第756話 上手いことあの場を離脱したんだろうね……

「いやぁ、今日は魔力も体力も、ついでに気力もメチャクチャ使ったからなぁ……空腹感が限界を大幅に超えていて、解散の号令を聞いた直後は大急ぎで食堂に向かったのだよ」

「まあ、結果的にそれが功を奏したといえるのかもしれんな……」

「うん? そういえば、お前ら……微妙に疲れた表情を浮かべているが、何かあったのか?」

「まあ、別に大きな問題が発生したというわけではありませんが……」

「ハァ……運よく、光の速さであの場を逃げきることに成功できたアレスさんには分からないことでしょうねぇ……」

「ああ、まったくだ! 正直、アレスさんはあの状況を事前に察していて、俺たちを囮にしつつ光速で逃げ出したのかと思ったぐらいだぜ!!」

「おいおい、俺が何をしたっていうんだよ? ただ走って食堂に向かっただけじゃないか……まあ、廊下を走って人とぶつかると危ないし、品がないと咎められれば、そのとおりで反論の余地もないが……」


 ちなみにだけど、ハソッドとトーリグがいうような光の速さで走るなんてことはしていない……普通に走っただけで、風歩すら使っていない。

 というか、さすがに光速は無理じゃね?


「実はですね……アレスさんが待機場を飛び出して行った直後ぐらいに、たくさんの令嬢たちが押し寄せて来たんですよ……」

「……女子のほうには、男子たちが群がっていたようだが……」

「そうなんだよ、押し合いへし合いって感じでさぁ、もう大変だったんだから……ていうか、よくアレスは彼女たちに捕まらずに済んだね?」

「えっ? う~ん……食堂に向かうことで頭がいっぱいだったからなぁ……でも、そうだな……今思い返してみると、人だったかもしれない存在たちのあいだをすり抜けながら走ったような気もしなくはないな……」


 といいつつ、流れ去って行く風景の中に人っぽい残像のようなものを視界に捉えていた気がするだけだけどね……


「ああ、確実にそれは令嬢たちだっただろうな……」

「えぇと、食事に対するアレスさんの集中力がさすがだったというべきでしょうかね……」

「それにしたって、あれだけの人数がいて、誰ともぶつからずに躱しきることができたとは……まさに驚異的といわざるを得ませんねぇ……」

「そうだな! やっぱその辺のことも含めて、武闘大会の優勝者は違うってことだな!!」

「僕もアレスさんを見倣って、より一層の努力を積み重ねよう……」

「……うむ、精進あるのみ」

「まあ、アレスが彼女たちに捕まらずに済んだのは、タイミングっていうのもあったんだろうねぇ……もしくは、ぶつからないよう向こうも道を開けたって考えることもできるかな……なんにせよ、上手く回避できてよかったねって感じだよ」

「なるほどな……その対応に時間がかかって、お前らは食堂に来るのが遅くなったってわけか……まあ、そのなんだ……お疲れさん……」


 そんなねぎらいの言葉をかけたところ、ロイターたちは一斉に苦笑いを浮かべたのだった……


「まあ、お前も他人事ではなく、これから対応に追われることになるのかもしれんがな……」

「とりあえず、しばらくはお一人で食事を楽しむ時間はないと覚悟する必要がありそうですね……といいつつ、それは僕らも同じですが……」

「ええ、1回戦で敗退した僕たちですら、たくさんのお誘いを受けましたからねぇ……」

「ああ、めんどくせぇけど……断ったら、それはそれで余計にめんどうそうだったからなぁ……」

「今日はいつにも増して令嬢たちの圧が強かったです……思い出しただけで、軽く震えがくるぐらいに……」

「……確かに、迫力が違った」

「あの気迫を予選で発揮できていたら、本戦の顔ぶれも違ったかもしれないね……ああ、そういえば……アレスだけじゃなく、トイもいつのまにかいなくなってたっけ……対戦して思い知らされたけど、トイの勘のよさも筋金入りだったからなぁ……上手いことあの場を離脱したんだろうね……」

「まあ、食事のお誘いの件は今から覚悟しておくとして……そうか、トイも上手く逃げ出したってわけか……やるなぁ……」


 といった感じで、今後のおひとり様ライフに暗雲が立ち込めつつ……ロイターたちも食事を始めた。

 そして、俺ほどではないが、ロイターたちもなかなかの量を平らげた。

 やっぱりね! みんないっぱい頑張って、いっぱいお腹が空いたもんね!!

 その後は、食休みも兼ねて引き続き食堂でロイターたちと会話を楽しむ。

 そうしてしばらく過ごしたあとは、ひとっ風呂浴びに大浴場へ向かうことになった。

 まあ、今日は武闘大会本番だったからね、さすがに夕食後の模擬戦はお休みなのさ。

 その道すがら……


「アレスさん!」

「おお、ビムたちじゃないか!」


 予選で対戦した男子たちが声をかけに来てくれたのだった。


「優勝おめでとうございます!!」

「「「おめでとうございます!!」」」

「おう、ありがとな! そして、お前たちとの対戦経験が俺を勝利に導いてくれた、重ねて礼をいおう!!」

「そんなふうにいってもらえると、とても嬉しいです」

「ハハッ、事実だからな! それで、お前たちはもう風呂に入ったか?」

「いえ、まだですが……?」

「よし、ちょうどいい! お前たちも一緒に大浴場に行くぞ!!」

「え、えぇっ! 僕たちもご一緒してよろしいのですか!?」

「もちろんだ! お前たちも、俺と予選でタイマンを張ったマブダチだからな!!」

「そ、そこまでいってもらえるだなんて……感激です! ありがとうございます!!」

「「「ありがとうございます!!」」」

「まったく、大げさな奴らめ……まあいい、行くぞ!!」

「「「ハイッ!!」」」


 こうして、ビムたちも交えて大浴場に向かうのだった。

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