第559話 少し崩れたぐらいがいい
夕食を食べ終え、運動場へ向かう。
そしていつものように模擬戦をするわけだが……ここ1週間で減少傾向にあったオーディエンスが、今日はちょっと多めって感じだった。
「おっ、今日は訓練しないのか?」
「ああ、明日から予選が始まるからな、今日のところは無理せずといったところだ」
まあ、この世界にはポーションや回復魔法があるから、直前にケガとかをしても前世ほど深刻なことにはならないだろうけどさ……
とはいえ、心身のコンディションを整えるのが重要ってことは、どっちの世界でも変わらないよね!
「そんでここにいるってことは……奴らと当たったときのための対策でも練るつもりか?」
「まあ、それもなくはないが……彼らの動きを見て学べる部分がないかと思ってな……」
「なるほど……それで、あわよくば技をコピーしてやろうって魂胆だな?」
ほう……職人の世界とかでよく聞く「技を盗む」ってやつだね?
「ははっ、それを完璧にこなせたら、たいしたもんだろうなぁ……だがまあ、そんな簡単にできることでもないし、動きのイメージとして参考にさせてもらうといったところだな……それにほら、ロイター殿やセテルタ殿の動きなんて、まさに理想的な身のこなしだと思わないか?」
「ふ~む……でも、ロイターは昔のほうが技がキレイだったような……? なんていうか、最近は魔力操作狂いの影響か、動きが粗野になってきているといえばいいか……セテルタも徐々にそんな感じがしてきてるし……」
えぇっ? 俺のせいとか……ひどくない?
「確かに、そう感じる部分もないではないが……むしろ、だからこそいいともいえる」
「……そうかぁ?」
「ああ、俺もお前も学んでいるように、王国式剣術はこの王国に住む多くの者が知っている動きだからな……お手本どおり過ぎれば対処もされやすくなろうというもの……だからこそ、あれぐらいの少し崩れたぐらいがいいのだろうと思う」
「ふぅ~ん? そんなもんかね……」
まあね、俺も王国式剣術への対策として、夏休み中に兄上や護衛のお姉さんたちから基本を教えてもらったわけだし?
とか思いながら、オーディエンスの男子たちの話を聞いていると……
「ちょっと、アンタたち! ロイター様の華麗な剣捌きをキレイじゃないとか崩れてるとか……ふざけんじゃないわよ!!」
「そうよそうよ! アンタたちみたいなショボいのと一緒にしないで!!」
「セテルタ様だって! と~っともステキなんだから!!」
「あっ、いや、そういうつもりじゃ……」
「ああ、俺たちは別に彼らをけなしているつもりはないんだ……」
なんか、ロイターやセテルタのファンクラブ会員らしき女子たちに詰められてる……
「そうですねぇ、ロイター様もセテルタ様も……いえ、彼らみんなといってもいいかもしれませんけれど、少しばかり剣の趣が変わったのも事実ではありましょう……」
「おっ、分かってくれる子が……?」
「ああ、そのようだ……」
「……はぁっ? こんな奴らの肩を持つことなくない?」
「そうよそうよ! 1人だけいい子ちゃんぶりたいわけ?」
「いえ、私は事実を申したまでです」
何やら、女子同士でも険悪な雰囲気になってきたぞ……
「君たちィ! 僕たちはファティマちゃんの応援に集中したいんだ! ケンカするならどこか別の場所にいってくれないか!?」
「僕はパルフェナちゃん!」
「えっと……俺はやっぱり、エトアラ先輩……」
「つーか、そうやって話してるうちに……ご希望のロイターさんとセテルタさんの模擬戦が終わっちまうぞ?」
「あっ! いっけない!!」
「そうだった! こんなショボいのを相手にしている暇はなかった!!」
「セテルタ様~! 頑張ってぇ~!!」
「た、助かった……」
「やれやれだな……」
「それまでの雅な剣もよかったですが……今のような実戦を意識した剣も、それはまたよいものですね……」
ファティマなどうちの女性陣ファンの一喝によって、場が落ち着いたようだ。
まあ、明日から予選ということもあって、それぞれ多少は気が立ってるみたいなところもあるのかもしれんね?
といいつつ、あのケンカしそうになっていた子たちも武闘大会に参加希望を出していたのかは知らんけど……
それはともかくとして、俺たちは今日もいつもと変わらず模擬戦を重ねる。
ただ、時間制限の関係上、やっぱり引き分けが多い。
とはいえ、勝敗よりも内容を重視しているからっていうのもあるにはある……
まあね、いくら模擬戦で勝利を重ねても、実戦で役に立たたなければ意味がないからさ……だからといって、勝てない善戦君になっちゃマズいっていうのは理解しているつもりだ。
特に明日からの予選は、勝つか負けるかシビアにならざるを得ないだろうし……
そんなこんなで今日の模擬戦を終え、反省会へ移行。
まあ、今日に関しては反省会っていうより、壮行会っぽい意味合いのほうが強いかもしないけどね。
なんて思いつつ、みんなが持ち寄った食べ物をバクつく。
いやぁ、やっぱりね、腹内アレス君的にはこの時間のためだけに模擬戦に参加しているみたいなところがあるからさ……これがなかったら、おそらくメッチャ文句をいわれちゃうだろうし……
というわけで、いっぱい食べて明日へのパワーを蓄えるわけだ。
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