「そうだ、ラクルス! そのまま、お前の実力を全部出し切ればいいんだ!!」
「いくらアレスさんの保有魔力量が豊富だからといって、その勢いで闘っていて無限に体力が続くはずありません! ラクルス、気合で乗り切りましょう!!」
「アレス氏も急激に剣の腕を上げているようだが、ラクルス! 剣による戦闘経験なら、お前のほうが圧倒的に積んでいるはず! その経験を活かすのだ!!」
「お2人とも苦しくなってきているのは同じはず! であるならば、苦しいときほど笑顔でござる!!」
「ラクルス! 負けんじゃないわよッ!!」
「そうよ! その光は単なるパフォーマンスのつもりなの!? 違うなら、勝ってパフォーマンスじゃないってところを見せてみなさい!!」
「もうちょっと! きっと、もうちょっとで勝てるから!!」
「ラクルス……頑張って……」
王女殿下の取り巻きたちから次々に熱いエールが飛んできている。
「ラークールス! ラークールス!!」
「「「ラークールス! ラークールス!!」」」
そして、王国東部から観戦に来た人たちを中心として、それに感化された一般の観客たちからのラクルスコールが聞こえてくる。
といいつつ……別に全ての応援が主人公君に集中しているわけではない。
「東部の奴らはラクルスって兄ちゃんに助けられたみたいだが、俺たちの地元だってアレスさんに助けられてんだ!」
「そうとも! 俺たちだって、アレスさんがいなかったらどうなっていたか!!」
「だからアレスさん! 絶対に勝ってくれぇっ!!」
「アレスさんこそ、俺たちの英雄だぁッ!!」
「アーレース! アーレース!!」
「「「アーレース! アーレース!!」」」
これまで俺が立ち寄った街や村の人々からのあたたかい応援……これは実に嬉しいもんだね。
「アレス兄ちゃんが一番強いんだ! なんたって、オイラの師匠なんだからさ!!」
「おいおい、リッド……『オイラたち』だろ?」
「アレスお兄様~! 頑張ってくださ~い!!」
「あんちゃん! いっけぇッ!!」
「アレスあにぃは、必ず勝つ!!」
そしてもちろん、リッド君たちからの応援もしっかりと受け取っている。
「……アレス、そろそろ決め時なのではないか?」
「ロイター様のおっしゃるとおりです! そろそろ決着といきましょう!!」
「その闘いぶりで、レミリネ流の強さもある程度披露できたんじゃな~い?」
「勝てるぜ! アレスさん!!」
「ええ、間違いなく勝てますよぉ!!」
「アレスさん!!」
「……確信している」
「ラクルスとの試合……もうじゅうぶん楽しんだでしょう?」
「さあっ! アレス君!!」
ロイターたちの言い方では、「さっさと決めろ!」といわれているような気がしてくるね……
まあ、普段から一緒に模擬戦などの訓練をしている関係上、俺にはまだ魔力的余裕が残っていることを知られてもいるだろうからねぇ……
そして現段階の主人公君もかなりいい感じではあるし、これからもしっかりと努力を積み重ねていけば、どんどん強くなっていくことだろう……
だが、今の主人公君に負けるつもりはない……それは、剣術の腕についてもね!
なぜって……それは、日々イメージのレミリネ師匠と模擬戦を繰り返している俺にとって、今の主人公君のレベルはまだまだたいしたことないと思えるからだ!!
「フフッ……お前の剣の腕、実に見事なものである……振り下ろされる剣を受けてみても、魔纏越しにすら圧を感じるほどだからな……」
「……そりゃ! ……どうもッ!!」
「だが……俺の追い求めている領域は、まだまだこんな程度ではない! 遥か遠くに見えるレミリネ師匠の領域こそが目指すべき目標である!!」
「……グクッ……ゥッ……!!」
『なんと、なんと! なんと!! ここまでの拮抗状態がアレス選手によって崩され始めましたッ!!』
『さらに勢いを増すとは……』
全身に流す魔力量をさらに大幅に増やし、身体能力をさらに引き上げる!
まあ、やり過ぎると体がもたなくなってしまうだろうが、それは回復魔法を同時がけで補う!
とはいえ、アレス君の超ハイスペックな体は、ちょっとやそっとで壊れるほどヤワじゃないはず!!
「……お前の強さ! ありがたく俺の糧とさせてもらおう!!」
「グ……クゥッ……! させる……かァッ……!!」
「おぉっ! いい足掻き具合だ! さらに食べ応えが増すというものだな!!」
「グッ……まだだ……まだ! 俺だって……やれるッ!!」
『アレス選手の怒涛の攻め! それに対しラクルス選手も懸命に対抗しているが、徐々に徐々に後退を余儀なくされていくッ!!』
『これ以上は……厳しそうですね……』
そうした攻防が続き……
ようやく……
「……ハァ……ハァッ……クッ……悔しいが……ここまで、みたいだな……降参……だ…………フゥッ……」
「ふむ……最後の最後までよく粘ったものだ、褒めてやろう! それに、お前との試合を経験することで、また少しレミリネ流の神髄に近付けた気がするからな、礼をいおうじゃないか!!」
俺の攻めに抗い切れなくなった主人公君は、ついに膝を屈することとなった。
また、こうした試合だと、やはり模擬戦よりも本気度がいくぶん上がるようで、学びの機会としてはとても素晴らしい時間だったといえるだろう。
「……勝者! アレス・ソエラルタウト!!」
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