第560話 恐怖感
「おはようキズナ君! 今日は地の日! 予選が始まる日だよ!!」
というわけで、キズナ君に挨拶をしながら目覚めの朝を迎える。
ただし、予選とはいっても何か特別なことをするわけではなく、いつも夕食後にしている模擬戦とほとんど変わらない。
そこで違うといえば、装備だろうね。
というのが、夕食後の模擬戦は平静シリーズを着用しておこなっているけど、あれは見た目からは想像できないほど高い防御力を誇る装備品でもあるからね、装備できないと思うんだ……
しかしながら、精神を高揚させることによって魔力操作を困難にする平静シリーズは、魔法を主体として戦闘する者にとってはかなりのハンデを背負うことになる。
そう考えた場合、俺は平静シリーズを装備したほうが総合力としては低下するんじゃないかと思う。
それで何がいいたいかというと……「平静シリーズを装備していない俺は、ハンパじゃなく強ぇぞ?」っていうイキリである。
フフッ……久しぶりにイキリ虫のご登場である。
ほら、漫画とかでよくあるでしょ? メチャクチャ重い鎧とかを装備してた奴が、それを外したら信じられないぐらいの高速移動をするなどして、真の実力を発揮する……みたいな展開。
まあ、それなりにイキリ虫な俺としては、そういう展開を武闘大会の……特に決勝でやってみたかった気持ちはある。
ただ、そういうことをどうしてもやりたいなら、できないこともない。
というのが、魔道具を含めた全ての物品を使っちゃいけないってわけでもないからだ。
そのため、学園に申請して「これは戦闘能力を著しく向上させるものではない」と認められれば、使うことができる。
といいつつ、平静シリーズは魔法的にハンデを負うけど、明らかに防御力が向上するからなぁ……
プラスマイナスでどう評価されるか微妙なところだけど……やはりちょっと無理っぽい気がするね……
そんなことを思いながら、今日も平静シリーズを着用して朝練に向かう。
「それじゃあ、キズナ君! 朝練に行ってくるよ!!」
そうしてキズナ君に一声かけて、いつものコースへ。
「よう! 今日も絶好のランニング日和だな!!」
「おはよう、確かにいい天気ね」
こうしていつものようにファティマと挨拶をして、ランニング開始。
そしてもちろん、ファティマも平静シリーズを着用している。
平静シリーズですら覆い隠し切れないファティマのきゅるんとした雰囲気……これはもう、芸術?
「……また、変なことを考えているわね?」
「えっ? いや、そんなことはないさ! そ……それより! 今日から予選が始まるよな!?」
「……ええ、そうね」
ファティマにあきれた顔をされつつ、話題を変える!
「いやぁ、昨日が締切だったこともあってさ……男子寮では参加希望を出すとか出さないでワイワイしてたけど、そっちはどうだった?」
「そうねぇ、男子たちほどではないでしょうけれど、それなりに武闘大会の話で盛り上がっていたと思うわ」
「ほほう」
「とはいえ、参加するしないよりも、誰を応援するかとかの話題が中心だったわね」
「なるほど、そんな感じか……それでやっぱり、一番人気はロイターかな?」
「そうね、ロイターの人気は根強いものがあるわ……でも、ふふっ……」
「……その笑いはなんだ?」
なんか、嫌な予感がするよ……
「ああ、ごめんなさい……それはね、あなたを支持する声が徐々に増えてきているからよ」
「……そうか」
……そんなこったろうと思ったよ!
「それにしても……男子たちは相変わらず俺に対してビビりまくりなんだけどなぁ……」
「ええ、そうみたいね……そういう話はよく耳にするわ」
「……女子たちは俺を恐れてないのかねぇ?」
「もちろん、いまだに恐怖感を持っている子もいるわ……だから、親や親戚にいわれて勇気を振り絞ってあなたを食事に誘う子もいる」
「まあ、青ざめた顔でブルブル震えながら食事に誘われることもあるからな……最近はそういう子も多少は減ってきたけど……」
「実際に食事を共にしてみたら、ひたすら魔力操作について語られるだけだった……それで恐怖感がなくなったという子も意外と多いわね」
「あ、そう……」
「それを聞いて、まだ食事を共にしていない子の中には『魔力操作を強要されたくない……』と拒否反応を示す子もいるけれど……」
「ふぅん……そっかぁ……」
魔力操作は素晴らしいのになぁ……もったいないなぁ……
「まあ、それはそれとして……この武闘大会に関して、基本的に女子はあなたと対戦することがないから、そのぶん男子よりは恐怖感がないのかもしれない」
「ふむ……」
「この前のあなたとロイターの決闘……男子たちの中には、あなたと対戦するとあのときのロイターみたいになるのではないかと危惧している人が多い気がするわ」
「ああ、その可能性は否定できないなぁ……っていうか秋季交流夜会でエトアラ嬢を演技で怒鳴ったとき、俺の前に立ちはだかったセテルタがそうなるんじゃないかと周囲に心配されてたっけ……」
「私たちが夕食後におこなっている模擬戦を見ていれば、そうならないだろうと思えるでしょうけれど……あれを全員が見ているわけではないものねぇ……」
戦闘スタイルか、なるほどなぁ……
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