第438話 取り越し苦労ならそれでもいいのさ

 ここ数日、とおりかかった街の人々が「食品の値段が上がった」とかいってぼやいているのをちょくちょく耳にする。

 我が実家たるソエラルタウト家では偶然にも領軍総出で氷系統の魔法に手を付けたおかげか、いうほど気候の影響を受けていないっぽい。

 まあ、勢いで雪の街とかも作っちゃったぐらいだもんね。

 加えてノーグデンド領でも、スライムダンジョンの大繁殖ぐらいしか騒がれていなかった気がする。

 それで体感としては、北上してくるにつれてぼやきの声が増えてきたかなって感じだ。

 それとも、俺たちが通過したときは影響が表面化する前だったのかな?

 とはいえまだ「値上がりしたから節約しなきゃだな~」ってぐらいの話だから、そこまで深刻というわけでもなさそう。

 だが、これから深刻になってくるかもしれない。

 というわけで、食糧難がそこまででもない今のうちに街や村周辺のゴブリン狩りをして、大量に回収した素材を冒険者ギルドに納入しながら移動することにした。

 まあ、ある程度金を持った市民とかなら「おかずが一品減った」とかぼやくぐらいで済むかもしれんが、普段でもギリギリな層とかはヤバいかもしれないからね。

 というか、異世界転生の先輩諸兄もシチュエーションは違えど、そういう食うに困って盗賊堕ちした奴とよく遭遇していた気もするし。

 だから先手を打って、いつもなら冒険者たちにそのまま森に放置されがちなゴブリン肉を市場に溢れさせつつ、人々に「困ったらゴブリン肉を食おう!」という意識の芽生えを誘うことにしたのだ。

 それに何より、この世界にとってゴブリンは物凄く低コストなのか、無限に湧いてくるっぽいからね!

 狩り尽くすってことがなさそうなところも大変よろしい!!

 フッ、これはなんていうか……「初心に帰った」って気がしてくるね。

 だからさ……ちょっとぐらいご飯を多めに食べることを許してくれると嬉しいなって思うんだ。


「も、もしかして……アンタがウワサのゴブリン狩りなのかい?」

「ああ、学園都市でそう呼ばれていたこともあったな」

「やっぱり……」


 立ち寄った街にある冒険者ギルドの解体兼保管所を担当しているオッサンがそういってワナワナしている。

 まあ、こういった対応はここまで来るまでにも何度かあったので、またかって感じだ。

 でもまあ、この「またか」って感じがね、まさしく異世界転生者っぽくて嬉しくなっちゃう!


「このまま食品の価格が上がり続けたとしても、これぐらいゴブリン肉があればギリギリの生活者でもしばらくは飢えをしのぐことができるだろう?」

「お、おう……味は酷いが、一応食えはするからな……だが、そこまで心配するほどかねぇ……?」

「それは分からんが……南から北上してくるたびに『値上がりした』とメソメソいってる奴が増えている気がしたからな……念のためって感じだ」

「まあ、俺みたいな独りもんは、食いもんのことはギルド宿舎のババア任せであんまり頓着なかったからなぁ……」

「『ご婦人』……な?」

「え? あ、ああ……ご婦人……はい……」

「なんにせよ、俺の取り越し苦労ならそれでもいいのさ。それにゴブリンの素材は何かと使えて無駄にもならんだろう」


 正直なところ、心置きなく腹内アレス君の求めに応じてメシを食いたいだけだし。


「う~む、それじゃあ俺も、一応あとでゴブリンの素材回収を奨励するようギルマスに提案しておこうかなぁ……?」

「ああ、それもよかろう」


 こうしてゴブリンの素材を納入し終えて、ギルドをあとにする。

 ちなみに、ゴブリン関係の報酬は全て孤児院に寄付している。

 ここ最近気付いたのだが、冒険者ギルドには数ある孤児院に上手く分配してくれるとか手続きのアレコレを代行してくれる仕組みがあったのだ。

 また、こういうのは直接的な儲けにはならなくても、ギルドによるランク査定の加点要素となるので、意外とバカにできないらしい。

 だからさ、その……受付嬢のお姉さんの前で見栄を張ったってわけじゃないからね!

 というか、今さらゴブリンの報酬ごときでゴチャゴチャいうレベルでもないし!!

 あと、ギドや3人娘も俺に倣ってというべきか、同じように孤児院に寄付をしている。

 まあ、ギドたちにとっても、そこまで気にするほどの金額でもないということなのだろうさ。


「さて、そろそろ腹も減ってきたし……ホテルに移動するとしようか」

「こちらです、アレス様」

「おう、そうか」


 こんなふうに、ホテルの手配とかを任せられるのは楽で助かる。

 といいつつ「泊めてくださいな」「あいよ」でお金を払って終わりだろうから、そこまで大変なことでもないかもしれない。

 でもやっぱ、面倒は面倒だからね。

 そんなことを思いつつ、ホテルの部屋に着いてまずはシャワーを浴びる。

 また、それまで着ていた平静シリーズに浄化の魔法をかける。

 この際、自分の身体にも浄化の魔法をかければいいだけなんだろうが、なんとなくルーティン化してしまっているからね。

 そしてまた平静シリーズを着る。

 学園都市までの道中は基本的にこのまま平静シリーズを着るつもりだ。

 例外があるとすれば、通過する領地の貴族に挨拶をするときぐらいかな?

 ま、それも屋敷のある領都をとおりかかったときぐらいだろうね。

 そんなことを思いつつ、夕食をいただきに食堂へ向かう。

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