第186話 稽古

 空の上からこの空き地に来るまでのあいだ、魔力操作で全身を巡る魔力をいつもより多くする方向で体を慣らした。

 これに関して、魔力操作自体は常に、いってしまえばオートモード状態で日々おこなっていたのだ。

 そこに流す魔力量をちょい足しするだけと考えれば、そこまで極端に難易度が跳ね上がるものではない。

 そのため、まだ完全にとはいえないものの、さほど魔力操作に意識を割くことなく体を動かすことができるだろう。

 こうして俺は、スケルトンナイトのお姉さんの動きを昨日よりもしっかりと見ることができるようになったはずだ。

 また、眼だけではなく、全身に魔力を多く流すことにした副次的効果として、多少は身体能力の向上も見込める気がする。

 よし……これで昨日よりも質の高い指導を受けることができるぞ! ワクワクするねぇ。

 そんな感じで、これから始まる剣術指導への期待感と集中力を高めていく。

 それに呼応するように、お姉さんも鞘から剣を抜き、構えを取る。

 その様子から、いつでも来いといってくれているようだ。


「それでは遠慮なく……参ります!!」


 先ほどの自主練で、俺なりに身に付けたお姉さんの剣術で挑む!


「……!」


 俺の身のこなしを見てお姉さんは、一瞬驚いたような態度を示した。

 どうやら俺の動きが昨日と違って、自分の動きを模したものだと気付いてくれたようだ。

 本人に気付いてもらえたっていうのは嬉しいものだね。

 とはいえそんな一瞬の驚きも、さしたる隙とはならず、俺の一閃はアッサリと対処されてしまった。

 それからというもの、何度打ちかかっても、一つ一つ的確に……丁寧に捌かれる。

 そう、丁寧に。

 これも俺の勝手な思い込みかもしれないが、もしかするとお姉さん……己の技術を俺に見せてくれているのではなかろうか。

 なんというか、動きが型っぽいような感じがするのだ。

 そして、動作の端々から「これがお手本」という意思が伝わってくる……気のせいでなければだが。

 そのため、お姉さんの動きがよく見えるのだ、これは実にありがたいこと。

 ただ、ここまでいっておいてなんだが、お姉さんの意図の本当のところはわからない。

 俺がそんなふうに都合よく解釈しているだけ。

 でも、そんなことは関係ない……現に俺は学ばせてもらっているのだから!

 そんな感謝の念を込めて、ひたすら打ち込む。

 今見せてもらったばかりの動きも、早速試してみる!

 でもやっぱ、簡単に対応されてしまう、だけどそんなことはお構いなし!

 次だ! 次!!

 こうして指導的攻防がしばらく続く。

 そしてある程度のところで、お姉さんの動きが指導的なものから徐々に実戦的な動きにシフトしてきた。

 というのも、先ほどまでは、比較的動きがゆったりと大きめで余裕があったのだが、段々それがなくなり、最小限の動きで見えづらくなってきたのだ。


「なるほど……ここからは、実戦稽古というわけですね!?」


 それからというもの、時間経過とともに被弾カ所と回数が増えていく……もちろん俺の。

 まぁ、圧倒的に俺のほうが実力で劣るのだから当然といえば当然かな。

 その後、夕方近くまでひたすら稽古を付けてもらった。

 フッ、俺は魔力で体力を補っているからね、ほぼ無尽蔵に動けるのさ!

 そんな俺にノンストップで指導ができるお姉さんの体力も大したもんだね。

 まぁ、洗練された動きで無駄がないから、あんまり体力が減ってない説もあるけどさ。

 ……うぅっ、俺もいつかそんなスマートな動きを身に付けたいものだ。

 そして剣を鞘に納めたお姉さんは、昨日と同じく何かを呟き、闇に溶けるように姿を消した。

 う~ん、なんていっているのかはわからないけど、ねぎらいの言葉……だったらいいなぁ。

 それはともかく、お礼をいわねば!


「今日も一日ご指導いただき、ありがとうございます!!」


 そういって、お姉さんが消えた方向に深々と頭を下げる。


「……さて、俺も帰るとするかな」


 今日の稽古は昨日よりも時間的に早く終わったので、学園での夕食に間に合うよう余裕を持って帰れる。

 そのため、夜食用の屋台メシ代に充てるため、ダンジョンを出るまでに遭遇したスケルトンを討伐しながら移動することにした。

 ……ああでも、今日のギルド職員の態度悪かったんだよなぁ。

 あの男しかいなかったら、魔石を売るのは別の日にしよう。

 それにしても、あの態度の悪さ……どうせ貴族家のコネかなんかで押し込んでもらった系だろうね。

 ……おっと、いかんいかん、せっかくスケルトンナイトのお姉さんに稽古を付けてもらうっていう素敵な時間を過ごさせてもらったんだ。

 そんないい気分を台無しにしてしまうようなネガティブ思考とはお別れしなきゃだね。


「……な? お前もそう思うだろ?」

「オォォ!」


 そういって、高枝切りバサミを振り回しながらやってきたスケルトンを一閃して黙らせた。


「まったく、やみくもに振り回せばいいってもんじゃ……ないんだよ?」


 なんて、一端の口をきいてみました。

 ま、俺も今日で剣士として幾分かは成長したと思うからさ、ちょっとぐらいは大目に見ておくれ。

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