第555話 なんともやるせない出来事

 調子に乗ってたらしい1年生グループと、その彼らに凄んでいた2年生グループが去って行った。

 それを見届けていた俺は、変わらず食事を楽しむ……まあ、腹内アレス君が満足してくれていないからね……

 そしてさっき、1年生グループが「1年や2年早くか遅く生まれていれば……」みたいな感じでぼやいて、2年生グループにキレられることになってしまったわけだが……これについて、彼らに同情できる部分がなくはない。

 というのが、これから始まる武闘大会……学年、そして男女も別で開催されるからだ。

 そのため、1年男子の部、2年男子の部、3年男子の部、1年女子の部、2年女子の部、3年女子の部って感じに分かれて優勝を争うことになる。

 だから、さっきの2年生たちは、どうやったって武闘大会中に俺やロイターたち……もっといえばファティマやパルフェナと闘わないし、同じ学年のエトアラ嬢とも闘わない。

 それでおそらく1年生グループの感覚としては、1年男子に強者が集結していて、2年生や3年生ならワンチャンあったみたいに思っているのだろうと思う。

 まあ、王女殿下の取り巻きも、構成比率としては今のところ1年男子が特に多いからねぇ……

 それらを勘案すると、確かに実力がある、もしくは有望そうな奴が1年男子に多い印象を持つのは頷けるところではある。

 でも、2年生には豪火先輩もいらっしゃるし、なかなか楽な闘いにはならないと思うけどね……3年生はよく知らんけど……

 ちなみに、なんでこんなに細かく分かれているのかっていうと……いってしまえば、原作ゲームの都合なんだと思う。

 特に主人公が1年生の段階だと、プレイヤーがよっぽどレベル上げ大好き民じゃない限り、2年生や3年生より低い可能性があるからね……それだと優勝できない恐れがある。

 そうなると「これから勇者として名を揚げてかないといけないのに、ストーリー的にどうなんだ?」ってなっちゃうし、プレイヤーとしても優勝できないと、面白くなくなっちゃうかもしれない……

 この点について「勇者なんだったら勝てや!」って話かもしれないけど……相手がモンスターやマヌケ族などの害意ある敵対者じゃないと、なかなかそういう不思議パワーが発動しないっぽいからね……特に勇者として完璧に目覚めて力を使いこなせるようになるまでは……

 ……ん? そういえばこの勇者の仕組み……使えるかも?

 おそらくこの世界の主人公君も、今のところ勇者の力に完璧に目覚めてはいないと思われる……そこで、俺に対してそういう不思議パワーが発動するかどうか……これによって、この世界が俺を主人公君の敵対者とみなしているかどうかを判断する材料にできるのでは?

 うん、試してみる価値はありそうだ……よし、そういう意味も含めて主人公君と対戦できる組み合わせになることを期待しておこう。

 ……とまあ、原作ゲームの都合としてはそんな感じなんだろうけど、それをこの世界というか学園的に理由付ける出来事が過去にあった。

 というのが、もともと学園の武闘大会は、学年も男女も分かれておらず、そのとき在籍していた生徒全員で優勝を争う形になっていたらしい。

 正直、そっちのほうが学園最強って感じがするのは確かだね……まあ、優勝者の大半は3年生って感じになってそうだけど。

 それはともかくとして、そういう形式を変更するきっかけとなる事件……というにはあまりにも残念な出来事が起こった。

 その出来事っていうのが……武闘大会本戦決勝で、3年生の公爵家男子が、1年生の士爵家女子に破れるというもの……

 ぶっちゃけ「何やってんだよ! 3年公爵男子!?」って感じがしないでもないけど、それだけ相手の女子が強かったってことなんだろうね……そこで俺なんかは「もしかして、なんらかの乙女ゲーヒロインだった?」とか、軽口を叩きたくなっちゃうぐらいだ。

 ただ、その当時は、そんな軽いノリで済まなかったらしい……

 勝利した1年生女子が、周囲から猛烈にバッシングを受けるようになった……まあ、おそらくあったであろう公爵男子ファンクラブとかも黙ってなかっただろうしさ……

 そうして、ありとあらゆる罵詈雑言を浴び……果ては不正の疑いまでかけられる始末だったらしい。

 そこで公爵男子は「不正など何もない! 正々堂々闘った上で私は破れた、彼女の実力は本物だ!!」と声明を出して女子を庇ったらしいが、それで鎮静化するどころか、さらに燃え上がったらしい……

 そんなことが続き……ついに女子のメンタルがもたなくなったようで、失踪……一説には自殺したともいわれている。

 それを受けて公爵男子もいろいろと責任を感じ、後継者を辞退するまでになったという……なんともやるせない出来事。

 これについて……たぶん、マヌケ族が裏で煽ってたんじゃないかと思うし……失踪したといわれる女子も、おそらくマヌケ族の手にかかっている気がする……腹立たしいことだけど。

 そんな感じで、マヌケ族の暗躍について真相は不明だけど、とにかくそういうことがあって、学年と男女を分けて武闘大会を開催することになったらしい。

 まあ、それまでも男子たちから、少し前の俺みたいに「女子と闘うのはちょっと……」みたいな意見もそれなりに多く出ていたみたいだからね、そういう声も取り入れてのことなのだろう……

 つーか、件の公爵男子もそういう気持ちが少なからずあって負けた可能性もあるからね……そしてもちろん、そうやって「手加減してもらって勝った女」みたいな感じで1年生女子も責められたことだろう……手加減しようがなんだろうが、負けたほうが悪いだろうに……

 ちなみに、この武闘大会……王族も参加しない。

 やっぱり、爵位の差以上に王族を相手に闘うのは無理ってなっちゃうからね……

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