第292話 一瞬でボロが出ちゃうだろうからね
「アレス様、昼食にいたしましょう」
「……ああ、分かった」
出発が午前9時頃で、この前世でいう道の駅って感じの休憩広場まで休まずに来た。
そして俺は、夏休みの予定をしっかりと決めていたわけではないが、早いうちにソレバ村に行こうかなと思ってはいた。
しかしながら、こうしてソエラルタウト領に先に行くことになってしまった。
まあ、ソレバ村に寄ってからってこともできなくはなかったが、学園都市から見てソレバ村は西の方角、ソエラルタウト領は南西の方角……微妙に遠回りになってしまう。
それに、ルッカさんたちのほうでもキッチリと予定を立てているのだろうと思えば、ワガママもいいづらいというものだ。
……あと、リッド君たちにはなるべく「貴族のアレス」よりも「冒険者のアレス」というイメージを持っておいてもらいたいっていうのもある。
そんなことを思いながら、ルッカさんたちが設置したテーブルに食事を並べてくれるのを待つ。
また、周囲にも俺と同じように学園から帰省中の生徒って感じの奴や、商人や旅人らしき人たちがそれぞれ食事をしたり、休憩をしたりしている。
それらを眺めていると、なんとなくピクニック気分が湧いてきそうだ。
ただし、テーブルには俺ひとり。
斜め後ろにルッカさんが立っており、その周りに護衛のお姉さん3人が周囲を警戒している。
そして残りの護衛3人と御者のお姉さんは少し離れたところで食事をしているが、交代で食べるって感じかな?
それはそれとして、やべえ、落ち着かない……
とはいえ、ほかの貴族らしき奴も同じようなスタイルで食事をしているので、これがスタンダードというべきなのだろう。
うぅ……お姉さんたちに「一緒に食べましょう!」っていいたい。
でも、それはソエラルタウト家モード的にはアウトな気がするからなあ……
ああ、こういうところも地味にしんどい。
「アレス様、お口に合いませんでしたか?」
「いえ、そんなことないで……ある! 美味い、実に美味いぞ!!」
「そうですか、それはようございました」
……ルッカさん、不意打ちはやめてくれないかな?
なんか、考え事をして気が抜けているときとか、絶妙なタイミングで声をかけてくるんだよな……
そのせいで、お姉さん用の態度がとっさに出てしまいそうだよ。
……もしかして、わざとなのかな?
そんなことを思いつつ、チラリとルッカさんへ視線を向けてみる。
「なんでしょう?」
「いや、なんでもない」
「そうですか」
うん、そのお澄まし顔、とってもステキではあるんだけどね……
そして、護衛のお姉さんたちはすんごい小声で「あのアレス様が『美味い』だなんて……」とかいってるし。
まあ、原作アレス君は悪役らしく、他者を褒めるような発言はしなかったみたいだからね……
というわけで、ルッカさんと会ったとき外した異世界あるあるがここで飛び出したってわけだ。
でもなんか、いろいろと落ち着かないこともあって、異世界あるあるの発動を喜びづらいって感じがしちゃう。
とまあ、そんなこともありつつお昼を食べ終え、休憩もじゅうぶんというところでソエラルタウト領へ向けて再出発である。
ちなみに馬車の中では、魔力操作をしながらレミリネ師匠と脳内模擬戦を繰り広げている。
これについては、ゼスの馬車でも同じように魔力操作をしていたので、いつもどおりのことではある。
ただ、今回に限っては「あえて」という意味合いが強いといえるだろう。
だってさ……ルッカさんや同乗している護衛のお姉さんとおしゃべりなんかしたら、一瞬でボロが出ちゃうだろうからね。
「アレス様、汗をお拭きします」
「あ……りがとう、礼をいう」
「いえ」
なんというか、中途半端なソエラルタウト家モードになってしまった。
それにしてもルッカさん……やっぱりあなた、わざとだね?
そして同乗している護衛のお姉さん2人は「アレス様が礼をいうだなんて……」って感じで顔を見合わせている。
まったく……これがソエラルタウト家と関係なかったら、お姉さんに囲まれて幸せ空間だというのに……
いや、囲まれているといっても、護衛のお姉さん4人は移動のあいだ馬車の外だ。
それぞれ馬に乗っていて、まさしく騎士って感じ。
それから、午前とは違うお姉さんが馬車に乗っているので、6人でローテーションしてるのだろう。
そんな感じで、休憩を挟みながら移動を続け、今日の目的地であろう街に到着。
そしてホテルにチェックイン。
まあ、ソエラルタウト侯爵家らしく泊まるのはもの凄く広い部屋……いわゆるスイートルームってやつだろう。
とはいえ、前世のテレビとかでしか見たことないんだけどね。
ああ、原作アレス君が泊まった記憶はもちろんあるけどさ。
というか、よく考えたら学園で俺に割り当てられた部屋もメチャメチャ広かったね。
そういった意味では、既にスイートルーム経験者といっても過言ではなかったかもしれない。
なんてことを頭の片隅で考えつつ、夕食の時間まで魔力操作をしながらレミリネ師匠と脳内模擬戦の続きをしたのだった。
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