第719話 これはさすがに手が足りませんね……

「まずはお馴染みの……つらら!!」

「フフッ……やはりそれから来ますか! いいでしょう、しっかりと対処して御覧に入れますよ!!」

「ほほう! それは頼もしいものだな!!」

『ここにきてアレス選手! 攻撃魔法を解禁だァッ!!』

『アレスさんとしてはレミリネ流剣術のみで勝利を飾りたかったのでしょうが……それはシュウさんに阻止されてしまったようですね……』

『なるほど! 武の名門ウークーレン家から物理戦闘のみで勝利を得るのは、さすがのアレス選手をもってしても無理がありましたか!!』

『残念ながら、現段階ではそのようです……ただ、アレスさんもまだ自分の剣技に納得がいっていないようですし、これから先の努力次第ではまだまだどうなるか分からないでしょう』

『ふぅ~む、そう考えると……今回のところは物理戦闘でシュウ選手に勝つのはお預けとして、すんなり総合力で勝ちに行くことに切り替えることができたアレス選手の柔軟さに感心させられますね!?』

『ええ、そうですね……人によっては、プライド等が邪魔をしてなかなか方針を切り替えることが難しかったりするでしょうし……とはいえ、アレスさんの場合は魔法戦闘が本来の戦闘スタイルであることも関係しているとは思いますが……』

『確かに! それは大きいでしょうね!!』


 まあ、俺としても、スタンたちのいうようにレミリネ流剣術オンリーでって気持ちがあったのは否定しない。


「ひゃ~っ! 相変わらず、魔力操作狂いのアイスランスは恐ろしいよなっ!!」

「ああ、特に魔力操作狂いの繰り出すアイスランスは、一本一本がまさに必殺の威力を持つからな……」

「それにしてもシュウの奴……あのメチャクチャ硬そうなアイスランスを素手で砕くのかよ……」

「まあね、避けただけじゃ追尾してくるだろうから砕かなきゃならんっていうのは分かるけどさ……」

「あの場面、普通なら火属性の魔法で溶かすか、地属性の魔法でかち合わせて破壊するところだろうに……」

「とはいうものの、並の魔法じゃ相殺すらできず、魔力操作狂いのアイスランスが突き抜けてくるんだろうなぁ……」

「魔法相手に拳で対抗だなんて……改めてシュウのヤバさを認識させられるね……」


 俺のつららを素手で砕くことができることについては見事の一言に尽きるだろう……だが!


「つららの対処に夢中で、俺という存在を忘れてもらっては……困るぞッ!?」

「お……っと! 危ない危ない……さすがアレス君だ、容赦がないですねッ!!」

「当然だ! 隙アリと見たらどんどん狙っていくッ!!」

『四方八方から飛来するアイスランスの対処に忙しいシュウ選手へ、アレス選手本人も突撃を敢行! あとはそのまま斬撃を繰り出していく!!』

『加えて、手数重視ということなのでしょうね……右手に木刀を持ち、左手に氷の剣を生成しての二刀流に切り替えたようです』

『おおっ! 確かにアレス選手、いつのまにか二刀流にスイッチしていました!!』

『瞬時に氷の剣を生成できることにより、いつでも自由自在に一刀流と二刀流を切り替えることができるのもアレスさんの器用なところといえるでしょうね』

『その辺のところはやはり! 魔力操作の技量あってのことなのでしょうね!?』

『もちろん、そのとおりでしょう』

「……ふむ……これはさすがに手が足りませんね……であれば!」

『…………えっ! えぇと……腕? それも無数に……』

『まさか、そうきましたか……』

「なんとまあ……それは直球過ぎるだろ……」

「フフッ……あの日見たアレス君の姿を参考にしてみた……とでもいっておきましょうかね」


 シュウは「手が足りないなら、増やせばいいじゃない?」とでもいわんばかりに魔力で腕を顕現させたわけだが……なんというか、見た感じ前世の千手観音が思い浮かんだ……


「なんだそりゃ……」

「いやまあ、確かに『手が足りない』とはいってたけど……」

「シュウ君ってさ……意外と独特なセンスの持ち主だよね……?」

「クセの強さでも……魔力操作狂いに負けないレベルかもしれんな……」

「ぼくらの学年には、普通に強い人っていないんだろうか……?」

「でもよ……あの腕でアイスランスを殴り砕くことができるなら、下手に魔法で相殺していくよりは結果的に魔力の節約になるんじゃねぇか?」

「なるほど……それはそうかもしれん……」

「……う~む、どうやらアイスランス一本に対して腕一本を消費しているわけじゃないみたいですね」

「いやいや、シュウの野郎は超高速で動けるんだから、わざわざ律儀にアイスランスの相手をする必要ないだろうに……」

「たぶんだけど、シュウさんとしては超高速で移動するほうが体の負荷が大きいんじゃないかな?」

「ふむ、そう考えることもできるか……」


 ……ほう、そっちもくるのか。

 シュウが顕現させた魔力の腕は、つららに対する迎撃用だけではなかったようで、機を見て殴ってくる……


「ははっ! いいぞシュウ!!」

「見事なアイスランスだとは思うけれど……でも、シュウ君には敵わないわ」

「当たり前……ちょっとやそっとの攻撃じゃ、シュウの防御は崩せない」

「そう! ホントそう!!」

「さあっ! その無数の腕で殴ってやんなっ!!」

「その手で! 勝利をつかむのよ!!」

「まあ、多過ぎてどの手でつかむのかって話でもあるかもしれないけどな! あはははは!!」

「「「……」」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る