第624話 押して押して押しまくる性格

『先ほどの、アレス選手とテクンド選手の試合が魔法勝負だったとするなら、こちらのラクルス選手とトーリグ選手の試合は剣術勝負といったところでしょうか?』

『そうですね、2人とも剣術をより得意とした戦闘スタイルなので、その認識でいいと思います』


 まあ、主人公君は原作ゲームの設定にもあったように、今はまだ物理戦闘寄りの段階なんだろうね。

 ただ、東部で発生したモンスターの氾濫を鎮圧した際、勇者の力にちょっと目覚めたっぽいし、これから主人公君がどの方面に努力を振り分けていくかによって、魔法戦闘寄りになっていくなど戦闘スタイルもどんどん変わっていくことだろう。

 なんてったって主人公君は、あらゆる方面に才能があることを原作ゲームによって約束されているみたいなもんだからね!

 とかなんとかいってるけど、今の時点でも主人公君の魔法能力は決して低いわけではなく、むしろ高いほうだ。

 だって、王女殿下の取り巻きたちと一緒に魔力操作の練習等にも励んでいるからね、勇者の力を抜きにしても伸びないわけがない。

 でもまあ、この世界の主人公君は剣術志向のようにも見えるから、やっぱり物理戦闘メインでこの先も成長していくかもね。

 それに対してトーリグの場合、ソイルの阻害魔法によって魔法が封じられていた状態が長かったため、幸か不幸か物理戦闘に絞って鍛錬を積むことになった。

 また、もともとの気質として物理戦闘寄りだったことも相まって、トーリグの剣術レベルはかなり高いといえるだろう。


『それにしてもトーリグ選手、全く勢いが衰えませんね? 攻撃寄りと目されていたラクルス選手が現状防戦一方であることからしても、その勢いの強さが伝わってきます』

『……ただ、ラクルスさんもしっかり視えているようで、トーリグさんの攻撃を一つ一つ丁寧に捌くことができています』

『確かにスタンさんのおっしゃるとおりで、未だにトーリグ選手は有効打を決めることができていませんね』

『しかしながら、今のところトーリグさんが押しているのもまた事実なので、ラクルスさんとしても早く反撃の糸口を見つけたいところでしょう』

『なるほど……どちらかの集中力が途切れた瞬間が、展開の変わり目となりそうですね』


 ふむ……トーリグの勢いが強いのは当然といえば当然かもしれない。

 というのも、夕食後の模擬戦で対戦するとき、いつも俺の防御を正面突破しようとしてくるからね。

 そんな感じで、押して押して押しまくる性格のトーリグなんだ、どうしたって勢いが強くなるのさ。

 しかも、俺相手ってところがミソで、日頃からひたすら攻撃を繰り出し続けることには慣れているので、そう簡単に集中力が切れることもないだろう。


『この試合、いつまでトーリグ選手の猛攻が続くのでしょうか……その気力と体力に脱帽ですね……それをミスなく捌き続けているラクルス選手にも驚きですが……』

『2人とも、並行して魔力循環をおこなうことで体力回復もできているようなので、体力という面ではまだまだやれそうですね』

『となると、この展開はまだまだ続くといえそうですね……』

「まだまだ続くってマジかよ……」

「確か、さっきの試合でも魔力をなんたらして、永遠に闘っていられるとかいってたよな?」

「ああ、そんなようなことをいってた気がする……まったく、今年の奴らはどうなってんだ?」

「しっかし、最初はド迫力の打ち合いだなぁって思ってたけど……それがこうも続くと、ちょっとダレてきたな……」

「そうか? 見応えのある攻防だと思うのだが……」

「まっ! ここまでのレベルとなると、分かる奴にしか分っかんないんだろうなぁ?」

「うっわ、うぜぇマウント取ってきやがった……」


 まあ、同じ展開が続いているのも確かなので、飽きる奴が出てくるのも仕方ないかもしれない。

 とはいうものの……


「……徐々にトーリグの剣が読まれ始めているようだな?」

「ええ、ラクルスさんの反応が早くなってきていますからね……」

「う~ん、着々と反撃を入れる準備を整えているって感じかな?」

「トーリグ! このままではマズいですよぉ!!」

「行っけぇ! トーリグゥッ!!」

「……押し切るんだ」

「あなたの実力はその程度ではないはず」

「頑張って! トーリグ君!!」


 ロイターたちがいうように、トーリグの勢いが削がれつつある。

 そのため、応援の声を強める。


「トーリグ! 次は俺とやるんだろ!? なら、そんなところでモタモタしてないで、早く上がって来い!!」


 やはり日頃からつるんでいるだけあって、心情的にはトーリグを応援している。

 ただ、原作ゲームのことを考えると、主人公君の強さに興味が湧かないわけでもない。

 それに、ここで負けるようであれば、魔王に対抗する者として期待しづらくなるのも確かだ。


「うぉぉぉぉッ!!」

「ぐ……」

『ここでトーリグ選手! ラストスパートといわんばかりに、さらに勢いを増してきたぁッ!!』

『剣を合わせながら少しずつラクルスさんのリズムに移りかけていて、あのままだと完全に形成が逆転していたでしょうからね……いい判断だと思います』


 ここでトーリグが決め切れるかどうか……

 そして、主人公君は本当に主人公となり得る器なのか、一つの試金石となるだろう。

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