第340話 力を貸して

 しっかしながら、この自滅魔法ってやつは本当に厄介だな……

 これはもちろん原作ゲームにも、マヌケ族どもの裏切り防止とか情報が漏れないように口封じ的な扱いで設定されていた。

 そしてこれがあったからこそ、王国はマヌケ族の暗躍になかなか気付くことができず、その後も情報を集めることに苦労させられたのだ。

 まあ、覚悟の決まっているマヌケ族の中には「劣等種族に捕まるぐらいなら……!!」って感じで、人間族を道連れにあえて自爆するって奴もいるけどね……

 原作ゲームでもそういうザコ敵がたまに出てきて、とどめを刺す前に自爆するからその余波でこっちもダメージを受けるっていうのがあった。

 あれが実にウザかったのを記憶している。

 しかもこの自滅魔法……生意気にもマヌケ族の特別製でかなり高度な魔法らしく、魔族でもかなりの上位者でないと解除不可能ときたもんだ……

 そこで解除できそうな俺の心当たりといえば、魔族でトップクラスの実力を持つであろう副学園長のガイエル先生だ。


「ギド……その自滅魔法を抑えるっていうのは、学園都市までもたせられるか?」

「できますといいたいところですが、無理かもしれません……私の心が魔族への裏切りを認識してしまっているようで……徐々に自滅魔法が強さを増してきて、抑えきれない部分が私の体を蝕み始めています」

「なんだと!? ……そうか」


 とりあえずの気休めとしてポーションを使用しつつ……

 確かに馬車で3週間の距離だからな……本気で飛ばしたとしても、どうしても時間はかかってしまうだろう。

 それに、運悪くガイエル先生が不在っていう可能性もあるしな……

 やっぱり、俺がどうにかするしかないか……

 そこで考えられるとすれば……原作ゲームの魔族少女ルートだな。

 そのルートで主人公君は確か、勇者の力だか愛の力による奇跡だか、とにかくそういう謎パワーのゴリ押しで魔族少女の自滅魔法を解除して、最終的に結ばれていたはず。

 その謎パワーのゴリ押しっていうのを、俺なりに再現するしかなかろう……

 勇者ではない、悪役の俺に果たしてそんなことができるのか……

 でも、やるしかない……

 可能性は感じているんだ……

 だから俺はやる……


「フォームチェンジ……聖者(仮)」

「……アレス様、何をなさ……れ……て!?」


 エリナ先生は以前、教師に擬態したマヌケ族が学生にかけた思考誘導の魔法を、光属性の魔法で解除していた。

 その魔法もエリナ先生に教えてもらっていたので、ここで使う。

 そこで解除をよりスムーズにできるよう、光属性をブーストしてくれるような装備品も活用する。

 まずは、スケルトンダンジョンの廃教会にいたスケルトンにもらった首飾りだ。

 そして、「救国の剣聖女」であるレミリネ師匠から受け継いだ剣。

 それから、聖剣モードのミキオ君……ただし、ミキオ君自体は光属性ではないのだが、ミキオ君をとおしたほうが威力が強まるのだ。

 最後に、魔纏も光属性に切り替えて完了。


「……な、なんと……神々しいお姿なのか……」

「これから光属性の魔法でお前の自滅魔法を解除する……だが、魔法はお前も知ってのとおりイメージの力が重要だ。だからこそ、自滅魔法から解放された自分の姿を強く思い描き、己の命を勝ち取れ! そして、生きることを決意しろ! 先ほどお前は俺の全力を求めた……今度は俺がお前の全力を求める!!」

「……御意にございます」


 半ば生きることをあきらめたような……変に悟ったような顔をしていたギドだが、ここにきて目に力が戻ってきている。

 よし、あとは……


『原作アレス君も分かっているね? 俺もギドを助けたいという気持ちはあるが、それでもやっぱり俺自身ギドと出会ってまだ日が浅いこともあって、どこかどうしても想いの強さが足りない気がするんだ……だけど、君は違うだろう? ギドを本当に救えるのは君の想いだけなんだ! だから、君も全力でギドの解放を願ってくれ!!』

『……』


 返事の代わりに、原作アレス君とギドの在りし日の思い出の数々が頭の中を駆け巡っている。

 照れ屋な原作アレス君らしいね……返事はなくとも君の想いは伝わってきたよ。


「それじゃあ……始めるッ!!」

「はいッ!!」


 こうして、構えたレミリネ師匠の剣とミキオ君に光属性の魔力をとおし、ギドに向けて増幅された解呪の光を照射する。

 ギドの奥深くに刻み付けられていた自滅魔法の解除を願って……

 大丈夫、つい最近までソイルが他者の魔法を打ち消すところだって間近で見て学んできたんだ、そのイメージも俺に力を貸してくれるはず!!

………………

…………

……

 しばし解呪の光を照射し、あと少しという感覚はあるのだが……自滅魔法の完全な解除には至らない。

 クソッ! なんでだよ!? 俺じゃあ、主人公君みたいにはなれないっていうのかよ!!

 またあのときの人形にされた少女たちみたいに、助けられないのか!?

 もう、あんなのは嫌なんだ!!

 クッソ! このままじゃ、ギドを助けらんねぇ……!!


『……ギドを助けられない……そんなのイヤだ! イヤなんだぁ!! 母様、ギドを助けて!! お願いだから、僕にギドを助ける力を貸してよ!!』


 そんな原作アレス君の想いが通じたのか、俺の全身を巡る魔力がより活性化されていく。

 そうだな、祈りの力……俺も転生神のお姉さんに祈ろう……それにクール神や、ついでにオッサン神にも。

 ギドを……お助けください!!


「ギド……お前は生まれ変わるんだ! 魔族とかそんなの関係ない、アレスと共に生きる仲間としてッ!!」

「生まれ……変わる……私は生まれ変わって、坊ちゃまと共に生きますッ!!」


 そうした魂の叫びとともにギドはまばゆい光に包まれる。

 頼む!!

 ややあって、光が収まる。

 その中心には、目を閉じて無言でたたずむギド……


「……解けました、私に施された自滅魔法が……跡形もなく解除……されました!!」

「……やった! いよっしゃぁ!!」

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