第869話 ここらで試験は終了って感じかな

「凄いや! 僕1人じゃどうにもできなかった粉が、小瓶にどんどん集まっていってるっ!!」


 遠隔による選り分け作業……これをやっていると、なんだかトレルルスの弟子になった子たちへ、ただの草に魔力を込める作業を教えたときのことが思い出されるね。

 フフッ、あの子たちもトレルルスの下で日々実力を付けていっていることだろう。

 そうしてあの子たちが一人前になったとき、あの子たちなりの特製ポーションを購入するときが楽しみである。

 とまあ、それはそれとして……


「どうだい……感覚はつかめてきたかな?」

「う、うん……なんとなく、微かにだけど……魔力を引っ張られるような? 感じがする……」

「そう、その魔力を引っ張られるような感じが吸命の首飾りの粉末の反応だよ」

「これが……」

「よし、それが分かったら、ここから徐々に俺からの操作を緩めていくよ……そして最後はタム君だけの力で選り分けるんだ」

「そ、そっか……僕だけの力で……うん! 分かったよっ!!」


 まあね、「魔力操作狂い」なんてあだ名を付けられるレベルの俺からすると、毎日1時間程度では魔力操作の練習として長いとは言えない。

 だが、世間一般的には、まあまあの練習量という評価を得られるだろう。

 それだけの努力はしており、そもそも子爵家の子息として相応の才能も持ち合わせている……そんなタム君なのだから、どうやっても無理な試験というわけではなかったのだ。

 ただ、こういった作業の経験がなかったため、コツがつかめていなかっただけといったところ。

 そこで俺が、魔力をとおしてコツを伝えたって感じだ。

 とかなんとか頭の片隅で考えつつ、徐々に俺からの操作を緩めていく。


「……うぅっ! だんだん……引っ張られる感じが、あやふやになってきちゃった……」

「今はまだ微かにしか聞こえなかったとしても、魔力はタム君に語りかけてくれている……その声に耳を傾けるんだ」

「魔力の……声……」

「タム……精神を研ぎ澄ませるのだ」

「おうっ! 全集中力を総動員するんだぜ!!」

「精神を研ぎ澄まし…………全集中力を総動員………………ッ! これッ! この感じだッ!!」

「ほう……感覚をつかめたようだね?」

「うんッ! この感じで間違いないはずだよッ!!」

「やったな……タム」

「おぉっ! スゲェじゃねぇか、タム!!」

「うんッ! ありがとう!!」


 そうしてタム君は、ペースこそゆっくりしたものであったが、それでも少しずつ確実に小瓶の中に吸命の首飾りの粉末を増やしていく。

 もちろん、この段階で俺からのサポートは終わっている。

 つまりは、タム君の自力で選り分け作業が進んでいるということだ。

 とはいえ……


「ハァ……ハァ……もう、魔力が……続かないや……」

「ふむ……今後の課題として、空気中の魔素を効率よく魔力に変換できるようになっておきたいところだね……でもまあ、それは魔力操作の練習を根気強くおこなっていれば一緒に鍛えらえると思うから、頑張るんだよ」

「う、うん……がんばるぅ……」

「アレス殿の指導とサポートを受けたからとはいえ、ここまでできるようになるとは……兄として、弟の成長を嬉しく思う」

「とかなんとかカッコいいこと言ってるが、ワイズゥ~? こんな短期間で選り分けって技術に関しては俺らに並ばれちまったぞ? こりゃ、のんびりしてたら、アッという間に追い抜かされちまいそうだから、俺らも頑張んねぇとな!!」

「あはっ……あはは……と~ぜんだよっ! 僕は、ライバルなんだから……ねっ!!」

「うんうん、その意気だ!」

「そうだな……そろそろ弟としてではなく、1人の男としてタムを見る必要があるといったところか……」

「おっ! いつも冷静沈着の男が、燃えてきてるねぇ!!」

「僕だって! 燃えてるよっ!!」


 とまあ、ここらで試験は終了って感じかな。


「さて……最終的にタム君は、自力で選り分け作業を成功させることができたわけだから……」

「わけ……だから……?」

「まあ、小隊の指揮自体はもっとたくさんの経験を積んでからのほうがいいと思うけど、俺たちと一緒に来るぐらいはしてもいいんじゃないかと思う……」

「えっ! 本当に、行ってもいいの!? アレスさん!!」

「一応、タムは約束を果たしはしましたからね……」

「ああ、そうだな!」

「といったところで、どうでしょう、ソニア夫人……タム君の同行を許可頂くわけにはいかないでしょうか?」

「……」


 そういえばソニア夫人だけど……俺がタム君に説教じみたことを言い始めた辺りから口数がめっきり減っていたような……?

 うぅむ……これはちょっと、出過ぎたことをしてしまったか……

 とはいえ、俺もここで引くわけにはいかんだろう。


「また、タム君の安全ですが、私が責任を持って守りますので! どうかご安心ください!!」

「母上……私からもお願いします」

「まあ、安全ってことに関して言えば……この王国内だと、コモンズ学園長と並ぶレベルでアレスコーチの傍が安全な気がしますけどね! だって、あのシュウが命懸けで放った一撃ですら、アレスコーチの魔纏を完全突破するには至らなかったんですから! あのレベルの一撃を放つことができる奴なんて、この王国内にどれだけいるかって話ですよ!! そう考えると、むしろこの屋敷で待機をしているより安全だって言えちゃいますよ!?」


 ああ、あのシュウとの勝負なぁ……正直、完全に防ぎ切れなかった俺の負けたと思ってるんだけどね……

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