第399話 非常識な大きさ

 扉を抜けると、部屋の中央に超巨大なスライムがいた。


「うわぁ~おっきぃねぇ~」

「なんて非常識な大きさなのかしら……」

「……ザッと見たところ、30メートルはありそう」

「やはり8階に留まっていたのは正しい判断だった……あんな奴、俺だけじゃ絶対に倒せなかっただろうからな……」


 ふむ、さすが大繁殖中のスライムダンジョンといったところか……ビッグスライムもマジでビッグに育て上げたようだ。

 もしかしたら、この世界のビッグスライムの記録を大幅に更新したんじゃないか?

 とかなんとか、ビッグスライムのサイズに感嘆しているうちに、俺たちの後方に位置していた扉が消えた。

 これでボス部屋から逃げることは不可能となったわけだ……まあ、もともと逃げるつもりなんてなかったけどね。

 それにしても、俺なら魔力のゴリ押しでどうとでも料理できるという自負があるが……これが普通の冒険者ならどうなんだ?

 どう考えても、メチャクチャ厳しいよな……

 まったく……こんなヤベェサイズのスライムが出るとなれば、そりゃ不人気になるのも頷けるってもんだ。

 というか、こんなのを相手にしなければならないとなると……ここの領軍も割と損な役回りなのかもしれないね。

 とはいえさすがに、スライムダンジョンに魔法の不得意な奴……最低でも弓系の遠距離攻撃が可能な奴以外は連れてこないだろうけどな……ないよな?


「う~ん、あの大きさだとさすがに、私のメイスじゃ核まで届かないかも……」

「ええ、私のレイピアも無理ですわね……」

「いや、魔法でも苦戦する可能性が高い……」

「い、いうまでもないことだけど、俺のスリングショットじゃどう頑張ってもあの分厚い軟体ボディを突き抜けて核まで到達させるのは不可能だ……」


 おそらく、物理攻撃を効かせるようにするには、炎系統の魔法とかでスライムを外側からジワジワと蒸発させていくなどしなくてはならないだろう。

 ただ、それもかなり魔力を消費するだろうし、有毒なガスとかも発生しそう……

 こりゃ、メチャクチャ回復アイテムが必要になってきそうだね。

 ああ、だからこそ、このダンジョンのドロップ品は回復効果のあるスィーツに偏っていたというわけか。

 ……って、マジックバッグでも持ってなければ、その回復アイテムをたくさん拾い集めてくることもできんぞ?

 なんというか……このダンジョンは親切なのか不親切なのかよく分からんな。

 そしてあとは、奴の機動力がどの程度かっていうのもポイントだろうな。

 あのずうたいで機敏に動かれたら、半端な実力しかない奴だと、終了のお知らせ確定だぞ?

 まあ、救いなのがボス部屋がかなり広いことだろうな。

 厳密な広さは分からないけど、こちらのほうが機動力があれば、少なくとも簡単に追い詰められることはないはずだ。

 とまあ、そんなふうにのんびり考えていたら、今まで何やら思案をしていたのであろうギドが口を開いた。


「……どうやらあれは、ビッグスライムではありませんね」

「えっ、マジ?」

「はい、あの核をよく見てください。この距離からでは一見ひとつの大きな核にしか見えませんが、注意深く見てみると通常のスライムと同じ大きさの核が無数に寄り集まっているのが確認できると思います」

「ふぅむ……あ、ホントだ」

「確かに、スリングショットで狙うときの感覚で見てみたら、核がバラバラに存在している」

「全然気づかなかったぁ~」

「……不覚」

「さすがのギドさんだったと今はいっておきますが……では、あれは一体何者ですの?」

「おそらく、ユニオンスライム……まあ、見たままですが、ひとつの巨大なボディに複数の核を持ち、その全てを破壊するまでは討伐に至らないという面倒なモンスターといったところでしょうか。ちなみに、核をひとつでも討ち漏らして逃亡を許すと、あとで違うスライムと合流もしくは合体し、それに伴い核も再び増え、サイズも大きくなっていくそうですよ」

「へぇ、そんなスライムがいるなんて、初めて聞いたよぉ~」

「通常、スライムが合体するときは核がひとつに統合されるはず……それこそがビッグスライム」

「モンスターが進化をする際、一般的にはナイトやジェネラルなどを経て、キングやエンペラーを目指すと聞いた記憶がありますわ……そして、ビッグスライムへの進化ですら、かなりイレギュラーなことだといわれていたはずですのに……」

「ハ、ハハッ……なるほどなぁ、おかしいと思ったんだ……街で聞いたビッグスライムの大きさなんて、1メートルぐらいだって話だったんだからさ……」


 ……はて、原作ゲームにユニオンスライムなんていたっけか?

 まあ、この世界に存在する全てのモンスターが原作ゲームに登場するとは限らんか。

 もしそうなら、制作陣の作業量が大変なことになるだろうし。

 それにしても、ギドはよく知っていたな。

 これも魔族ならではの知識といったところだろうか。


「まあ、私も伝聞による知識だけで、実物を見たのは初めてですがね」

「ふむ、いわゆるイレギュラー中のイレギュラーといったところか……でもまあ、結局のところ、核がいっぱいあるスライムでしかないわな」

「そうですね……特にこの部屋では、彼の特性も活かしきれないでしょうし」

「そのとおり、こっちかあっちが全滅するまで部屋から出られないんだもんな、適当に囮を残して逃げるなんてことことも不可能だろう」


 まあ、ボス部屋のモンスターが外に出られるのかは不明だけどね。

 でも、あれが地上にいたらまあまあ厄介なモンスターだっただろうなぁ。


「ま、おしゃべりはこの辺にしておくか……あちらさんもそろそろ痺れを切らしているところだろうし」


 ボス部屋のモンスターは全般的にお行儀がいいのか、はたまたユニオンスライムが特別のんびり屋さんなのか、俺たちが会話を終えるまでその場でゆっくり体を波打たせているだけだった。

 ……もしかしたら、俺たちが絶望して震えていると見て、強者の余裕でもかましていたのかね?

 だとすれば、奴の余裕を打ち砕いてやらねばならんよな!

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