第755話 実績の面では互角といえるでしょう
「……おい……あれを見てみろよ」
「ん? あれっていうと……」
「え、えぇ……あの皿の量……どんだけ食べれば気が済むんだよ……」
「ひょっとしたら、体の大きさ以上に食べているんじゃないか……?」
「いやいや、それはさすがに……あるかもしれない……」
「なんかさ、あの光景……懐かしい気がしてくるんだけど……」
「た、確かに……入学してしばらくは、この食堂でよく見た光景だった気がするぜ……」
「そういえば……最近はめっきり常識的な食事量に落ち着いていたような気がするけど……そもそもあの人って、ああいう超常的な食べ方をする人だったよね……」
「も、もしかしてだけど……ファティマちゃんの魔法にインスパイアされた?」
「なるほど! なんでも喰らうとかいうインフェルノに触発され……いや、もっといえば対抗意識が刺激されて、食欲が爆増した!! そういうわけだな!?」
「シーッ! 声が大きい……奴に聞こえてしまうじゃないか……」
「……アッ! いっけね!!」
いや、ゴメンだけど……地獄耳のアレス君には、君らの会話がまるっと聞こえてしまっているからね?
しかしながら、ファティマの魔法にインスパイアされたとか……そういう発想はなかったな……
それはもちろん、腹内アレス君も同様だ……単に武闘大会に向けてセーブ気味だったから解放したに過ぎない。
「す、少なくとも今が……少し前みたいな食糧不足の真っただ中じゃなくてよかった……よな?」
「まあ、それに関していうと、奴も一部地域でその解消に尽力したって話だもんなぁ?」
「ああ……確か、痩せた農地を魔力で回復するってやり方だっけ?」
「そうそう、そんな感じだったはず」
「しかも、平民に混じって一緒にやってたって話でしょ? よくやるよねぇ……」
「正直、それって貴族の在り方としてどうなん? って気もしちゃうよな……しかも、その辺の士爵とかみたいな下位貴族と違って、侯爵っていうメチャクチャ上位貴族にも関わらずだぞ? 信じらんねぇよ……」
おやおや、貴族による平民との接し方論になってきちゃったみたいだね……
「まあねぇ、その影響もあってか……今日の武闘大会でも、あの人を熱心に応援する平民がいっぱいいたもんねぇ?」
「だな……いや、もちろん毎年平民だって観に来ていて、応援の声を上げている奴も多くいるが……それらは基本的に、ルックスとかに憧れた異性に向けたものとか、同性であったとしても単純に強さに惚れ込んでのものだったからなぁ……」
「うむ……かの御仁に対する応援は、それらより随分と親愛の情のこもったものだったように感じた……」
「ホント……侯爵子息が何やってんだよって感じだよな?」
「とはいえ、それがたとえ平民からだったとしても、あんなふうに心のこもった応援をしてもらうっていうのは……意外と悪くないんじゃないかって気もしたぜ……」
「マジかよ……お前、魔力操作狂いに毒され過ぎじゃないか……?」
「ただ、領地経営のことを考えれば……反発されるよりは、敬愛されるほうがやりやすくはあるだろう」
「なるほど……と考えると、やはり奴は領主の座を狙っている?」
勘違いはよしてくれたまえ……俺にそんなつもりは一切ないのだから……
ただ、前世が思いっきり庶民だったから、そのときの感覚で誰とでも接しているだけなのだよ……
まあ、君らには理解し難い感覚かもしれんがね……
「まあ……彼がその座を狙っているとしても、彼の兄君であるセス様が既に後継者として盤石の地位を築いておられるようですから、よほどのことがない限り侯爵の地位に就くことはないでしょう」
「うわぁ……武闘大会の優勝までしておいて、それは切ないよなぁ……」
「いえいえ、セス様も優勝されておられるので、実績の面では互角といえるでしょう」
そういえば、兄上も武闘大会で優勝してたんだっけ……さすがだよ! 兄上!!
あの親父殿が俺を後継者に指名するわけがないと、その点についてだけは強く信じることができるが、それでも兄上が優秀であればあるほど、誰からも疑問の声が上がらないで済むだろうからね。
「そっかぁ……兄弟そろって優勝とか、凄過ぎだろ……」
「それだけではなく、父君である現ソエラルタウト侯爵やアレス氏の母君であるリリアン様もそれぞれ男子の部と女子の部で優勝されていますね……あと、セス様の母君であるリューネ様も準優勝を経験されているはずですよ」
「えっ!? マジかよ……」
「なんだよそりゃ……バリバリの武系貴族っていったって、限度ってもんがあるだろ……」
「ソエラルタウト家……強過ぎっていうか、ヤバ過ぎ……」
「そんな昔の武闘大会の結果にまで興味がなかったから知らなかったけど……その話を聞いちゃうと、あの人の恐ろしいまでの強さも納得できるって感じかなぁ……」
まあ、それだけのポテンシャルがあったからこそ原作アレス君は、原作ゲームのシナリオ終盤までラクルスの敵として喰らい付いて行けたわけだし、さらにいうと魔王復活を決定付けるエネルギー源とされてしまったんだろうねぇ……
そんなことを思いながら食事を楽しんでいると……やや疲れた表情を浮かべながらロイターたちが食堂にやって来た。
「解散と同時に走り去ったのは正解だったようだな……」
「まさに、疾風を思わせる走りでしたね……」
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