第623話 必然的にオールラウンダー

『……アレス選手とテクンド選手の試合による興奮がまだ残っている方もいらっしゃるかもしれませんが……現在、係の者によって舞台の整備がおこなわれ、それと並行してラクルス・ヴェルサレッド選手とトーリグ・ザスツ選手が武器の選定をしているところです』


 いやぁ……俺もテクンドもドカドカ魔法を撃ちまくって、まあまあ舞台を荒らしてきたからねぇ……

 俺の体の大きさぶんの砂なんかも残してきちゃったし……いやはや、すまんね。

 そこで、舞台の整備をおこなってくれているのは、主に本戦に出場しない生徒会の皆さんである。

 その中に先生もいて、基本的には指示を出したり、作業に遅れが出ているところなんかがあればサポートもしたりしているって感じだ。


「……ラクルスって名前と、あの顔……もしかして?」

「おお、お前も気付いたか! あの方は王女様の指揮の下、俺たちの街をモンスターの氾濫から守ってくれた大功労者だ!!」

「……モンスターの氾濫っていうと……ああ! この夏、東部で起ったっていう、あのときのか!!」

「ふぅん? それじゃあ、あのラクルスって学生は、お前たちの大恩人ってわけだな?」

「おうよ! もちろん一番は王女様だし、ほかのご学友たちも活躍なさっていたけど……その中でも、ラクルス様は群を抜いてたんだ!!」

「そういや……実況をしているナウルン様も、あのとき活躍されてたよな?」

「そうそう! ラクルス様みたいに前線でモンスター共をバッタンバッタン倒してたってわけじゃないけど、えぇと……後方支援っていうんだっけ? そういうサポートって感じのことで活躍されてたよな!!」

「へぇ、モンスターの氾濫なんか自分の住む街で起きて欲しくはねぇけど……王女様たちの活躍を間近で見れたってこと自体は羨ましく思えてくるなぁ……」

「ま! そのラクルス様のスンゲェところをこれから見れるってわけよ!!」

「そのとおりっ!!」

「なるほど……つまりこの試合、お前らはラクルスって学生を応援するってわけだな?」

「ふむ、そんな話を聞いちゃうと……俺もラクルスって奴を応援してみっかな?」

「とりあえず、お前ら……ラクルス『様』な?」

「ラクルス様は心の広い方だから、そういうちっちゃいことは気にしないだろうけどなっ!」


 ほうほう、夏休み中に王女殿下たちが遭遇したモンスターの氾濫が起こった地域から観戦に来ている人もいるみたいだ。

 まあ、この武闘大会は、年に一度のお祭りみたいなものでもあるだろうからねぇ。


『……どうやら、ラクルス選手とトーリグ選手の装備が確定したようで、両者が舞台中央にそろいます……そして、王女殿下から胸ポケットに最上級ポーションが挿入されようとしています』


 ふむ、あんまり気にしてなかったけど、外から見たらあんな感じなのか……改めてなんか、ちょっと恥ずかしいっていうか、照れる感じがしちゃうね。


「……なんか、トーリグの奴……メチャクチャ光栄な状況なのに『興味ありません』って顔してね?」

「してるね……もしかして、硬派ぶってんのかな?」

「本当に硬派なのかどうかは知らないけど……アイツって基本『女なんかに興味ねぇ!』って態度はずっとしてると思う」

「ああ、たまにそういう奴っているよね? そんで、何年後かに後悔するってパティーン……トーリグも将来そんな感じになるんだろうなぁ、かわいそうに……」

「といいつつ、さっきの魔力操作狂いとかテクンドも、割と反応が薄かった気もするけどね?」

「う、う~ん……魔力操作狂いは熟女狂いだし……テクンドはテクンドで、あのとき魔力操作狂いしか目に入ってなかったっぽいから……その2人はノーカンってことで……」


 だから、熟女狂いじゃなくて、お姉さん大好き民って呼びなさいよ。

 いや、別にいいんだけどさ……ただ、若干人聞きが悪い気がするんだよなぁ……

 そんな生徒たちの会話もチョイチョイ耳に入ってくる中で準備は整い、あとは審判による試合開始の合図を待つだけとなったようだ。


「……両者構えてっ! ………………始めっ!!」

「しゃぁッ!」

「来い!」

『審判の掛け声により、1回戦第2試合の幕が上がったぁっ! そしてまずはトーリグ選手の突進! それを待ち受けるラクルス選手といった構図だっ!!』

『トーリグさんといえば、やはりあの突進力がまず挙げられるでしょうね』

『スタンさんのおっしゃるとおり、トーリグ選手! 猛烈な勢いでラクルス選手を攻める! 攻める!!』

『対するラクルスさんといえば……やや攻撃寄りな印象もありますが、基本的になんでもそつなくこなすオールラウンダーといったところでしょうか』


 まあね、原作ゲームでも主人公君はプレイヤーの好みというか、だいたいのプレイスタイルに対応できるよう、ステータスが満遍なく伸びるように設定されているから、必然的にオールラウンダーになるだろうなって感じだ。

 だから、物理でも魔法でも、プレイヤーのお好みでどうぞっていえるんじゃないかな?

 とはいえ、学園に入学前は実家で剣術をメインに教わっていたって設定だから、序盤は物理戦闘が中心になると思う。

 それに、序盤は使える魔法も限られているから、なおさらそうならざるを得ないだろうね。

 とまあ、そんな感じで主人公君とトーリグの試合……じっくり観させてもらうとしようか。

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