第491話 勇気をもらえたのですから
ぶっちゃけ腹内アレス君だって「この子が手作りクッキーを出してくるまで名前を忘れてたでしょ?」っていいたい。
なぜなら、そういう貴族の基本的な情報ってあんまり頭に残ってないもん。
それにいっつも、新しく接した人の名前とかもほとんど聞いてないだろうし。
いや、脳のほうはどっちかっていうと俺が握ってるっていわれちゃうかもしれないけどさ。
まあ、腹内……も含めた原作アレス君の本当の好みとしては、こういう子がストライクゾーンに入ってくるのかな?
……いや、俺のお姉さん好きに影響を受けた部分もあるかもしれないが、エリナ先生やナミルさんの手料理にも反応してたし、そういうのが原作アレス君には効くのかもしれん。
とはいえ、前世でも「胃袋をつかむ」って言葉を聞いた記憶があるし、男はやっぱそんなもんなのかな?
……しかしながら、俺は手料理「だけ」でハートを奪われたりなんかしないけどね!
なんせ、独り暮らしをしていた頃なんて、一日一食とか余裕だったし!!
俺は食べ物で釣られるほどチョロくねぇぞ!!
……って、なんか反応してよ! 腹内アレス君ってばぁ!!
『……くだらん』
しどい……気分的に「ひどい」じゃなくて「しどい」……
そう普段の言葉遣いに特別感を持たせたくなるぐらいの俺の気持ち、君にわかるかい?
『……知るか』
まぁ~っ! なんて男なのかしら!!
『いいから、メノの対応をしろ………………体を使わせんぞ?』
はいッ! すみませんでしたァ!!
……でもよぅ……へへっ、あっしらは「ふたりでひとつ」……ねぇ、そうでしょう? マイブラザー!!
「……えっと、どうされましたか?」
「え、いや、ははは……クッキーの味について、自分の腹と改めて語り合っていたんだ」
「そうなんですか? そこまで気に入ってもらえたなんて……感激ですっ! こうなったら私、トコトン頑張っちゃいます!!」
「そ、そうか……」
えっと、君……貴族の令嬢だよね?
俺がいうのもおかしいかもしれないが、お菓子作りにそこまで本気になって大丈夫なの?
お家の人とか心配しない?
俺のそんな気持ちが顔に出ていたのだろう、続けてメノがフォローの言葉を発する。
「あ、えっと、うちの領地では小麦とかの栽培がさかんでして、お菓子作りもその一環だったりするんですよぉ」
「ああ、付加価値を付けて売るとかそんな感じか?」
「はい、そんな感じですねぇ。あとは長期保存に向くクッキーの開発なんかもしたりしてます……やっぱり、みんながマジックバッグみたいな保存用の魔道具を持っているわけではないですからね」
「ふむ、平民とかは特にそうだろうな……それに、メノが凄い美味いクッキーを作り上げたりなんかしたら、目玉商品の開発に成功って感じで快挙となるわけだ」
「あはは、実際のところ昨日まではいち令嬢のただの趣味ってレベルだったんですけどねぇ……でも、アレス様に勇気をもらえたのですから、本気で打ち込んでみたいと思います! そう決心がつきました!!」
「う、うむ……」
なんか、この子の進路を決めさせちゃった感があるんだけど……
腹内アレス君の言葉一つで……なんというか俺みたいなエセじゃなくて、腹内アレス君こそがマジの導き手なんじゃないの?
なんて思いつつ、まあ……この子の領のためでもあるからいいのか……な?
それにしても小麦の栽培か……
「そういえば、メノの領地ではこの夏、猛暑の影響は大丈夫だったのか?」
「はい、うちの領地はそこまで大きくありませんので、ある程度目が行き届いたはずです。私も学園都市に向けて出発前、少しだけですけど畑の世話を手伝いましたし。あと、先ほども少し話しましたが、こういうときのために長期保存に向くクッキーの開発もしてました。あ、ちなみに、これがそのクッキーです」
パルフェナのところもそうだったみたいだが、やっぱ経験と技術のあるところは強いんだなぁ。
「へぇ、これが……」
試しに食べてみたが……うん、単なるクッキーってだけ……というより、もっとそっけない味。
いや、別にマズくて食えんってわけじゃないし、食べる物に困ったらこれほどありがたいものもないだろう。
「あはは……味はまだまだ改良の余地ありですけどね。あと、もっともっと長期に保存できるようにしたいですし」
「なるほど、とっても素晴らしい試みだろう、ぜひとも頑張ってもらいたいところだ」
ここで前世知識の出番! っていわれるかもしれないけど、残念ながらどうやったらそういうのができるかとか知らないんだ、スマンね。
とまあ、こんな感じでこの1週間に出会った女子の中で一番会話が盛り上がったかもしれない。
というか客観的に見ると、これまでは魔力操作を勧めるターンに入ったら俺の独壇場って感じになっていたような気もするしさ……
もちろん、今回も魔力操作を勧めるのを忘れてはいない。
だが、あまりクドクドいう必要もないぐらい、メノは魔力操作に前向きだった。
「そっか、魔力を舌や鼻に集中させたら、味覚や嗅覚を強めることができるんですね! 部屋に戻ったらさっそく試してみます!!」
とかいって、ノリノリだったし。
たぶん、お菓子作りに上手く魔力操作を応用させることだろう。
「それでは、今日はとっても楽しい時間をありがとうございます! もしよかったら、またご一緒してくださいね!!」
「ああ、分かった」
「今度はも~っと美味しいクッキーを焼いてきますから、楽しみにしててください!!」
「うむ! 期待している!!」
……と、腹内アレス君の心からのエールでした。
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