第617話 単なる名誉だけではなく

 開会式が終わり、組み合わせも決まった。

 そこで本戦進出者のうち2年と3年は、今日のところはもう出番がないので、観客席へ移動……まあ、1年の試合なんかどうでもいいと思ってる人は、そのままどっか別の場所に向かうかもしれないけどね。

 それはそれとして、1年は俺とテクンドを残して、本戦進出者用の席に移動。

 ちなみに、本戦進出者用の席以外にも個人別に控室が用意されているので、自分の出る試合以外は観戦せずに控室で休んだり、アップしたりと自由に過ごすことができる。

 とはいえ、一応みんな控室に行かず、観戦するつもりのようである。

 まあ、いろいろ観て次の試合の参考にしようってところかな?

 そんなことを思いつつ、学園が用意してくれた武器を選定……といっても、俺はいつもどおりに木刀を選ぶだけなんだけどね。

 でもまあ、その木刀も一本だけではなく何本も用意されているから、一本一本握ってみて、その中で一番フィーリングの合うやつを選ぶ。


「よし、君に決めた!」

「……俺はこれにする」


 そして、俺が木刀を選んだところで、対戦相手のテクンドはロッドを選択。

 ふむ……前世でイメージされるような魔法少女の杖ってほどのファンシーさはないけど、先端のほうにちょっとした装飾が施されていて、魔法が本職の人なんだねって印象のロッドだ。

 そして係の先生が俺たちの装備品の最終チェックをおこない、これで正式に装備が確定。

 ああ、ついでにいうと、この武器は試合ごとに変更可能だし、追加したっていい。

 だから、杖と剣の二刀流とかって選択もオッケーだし、さらに背中にもう一本剣を背負ったっていい。

 まあ、そうやって欲張ったところで、試合中に上手く活用できなければ意味がないけどね。

 といったところで、場内アナウンスの声が聞こえてくる。


『さぁて、アレス選手とテクンド選手の装備が確定したところで……ここからは実況を私、ナウルン・ナルバルディが担当させていただきます! そして解説はこちら! スタン・ルーティさんです!!』

『スタン・ルーティです、よろしく』

『スタンさんは武術史に造詣が深く、まだ1年生であるにもかかわらず、既に論文も何本か出されているとか……いやぁ、同い年ながら凄いなぁという気持ちでいっぱいです』

『いえ、それほどでも』


 ナウルン・ナルバルディ……王女殿下の取り巻きの1人で、この前の俺とロイターの決闘のときも実況をやってくれたんだっけ……そう思うと、ちょっと懐かしいね。

 そして、スタン・ルーティって奴は……これまで特に接点もなかったし、クラスも違うから、あんまりよく知らん。

 とりあえず、シュウという名の武術オタクのメガネが本戦に出場するため、その代わりといってはなんだが、解説ができそうな奴を連れてきたって感じかな?

 でもまあ、既に論文を書いたりしているみたいだから、知識はしっかりとあるのだろう。

 また、論文についてだけど、俺は前世で大学1年の夏休みに異世界転生することになったからねぇ……レポートとかは当然書かされたことがあるけど、論文を書く経験をする前にこっちに来てしまったから、その点についてだけは、ちょっと尊敬の念が湧いてくるって感じだ。

 それはともかくとして、闘技場の舞台中央へ。


『アレス選手とテクンド選手が舞台中央にそろったところで、王女殿下から両者の胸ポケットに最上級ポーションが挿入されます』


 俺とロイターの決闘のときは、その役をファティマが担当したんだっけ……

 そして学園主催の武闘大会では、こんなふうにタイミングよく王女が学園に在籍していれば、ポーションの挿入役を担当することになるが、いない場合は本戦に出場しない女子生徒の中から、生徒たちの投票で選ばれることになるらしい。

 そのため、このポーションの挿入役となることが、女子生徒たちのあいだでそれなりに憧れとなっていたりもするらしい。

 でもまあ投票でってことなら、それはつまり今年一番の美少女ってことになるのだろうし……前世でもアイドルの総選挙とかいって、かなり盛り上がってたもんねぇ。

 そういえば……その期間中、アイドル好きの鈴木君が「中間発表でこれだと~」とか「誰々ちゃんの選対が~」とかああだこうだいって大騒ぎしてたのが思い出される。

 とまあ、鈴木君のことはともかく、今年については王女殿下がいるため投票がおこなわれず、一部の生徒は残念に思っていることだろう。

 そこで、もし仮に投票があった場合、俺は投票用紙に「エリナ・レントクァイア」と記入する……そして開票作業中の選挙管理委員に「女子生徒だっていってんだろ! これは無効票だ!!」ってキレられちゃうんだろうなって思う。


「しっかし、いいよなぁ……俺もあの舞台に立って、王女殿下にポーションを胸ポケットにスッと入れてもらいたいぜ……」

「うんうん、一生の自慢になるよね!」

「あそこで『健闘を祈ります』とかいってもらえたら……もう、それだけで昇天する自信がある」

「ああ、間違いないな!」

「やはり王女殿下だ……お美しい……」


 なるほどね……男子たちが本選進出に憧れを抱くのは、単なる名誉だけではなく、こういう理由もあったのか。

 でもまあ、確かに王女殿下は原作ゲームのメインヒロインだけあって、客観的に見れば魅力もあると思う……俺としては、年齢要件に引っ掛かって好みの対象外となってしまっているけど……

 というわけで、俺の場合は王女殿下に一言頂いても、「あ、どうも」ってぐらいだった。

 それはそれとして、最上級ポーションの準備も整ったので、あとは開始の声を待つばかり……

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