第271話 団結力

「もう……駄目だぁ~」

「しょうがない……歩こう」


 開始から6時間が経過……そのあいだも徐々に脱落していく生徒たち。

 この辺になってくると、魔力操作の練度不足で回復が不得意な奴なんかはペースを落としたり、歩いたりといった感じになってくる。

 まあ、体力と根性だけで走るのもキツイもんね。

 ただ、自分の実力を冷静に見極めて、最初っから飛ばさないで一定のペースを保って走っている奴なんかもいる。

 こういう奴に対しては、上手いなっていう印象を持つ。

 ……それにしても、昨日このコースを走ったときも思ったけど、同じところをこうグルグル回るのって、単純に飽きるよね。

 それまでの俺たちはずっと、森の中を走るのをメインとしていたのもあって、余計にそう感じてしまうんだと思う。

 そんなわけで、隣を走っているロイターに話しかけてみようかな?

 ちなみに、うちのメンバーは前から順に、ロイターと俺、ソイルとサンズ、ファティマとパルフェナという並びで走っている。

 そしてコースは、前世の陸上のトラック競技と同じように左回りのため内側はロイター、ソイル、ファティマということになるわけだ。

 これは特に決めていたわけではないのだが、なんとなくそんな感じになった。


「ロイターよ、この代り映えしない風景を楽しめているか?」

「まあ、特別面白いとは感じないな」

「おそらく、それがこの試験の目的の一つなのでしょうね」


 会話にサンズも加わってきた。


「目的?」

「はい、運動場内のコースをひたすら走るという単調さに耐えられる精神力を試そうというのが目的の一つなのではないかと」

「ふむ、それはありそうだ」

「確かに……実力的にはまだ走れそうな雰囲気の奴も脱落していってるもんなぁ」

「でしょう?」

「まあ、その程度のこと、普段の魔力操作で慣れているから大した問題ではないわね」

「うん、そうかもしれないねぇ」


 そして、ファティマとパルフェナも会話に参加。

 それにファティマのいうとおりである。

 要するに、強靭な精神力も養ってくれた魔力操作に感謝というわけだね!


「ソイル君、頑張ってぇ~!」

「走ってる姿もステキよぉ~!」


 既に脱落し、観戦者ポジションにチェンジした小娘どもがソイルの応援をしている。

 もちろん、うちのメンバーたちや、その他まだ走っているモテ系男子女子にもそれぞれのファンから声援が送られている。

 正直、そんな元気があるなら歩きでもいいから、試験を続けたらいいんじゃないだろうか。

 ……と思ったら、そういう小僧や小娘もいた。

 なんとなく周囲を見渡したら、そういう熱い視線を送ってる奴がチラホラといたから分かってしまった。

 まあ、どんな形にせよ脱落しないで頑張っているのだから、「走ることに集中しろ!」っていうのは酷かもしれない。

 よって、彼らのことはそっとしておこう。

 それとついでだから、ヴィーンの取り巻きの2人をチラ見してみたら、声援を受けるソイルを苦々しい表情で睨みつけている。

 なんというかその……これはこれで、熱い視線といえるかもしれないよね……

 そんなこんなで7時間……8時間と経過していく。


「王女……殿下……ハァ……申し訳……ありません……ハァ、ハァ……私が、お供できるのは……ハァ……ここまで……みたい……です……」

「何をいうのです、わたくしは仲間を置いて行く気などありません」


 そういいながら王女殿下は、限界が近く心が折れそうになっている女の子に合わせ、走るペースを落とし始める。

 そして当然というべきか、ほかの取り巻きたちもペースを落とす。


「……なッ!? 王女……殿下!!」

「いいのです、これで」

「殿下ぁ……」


 あ、王女殿下の心遣いに感極まったのか、女の子が泣き出しちゃった。


「泣くなって! 俺たち仲間だろ?」

「そうだよ! 楽しいときも辛いときも、いつも一緒さ!!」

「今だからいうけど……アタシもちょっとペースがキツイなって思ってたんだよね」

「それウチも~」

「このとおり、皆も似たような状況だったゆえ、気に病む必要はないでござる」

「……ぐすっ、みんな……ありがとう……」


 ほほう、取り巻きの中で最初に声をかけたのが主人公君とはね。

 それに触発されてなのか、ほかの奴も暖かい声を女の子にかけていく……この辺は主人公らしいなって感じがするね。


「さあ、皆さん! 心をひとつにして、最後まで頑張りましょう!!」


 こうして王女殿下たちは走る速度を緩めたことで、先頭集団から後退していくこととなった。

 もしこれが負け戦で追撃されている場面だったとしたら、王女殿下のあの姿勢は褒められたものではなかったかもしれないが……今回はそういうわけではないからね。


「ふむ……王女殿下は、さらにあの者たちの心を掴んだようだな」

「そうですね」

「ふふっ、王女殿下とその取り巻きたち……いいライバルとして一段と成長してくれそうね」

「そうだねぇ、今ので団結力も強まっただろうし」

「……団結力」


 ロイターたちが王女殿下たちを評価しているとき、ソイルが「団結力」という言葉に反応した。

 その切なそうな表情を見るに、ヴィーンたちのことを考えてしまったんだろう。

 ……ならばここはひとつ、王女殿下を見習って活を入れるとしますかね。


「よっしゃ! 俺たちも最後まで気合を入れてくぞ!!」

「ああ、そうだな!」

「はい!」

「当然ね」

「うん、頑張ろっ!」

「……そうだ、僕も負けてられないッ!」


 このように俺たちも団結力を高めたところで、運動の試験は終盤を迎えるのだった。

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