第270話 先頭集団の顔触れ
「全クラスそろったようだな! まずは運動の試験を始める前に、確認がてらもう一度ルールの説明をするから、よく聞いておくように!!」
運動場に集合したところで、試験監督の先生からルール説明があった。
まあ、前世のマラソンとか、トラック競技の長距離走と大きくは変わらない気がする。
一番前世と違うところといえば、やっぱり魔力の使用が認められていることだろうね。
ただしそれは、身体強化とか回復みたいなのを使用する場合に限定される。
そのため、攻撃魔法でほかの生徒を妨害なんてことをしたら、一発で失格となってしまうだろう。
……これ、ソイルが地味にヤバかったかもしれない。
というのも、ソイルから漏れ出す魔法の発動を阻害する魔力は、厳密にいうと魔法ではないのだが、先生によっては攻撃魔法と判定する可能性があるからだ。
だがそれも、昨日で克服した!
つまりソイルは、運動の試験に間に合ったといえるのだ!!
そうはいってみたものの、みんな無意識に大なり小なり魔力を体外に放出しているだろうし、一切出しませんってことはほぼ不可能だと思う。
だから、そこまで厳しくいわれないんじゃないかなって気はする。
あと、魔力に関連した話としては、ポーションの使用は禁止されている。
そのため、飲めるのは給水所の水だけってことになるね。
そうした説明に併せて、コースを何周したかを記録してくれる魔道具が配られた。
見た感じ腕時計っぽい……というか、時刻も見れるようになってるから、そのものっていえそう。
まあ、走っているあいだ、「夜の9時まであとどれぐらいあるの!?」って気になっちゃうかもしれないからね。
とはいえ、一応運動場にも時計は備え付けられているし、さらにいえば1時間ごとに鐘を鳴らしてくれるみたいなんだけどさ。
そしてこの腕時計みたいな魔道具は、走るスピードが一定以下……だいたい歩きぐらいになると振動で教えてくれるらしい。
そうなると、走る奴の邪魔にならないよう、コースの一番内側の歩く奴専用のレーンに移動しろってことになるようだが……まあ、俺には関係ないな!
というか、「たとえ歩きになっても12時間の完走を果たす!」っていう気概のある奴は何人いるんだろうかね……
とまあ、説明の内容としてはこんな感じかな。
「さて、そろそろいい時間だな、運動の試験を始めるので皆位置に付け!」
午前9時、ようやく開始のときがきたというわけだ。
「それでは……始め!!」
こうして、各自一斉にスタート。
そして、走っていくうちにパーティー仲間や友人同士の集団が形成されていく。
それはもちろん、俺たちのパーティーも例外ではなく、6人で固まって走っている。
「魔法の試験でちょっとばかりいい結果が出せたからって、調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
「ほんとうにねぇ!」
「……」
俺たちのすぐ近くをヴィーンのパーティーが走っており、取り巻きの2人がソイルにケンカを売っている。
そしてヴィーンはやはり、いつもどおりの何を考えているのか分からない表情で無言を貫いている。
正直、午後9時までまだまだ先は長いのだから、そんなに威圧感バリバリで頑張んなくてもねぇ、って感じである。
「調子になんか乗ってないよ……僕にそんな余裕は、まだないんだから」
それはヴィーンの取り巻きの2人に対する返事でありつつ、志を高く保とうというソイルの意識がにじみ出た言葉であった。
「チッ!」
「カッコつけちゃってさぁ!」
「……」
そんなソイルの返答に、やっぱりバチバチする取り巻きの2人だった。
そして1時間、2時間と経過していくうちに、どんどん脱落してく小僧や小娘ども。
まあ、この辺はもともとあんまり運動に興味のない文系貴族なんだろうね。
加えて、徐々に先頭集団の顔触れが固定化されつつある。
俺が見知った奴だと、まずはシュウこと武術オタクのメガネとそのパーティーメンバーであろう武系令嬢たちが挙げられる。
そういえば、昨日の魔法の試験ではシュウのことを忘れていたな……俺が気付かなかったということは、魔法は専門外って感じか?
でもコイツって、のほほんとした顔をしながら実力を秘めてるってタイプだからな、仮に試験の結果が奮ってなかったとしても甘く見たら痛い目をみるだろう……
そんなことを思いつつシュウに視線を向けていたら、話しかけられてしまった。
「やあ、昨日は大活躍でしたね」
「ああ、まあな」
「魔法も凄いですが……レミリネの姿もほんの少しずつ……本当に少しずつですが、見えるようになってきていますね」
「……!! 本当か!?」
「まあ、何度もいうようにほんの少しずつですけどね……」
「いや、それでもいい!! そうか……よかった……教えてくれて、ありがとう」
「いえいえ、僕もアレス君がレミリネの剣をものにするのを楽しみにしていますからね」
「ああ、必ずな!!」
試験対策のため、ここ最近レミリネ流剣術の練習に割ける時間は少なくなっていたが、脳内模擬戦は時間を見つけてやっていたし、極々まれではあるものの夢で稽古を付けてもらったりはしていたのだ、その効果があったということだろう。
それにしても、シュウという武術に関して信頼度の高い男から進歩のお墨付きをもらえたのは嬉しいものだね。
それから、ほかの見知った奴とすれば、王女殿下とその取り巻きたちがいる。
なんというか、この先頭集団がかなりの大所帯なのも、彼らの存在によるところが大きいと思う。
また、もちろんというべきか、その中には主人公君や幼馴染ヒロインもいるし、未来の近衛殿であるティオグのようなアレスの熱血教室参加者たちもいる。
やはり、熱血教室参加者の男たちに関しては、俺もちょっと親近感みたいなものが湧いてくる。
そんな彼らと目が合えば、お互い激励の気持ちを込めて頷きを交わす。
フッ、こういう関係も悪くないものだ。
あとはそうだな……走ることに目覚め始めたらしい、あの賑やかな4人組も実はこの先頭集団にいたりする。
ただ、クラス落ち覚悟の奴は、相変わらず文句タラタラ。
というかお前、文句いいながら走り続けるとか、本当に元気だな……
こんな感じで運動の試験が続くのだが……さて、このままトップを走り続けられるのはどのグループだろう?
まあ、それは俺たちに違いないがな!!
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