第490話 それがあった
ふむ、将来女王にでもなれば、こういう小競り合いの仲裁とかも仕事のうちになるかもしれんからね、今のうちに練習してるのかなって感じだ。
そして俺の原作アレス君部分はこういう場面を前にしても、特に王女殿下に思うところなし……これは助かる。
原作ゲームの強制力が働いて~ってなったら面倒だもんね!
「……えっと、何かあったのですか? どことなく雰囲気がザワついているような気がするのですが……」
「ん、いや、ちょっと騒がしくしていた者たちがいたってだけの話だ、気にすることはない」
「そうですか、私が遅れてきてしまったばっかりに、アレス様に不快な思いをさせてしまったのでは思いまして……重ねてお詫び申し上げます」
「授業が長引いてのことだろう? そんなことで怒ったりはしないさ」
ここでエリナ先生の授業が長引いた場面を想像して、ちょっといいなって思ってしまった。
とはいえ、エリナ先生はキッチリしてるからといえばいいのか、割と時間内に収まるように授業を終えてしまう。
そのため、授業が長引くってことも基本的にない。
はぁ、エリナ先生の授業ならいくらでも長くなっていいのになぁ……
「ありがとうございます、アレス様」
「よい。それよりも、早く食堂へ行こうか」
「そうですね」
ま、約1週間も毎日女子とメシ……それも日替わりだと、さすがに大した面識のない相手でも慣れてきたといえる気がする。
とはいえ、当たり障りのないレベルの対応に限るけどね。
そんなわけで、軽く食事を共にしながら魔力操作を勧めて終わり、それ以上の重めな話はカンベンな!
そんなことを思いつつ、席に着く。
「わぁっ、たくさんですねぇ……私、いっぱい食べる方って頼もしくてステキだと思います」
「まあ、これでも一時期に比べたら抑えているほうだがな」
まさか……この子も!?
なんて一瞬、ファティマの顔が思い浮かんだ……
ま、まあ、単なるお世辞だよな……大丈夫、そのハズ!
「そうなんですねぇ、そして私も食べることが大好きなもので」
「そうか」
確かに、この1週間のうちに出会った女子の中ではかなり食べるほうだと思う。
それはこのテーブルの上に並んでいる料理の多さからも感じることだ。
そうして、なんとなく対面している女子に目を向けてみるが……特にぽっちゃりしているというわけではない。
でもまあ、ふんわりとした感じはするかな?
それはこの子が持っている雰囲気というべきものかもしれないが、なんとなく包容力がありそうって思った。
とはいえ、食べるのが好きってことだし、それだけリラックスしているってことなのかもね。
とりあえず、先ほどの待ち合わせ場での会話よりはくつろいだ感じを受ける。
「あ、今日のコロッケも衣がサックサクしてて美味しいぃ~」
「うむ、確かによく揚がっているな」
「ですよねぇ~」
本当に幸せそうに食べる子だな……
その笑顔を見ていて、意外と男ってこういう子が好みだったりするんじゃない? とか思ってみたりもした。
いや、会ったばっかでそこまでよく知らないけどね。
「こっちのから揚げは、スパイスが効いてて食欲がそそりますねぇ~」
「ああ、いいアクセントになっている」
「うふふふ~」
まさに、食べることを楽しんでいるといった感じだ。
「……あ、いっけない! 私ったら、はしたないところをお見せしてしまってすみません」
「いや、謝ることなどない、気持ちのいい食べっぷりだと思うぞ?」
「えへへ、ちょっぴり恥ずかしいです」
そういいながら頬を染めているのだが……この振る舞いはどうなんだろう?
貴族の打算的な付き合い構築を考えた場合、このマイペースさは失点ものな気がしなくもない。
少なくとも、この1週間で接した女子たちはもっと肩肘張ってたように思う。
まあ、単なる1人の男という観点から考えれば、愛嬌のある子だねって印象になるだけだろうけどさ。
ふむ……これが先ほどの女子たちが話していた「自由な恋愛」の自由な部分なのかもしれない。
とりあえず、今までとはちょっとタイプが違う子なのだと認識しておくかな。
そんなことを思いつつ、食事を平らげていく。
その終わり頃……
「アレス様、実は私クッキーを焼いてきたんですけど……もしよかったら、食べていただけませんか?」
食後のデザート的な感じでクッキーを出してきた。
そこで「ほう、クッキーとな?」とかいって腹内アレス君が反応を示した。
俺としては既にご飯を食べたばかりだろうに……という感じがしなくもない。
ああ、別腹ね……はいはい。
「……ごめんなさい、迷惑でしたか?」
「いや、構わない……少し自分の腹と相談していただけだ」
「本当ですか!? ありがとうございます!!」
パアッっと表情が明るくなる女子。
クッキーを食べる程度でそんな喜ばんでも……と思わなくもなかったが、黙っておこう。
腹内アレス君も「さっさと食わせろ!」といっているしさ……
そうして、手作りクッキーを口に運ぶ。
「……うむ、美味いぞ」
「やったぁっ! 美味しいといってもらえて嬉しいですっ!!」
「まあ、思ったことをいったまでだ」
そして腹内アレス君が「もっとよこせ!」と催促してくる……はいはい、分かりましたよ。
こうしてひょいひょい食べていく。
「美味かった……なかなか菓子作りが上手なようだな?」
……と、腹内アレス君がおっしゃっております。
「そんな、私なんて全然……お菓子職人の足元にも及びませんし……」
「確かに、職人のような技術も大事であろう……しかし、そこに込められた『まごころ』こそが本当に重要なのだと俺は思う……お前のクッキーにはそれがあった」
……と、やはり腹内アレス君がおっしゃっております。
でも、ホントにそうなの?
まごころうんぬんについて、俺はよく分からんかったよ?
ただ餌付けされただけなら、腹内アレス君チョロ過ぎん?
「アレス様……ありがとうございます……」
あれ……なんかこの子、感極まっちゃったみたい。
というか、泣くほど?
「うむ、メノ・ルクストリーツといったか……お前の名とクッキーの味、このアレス・ソエラルタウトよく覚えておこう」
……と、やっぱり腹内アレス君はおっしゃっておりますが……そんな大げさな話だったの?
普通といっちゃなんだけど、ただの手作りクッキーだったよね?
それにしても、よく名前覚えてたね……
『当然だ、この未熟者め』
えぇ……そこまでいわれちゃうの……?
手作りクッキーだけでここまで懐柔される悪役ってどうなん? って思わなくもないんだけど。
「待っていてくださいアレス様……私、いつかきっと最高のお菓子を作って御覧に入れます!」
こっちはこっちで、変な燃え上がり方をしてるしさ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます