第547話 それを愛でるわたくしがいる

「それじゃあ、失礼するわ」

「みんな~! 明日も頑張ろうねっ!」

「それでは、ごきげんよう……うふふっ、ここからは女同士の友情を深める時間としましょうね」

「私たちもお供しますわ! ああ、男性陣の皆様も、また明日よろしくお願いしますね」


 模擬戦の反省会が終わり、女子チームは女湯へ向かって行った。

 こうやって模擬戦をするようになって最初の頃は、ファティマとパルフェナの2人だけで女湯に向かっていたものだが、今ではエトアラ嬢とその取り巻きたちも含めた団体さんとなっている。

 う~む、そんな変化を思うと、なんだか感慨深いものがあるね。

 そして、同じように俺たちも……


「よっしゃ! そんじゃあ、俺たちも男同士の友情を育みに行くとするかね!!」

「まあ、そうだな」

「というかもう、日々のルーティンみたいになってますからね」

「あはは、そうですね!」

「ま、解放感あっていいだろ!」

「解放感というか……この中には、いろいろはっちゃけた人もいますからねぇ……誰とはいいませんけどぉ」


 ロイターやサンズ、それからソイルとトーリグはいいとして……ハソッドの発言は聞き捨てならんな。

 なぜなら発言の際、チラリと俺に視線が向けられたからである。


「……モミジ祭り」

「フフッ、アレス……今日も開催しちゃうのかい?」


 そこでヴィーンがボソッと呟き、セテルタがそれを拾い、俺に問いかけてくる。

 その問いに対し、俺の答えは決まっている。


「フッ……当然だ」

「ええと、セテルタ様……その『モミジ祭り』とは?」

「それはまあ、大浴場に着いてのお楽しみ……かな? ね! アレス?」

「フッ……まあな」

「嫌な予感がするのですが……」

「そういえば、何やらウワサがあったような……?」


 とまあ、俺とセテルタのやりとり……そして、それを受けてセテルタの取り巻きたちがザワザワし始めた。

 そう焦らずとも、男湯という名のそのときはもう、すぐそこまできているのだ。


「フッ、お前たちも、そのときがきたら楽しむといい……きっと楽しいから」

「えぇ……」


 そうして俺が優しく語りかけてやると、セテルタの取り巻きたちは不安の声を漏らすのだった……


「あの景色……壮観と呼ぶにふさわしいわね……」

「まさしく、イケメンの理想郷……」

「ほんに、ほんに……」

「それにしても、聞きまして? 果たして『モミジ祭り』とは、いかなる催しなのでしょうね?」

「きっと……崇高なる催しに違いない……」

「嗚呼、私も男に生まれていれば……」

「でも、あーた……仮に殿方として生まれてきたとしても、ああまで魅力的になれるとお思い?」

「……うっ……え、えぇと……それはきっと! アレス様のおっしゃるとおり、魔力操作をすればおそらく! ……そうであると思いたい!!」

「……へぇ? そう……あーたが殿方に生まれ、おっしゃるとおり魔力操作によって魅力を開花させ、それを愛でるわたくしがいる……もしかしたら、そんな世界線があったのかもしれないのね……そう思うと、少し残念だわ」

「えっ? ええと……まあ、そう……なのかな?」

「アンタたち! そんな非現実的な話は置いといて、今は彼らを眺めることに集中するときよ!!」

「ほんに、ほんに……余計なことを考える暇なんてない」

「それもそうね……」

「う、うん……」


 ふむ、世界線……ね。

 俺たちを見てキャイキャイしている女子たちの会話の中に世界線っていう単語が出てきて、ちょっと興味が引かれた。

 いや、だってさ……俺がその世界線っていうか、世界そのものを飛び越えてきた存在だからね。

 まあ、それも偶然というか、転生神のお姉さんの慈悲によるものだろうからね……おそらく再現性とかはない気がする。

 ……とまあ、少しばかり興味を引かれたが……なんにせよ、俺は転生神のお姉さんへの感謝を捧げるのみ!


『いつも、ありがとうございます』


 そうして心の中で感謝の祈りを捧げると、転生神のお姉さんが慈愛のこもった笑顔を見せてくれた。

 まっこと美しい……ありがたや、ありがたや……


「ア~レス! 急に立ち止まってどうしたの? ……それに魔力の雰囲気も強くしちゃってさ」


 ここで、セテルタが声をかけてきた。


「ん……ああ、この世界に……そして、お前のような人々との出会いに感謝していたところさ」

「急に改まっちゃって……なんだい、それ?」

「フフッ、俺は毎日が幸せってことさ! それにセテルタ、お前も今……最高だろ?」

「アハハッ、それはもちろん! アレスやみんなのおかげで、この上なく最ッ高だね!!」

「そうだろ、そうだろ! そんじゃあ……そろそろ始めますか!?」

「おっ! いよいよだね!?」


 こうして、男湯の入口に向かって進む。


「……あの煌めき……神々しい」

「やはり、セテルタ様とアレス様が並ぶと……一味違う」

「ほんに、ほんに……」

「……っていうか今、ホントに輝いてなかった?」


 そしてまた、女子たちの会話が背中から聞こえてくる。

 まあ、セテルタにも指摘されたが、祈りを捧げた瞬間ちょっとばかり光属性の魔力が放出されてたかもしれないね。

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