第748話 そりゃ難儀なものだな……

「ふぅ~っ! これで今日の試合は全て終了かぁ……いや~っ、どれもこれも凄い試合だったなぁ!!」

「だよな! 最ッ高の1日だったぜ!!」

「こんな1日が明日明後日と、まだ2日間も続いてくれるんだぜ? こんなに幸せなことはないよな!?」

「ああ、まあ、そうなんだろうけど……僕は今日だけなんだよね……明日や明後日も観に来れる人が羨ましいよ……」

「だからいったろ? お前も学園都市に住んだほうがいいってさ! そしたら、よほどのヘマをしない限り確実に3日ぶんのチケットを手に入れられるだろうからな!!」

「学園都市は王都とも近いから、王都で開催される王国武術大会を観に行くのにも便利だぜ?」

「そうそう! 武術系の大会ファンなら、絶対オススメ!!」

「そっかぁ……こんなに白熱した試合をたくさん観れるんだったら、考えてみてもいいかも……」

「ま! 俺たちみたいなガチな奴っていうのは、学園都市に引き寄せられて来るのさ……自然とな!!」

「フフッ、俺はもう何年もこの武闘大会を観戦してきたが……思い起こせば、最初はそんなふうに村から出てくるか悩んだもんだよ、懐かしいなぁ……」

「意外と似たような奴が多かったみたいだから、そのベテラン観戦者アピール……実はあんまり意味なかったかもな?」


 まあ、貴族の子女が集まっていて、治安の維持に特別気を遣われているだろうからねぇ……そういった意味でも、学園都市は住みやすいんじゃない?

 ただ、家賃などの生活費は、村とかで暮らすよりは多くかかってしまうだろうけどね……

 そして、武術観戦ガチ勢以外の一般の観客の反応はというと……


「それにしても……さっきのファティマ様のインフェルノって魔法、凄かったよなぁ?」

「おう、俺なんてもう! 今まで生きてきた中で一番度肝を抜かれた瞬間だったね! 間違いなく!!」

「分かる! 俺っちもだよ!!」

「まあ、ファティマって娘さんの魔法が凄かったのはもちろんとして……その魔法の研究が進んだら、たいした魔力のない俺らでも魔法を使えるようになるんかねぇ?」

「ああ、そんなようなことをいってたっけ?」

「それが実現したら! メチャクチャ画期的なことだよな!?」

「そうだな! 夢みたいだよ!!」

「まあ……実現……できたらねぇ?」

「え? なんだよ……お前は嬉しくないのか?」

「いやいや、考えてもみろよ……お貴族様たちが貴族でいられる、その理由をな……」

「貴族でいられる理由? う~ん……」

「……あっ、そうか! 魔力!!」

「そう……保有魔力量に裏打ちされた武力こそが、お貴族様を貴族たらしめている理由……するとどうだ、魔力を必要としない魔法なんて許されると思うか?」

「「「そ、それは……」」」

「どうだ、分かっただろ? そんなのは、しょせん夢物語なのさ……」

「ま、まあ……少しだけだったけど、いい夢を見れただけヨシとしとくか……」

「そうだな……別に、今の生活にそこまで文句があるわけでもないし……」


 あらら、そんなことでしょげることないじゃないか……

 たとえそれが無理だったとしても、魔力操作をコツコツ続けていけば、魔力を増やすこともできるんだからさ!

 しかしながら、う~む……俺もまだまだ魔力操作の啓蒙が足りていないようだ……

 なんて思っていると……


「でもよ……ファティマ様って……あのミーティアム家のご令嬢なんだよな?」

「そうだ! あのミーティアム家だった!!」

「ミーティアム家っていえば……確か『実質辺境伯』とかいわれている、あのミーティアム家か?」

「そうそう! 実質辺境伯のミーティアム家だよ! あそこは、北はモンスターの領域、東は他国と接していることもあって、常に戦いに備えているところだからな! やっぱり、戦闘を有利に進めるためにはあらゆる技術を模索する必要があるんだよ! だからさ、ミーティアム家ならきっと、魔力を必要としない魔法だって実用化しちまうに違いないぜ!!」

「それに、実質辺境伯といわれているだけあって、王国北東部の貴族の多くはミーティアム家を実質的な統率者として慕っているって話だからな……魔法の開発にも協力するんじゃないか?」

「おぉっ! そいつは夢が広がるってもんだな!!」

「なぁ……俺は南部から来てるのもあって、そっちの地域のことはよく分からんのだが……なんで実質辺境伯と呼ばれてるんだ?」

「ああ、それはな……北東部には、王国から辺境伯に任命されている家がほかにあるからだよ」

「そうそう……ヨーエン家っていう『名ばかり辺境伯』がな」

「あっ、おい……滅多なことをいうもんじゃないだろ……」

「そうだぞ……ヨーエン家の関係者にでも聞かれたらどうするんだ……」

「おっと、口が滑っちまった……でも、そんなふうにヨーエン家に対しては、面従腹背の家が多いって話なのさ」

「へぇ……そうなのか……」

「まあ、それはちょっと偏った物言いだから補足しておくけど……ヨーエン家を支持している家だってきちんとあるからな? ただ、そういう家の多くは中央寄りに位置する領地ばかりらしいが……」

「えぇと、それはつまり……同じ北東部という括りの中でも、中央寄りと辺境寄りの領地間で仲が悪いってことか?」

「うん、まあ……そういうことになってしまうのかなぁ……」

「実際……ミーティアム派の貴族はモンスターと他国だけでなく、背中側も警戒しているってウワサがあるぐらいだもんなぁ……」

「うへぇ……そりゃ難儀なものだな……」

「とはいえ、そういう派閥争いってのは、大なり小なり王国中どこでもあるみたいだけどな……」

「確かになぁ……」


 名ばかり辺境伯……なかなか酷いいわれようだねぇ……

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