第479話 口より背中で語るタイプ

 反省会もそろそろ終わろうかというところで、ふと思い出した。

 パルフェナの実家って農業に力を入れてたんじゃなかったっけ? ってことだ。

 というわけで、ソリブク村やその周辺の村にマヌケ族が出没したことについては伏せつつ、猛暑の影響はどうだったか話題に出してみた。


「おいおい、畑の土の状態を魔力で整えるって……マジかよ」

「魔法は戦闘に使うもの……それが僕らの日常って感じだったんだけどねぇ……」

「アレスさん、さすがです!」

「……領主を継いだら、そういったことにも目を向けていかねばならないのだろうな」


 まあ、武系貴族だとやはり、魔法は戦いの道具っていうイメージになりがちかもしれん。


「そういえば、野営研修でただの草に魔力を込めて薬草にするっていうのをやったな……あれの応用みたいなものか?」

「そのとおり! ただ、そのやり方だと効率が悪いし、薬草にするのではなく普通に栽培するだけなら土に魔力を込めるだけでいいじゃんってことになったそうだ」

「ソレバ村ですか……アレスさんの指導を受けて、いろんな意味で順調に発展を遂げているようですね……そして、ソリブク村やその周辺の村も、そのうち凄いことになってそうです」


 きっと、サンズが思うより早く「そのうち」が到来することだろう。


「フッ……魔力操作に目覚めた村人もなかなか多いからな! 期待大ってわけだ!! それで、パルフェナの実家はどうなんだ? 確か、農業に力を入れているんだったよな?」

「そうだねぇ……移動であんまり長くいられなかったけど、うちは大丈夫だと思うよ」

「まあ、グレアリミス領は昨日今日農業を始めたわけではないもの、その辺の領地とは蓄積された経験も技術も違うわ」

「なるほど、それを聞いて安心だな」


 もしかしたら、パルフェナの実家たるグレアリミス領に暮らす村人たちは「土に魔力を込めるのって……普通のことじゃないのか?」なんてきょとんとした顔で言い出すかもしれない……無自覚系かよ!!

 そして、ファティマの実家たるミーティアム領は他国やモンスターの森と接しているだけに、いろいろと食料を調達する方法もあるはず。

 そんなわけでファティマとパルフェナの仲のように、この2つの家は結びつきも強いみたいだし、食料に関して何も心配はないのだろうね。

 とまあ、そんな感じの話をしたところで、今日の反省会を終えて解散。

 その後は男子と女子に別れて大浴場へ……これも前期の頃と同じ流れだね。


「ふむふむ……しばらく見ないうちに、お前らも一段と引き締まったいい体になったんじゃないか?」

「へっ、当然ってもんよ!」

「まあねぇ、夏休み中はずっと鍛錬に明け暮れていたからね!」

「そうです! 少しでもアレスさんたちに追いつきたかったですから!!」

「……そういうことだ」

「ほうほう、いい心がけだねぇ?」


 そういいながら、ヴィーン一行の背中をビタンビタン叩いて回った。

 そしてもちろん、ロイターとサンズの背中も忘れずビターン! といっとく。


「また、これが始まったか……」

「いつのまにかですけど……このアレスさんの熱烈なスキンシップがあって、ようやく学園都市に戻ってきたなぁって気がするようになってしまいましたね……」

「ん? サンズ、もう一発欲しいのか? この欲しがりさんめ!!」

「あっ、いったぁ! アレスさん……お返しです!!」

「よっしゃ、こい!」


 秋といえば、紅葉の季節。

 というわけで、俺たちなりに「モミジ祭りin大浴場」を開催。

 そして俺たちは、背中に立派なモミジを多数背負って風呂を満喫。


「そういえば、ヴィーンたちは女子とメシに行くことがあるのか? 割とお前らだけでつるんでることが多いよな? まあ、ソイルは前期の試験後大変だったみたいだけどさ……」

「ハン! 俺は女なんかにかまけてる暇なんかねぇっつーの!!」

「まあ、それこそ前期のソイルみたいなよっぽどのことがない限り、僕たちみたいな男爵家の子息にわざわざ声をかけてくる令嬢なんかいませんよ……ああ、次期当主候補なら別ですけどねぇ」

「いやいや、僕なんかちょっと物珍しかっただけさ」

「あぁん? 今日の昼もどこぞの女と一緒だったじゃねぇか!?」

「それはその、あはは……」

「ソイルのことはともかくとして、アレスさんも今日のお昼は令嬢と一緒だったそうじゃないですか、さっそくウワサになってましたよぉ?」


 ふむ、さっそくか……


「はは、まあな……どうやら俺に価値を見出した家が出てきたようだ」

「ま、侯爵子息なんだから、当然っちゃ当然だわな!」

「う~ん、前期の時点で……だいたいロイターさんと決闘をしたあとぐらいからですかねぇ、アレスさんに恐れつつも興味を持ち始めた令嬢もいたことはいたと思いますよぉ?」

「ふぅん? 恐れつつ興味を持つねぇ……ま、その時点では恐れのほうが強かったんだろうな。そして夏休み、実家に帰ってゴーサインが出たところで覚悟を決めたって感じかな……で、俺のことはおいておくとして、ヴィーンはどうなんだ?」

「私か……たまに誘われることがあったぐらいだ」

「へぇ、そうなのか?」

「まあ……私と食事を共にして楽しいと思う令嬢はあまりいないだろう」

「ヴィーン様、そんなことありません!」

「ソイルのいうとおりですよ!」

「ヴィーン様と食事を共にできてつまらないと思う令嬢など、感性が終わってます!」


 ヴィーンの自虐にソイルたちがすぐさまフォロー、仲がいいねぇ。

 でもまあ、この夏休みを経てだいぶ口数が増えたとはいえ、ヴィーンは口より背中で語るタイプだろうからなぁ。

 独りでマシンガントークをかませる令嬢ならまだしも、そうでなければちょっとキツイか……

 だが、なるほど……ヴィーンを見習って口数少なく女子と接するのはアリかもしれない。

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