第512話 よく理解っていらっしゃる
「おはよう、キズナ君……俺も、悩み多き青少年というやつみたいなんだ」
というわけで、キズナ君に目覚めの挨拶を済ませる。
そして今日は光の日……前世でいうところの金曜日のため、今日で今週の授業は終わりである。
「だからね、オフィシャルな理由でエリナ先生に会えるのは、今週だと今日が最後になっちゃうんだよ……寂しいよね?」
嗚呼……毎日授業があればいいのに……そしたらエリナ先生に毎日会えるのに……
といいつつ、前世の俺から考えれば「毎日授業があればいい」だなんて、全くもって信じられないことを考えているもんだよ……
「……でもやっぱ、そうなんだよ。俺はエリナ先生が一番なんだよ……だから、ほかにどんな魅力を持った子が現れたとしても、俺の気持ちは動かないと思うんだよ……ま! もともとは君もエリナ先生のところにいたのだから、エリナ先生がとってもステキな女性だってことはよく知ってるだろうけどね!!」
いろいろアレコレ考えてみても、やっぱりエトアラ嬢の婚姻話に応えることができない理由はそこに行き着く。
「さて、どうすればみんなが満足のいく答えに辿り着けるだろうかねぇ……いや、『みんな』っていうのは難しいことだとは重々承知しているつもりではあるんだけどね……」
なんてことを呟きつつ、準備を済ませて朝練に向かう。
「それじゃあ、朝練に行ってくるからね」
そうキズナ君に告げ、いつもの朝練コースへ向かう。
そこには今日も、平静シリーズに身を包んだきゅるんとした少女がいらっしゃる。
……ふむ、コイツのきゅるんさ加減は、平静シリーズのダサさをもってしても色褪せないようだ。
とはいえ、ファティマ推しの男子たちからは不評みたいだけどね。
「おはよう……また変なことを考えているみたいね?」
「いや、お前という個性は、平静シリーズのダサさによって失われるものではないのだなと再認識していたところだ」
「そう……まあいいわ、早速走りましょう」
「おっ、そうだな!」
こうして何気ない挨拶を交わし、いつもどおり朝練を開始する。
「それにしても……昨日から随分お悩みのようね?」
「分かりますか? ファティマさん……」
「あなたほど分かりやすい人もなかなかいないのではないかしら?」
「なっ……なんだと? 俺ほどミステリアスな男などそうそうおるまいに……」
「まあ、単純ではあるけれど、いくらか不思議な性格はしている……とはいえるのかもしれないわねぇ?」
「なんだよそりゃぁ……?」
「ふふっ……そんなことよりも、悩んでいるのはエトアラ嬢のことでしょう? 私の思ったとおり、セテルタと友人関係を深めたところで、なんの影響もなかったみたいだものね?」
「そうなんだよ……とはいえ、エトアラ嬢を傷付けたいわけじゃないし……何より、『卒業するときまで待つ』といわれても、俺の気持ちは変わらないだろうから、ただただ1年半を無駄に過ごさせることになってしまう気がするし……」
「……相変わらずねぇ」
「えっ?」
「それで、何か考えていることがあるのでしょう?」
「お? おう……ただ、これは昨日ロイターとサンズにも話してみたんだが、どうにも無理っぽいようにいわれてな……」
「いいわ、話してみなさい」
「は、はい……それでは、お聞きください」
やっぱファティマって上司感あるね……でもまあ、うちのパーティーのリーダーなんだから、それもそのはずといえるかもしれない。
それはともかくとして、一応その辺の男子を捕まえて魔力操作を強制する案についても語りつつ、本命のエトアラ嬢とセテルタのカップリングについて説明してみた。
「なるほどねぇ……まず、男子たちに魔力操作を強制するという案は、あなたもあまり期待していないようだけれど、そもそも必要ないかもしれないわね」
「えっ、必要ないって……そこまで?」
「ええ、伸びる可能性のある男子なら、放っておいても自然とあなたの影響で自主的に魔力操作を練習し始める気がするもの……それから、強制されて泣く泣く魔力操作に取り組む……そんな男子をプライドの高いエトアラ嬢が気に入るようには思えないわ」
まあ、俺も魔力操作の啓蒙活動はそれなりにしているし、例年に比べて学園からも強く推奨されているみたいだからね……ファティマのいうとおり、やる気のあるナイスガイなら自然と自主練を始める気はする。
そして、エトアラ嬢のプライドの高さっていうのは、いわれてみればそうだったかもしれない。
まあ、なんとなく誰でもいいと思ってるんじゃないかって考えていたからでもあるんだけどね。
「ふむ……確かに、お前のいうとおりかもしれん」
「そして、エトアラ嬢とセテルタのカップリングという案だけれど……」
「おう! それだよ、それ!!」
さあ……ファティマはどう読む!?
「……意外と面白いかもしれないわね」
「おっ? おぉぉぉぉぉッ!! マジで!?」
「ええ、マジよ」
なんと! まさかのファティマが賛成票を投じてくれた!!
「だって、あの2人……お似合いだもの」
「やっぱりぃぃぃぃッ!?」
さすがファティマさんだ……よく理解っていらっしゃる。
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