第802話 託すに値する人物であれば……

 おぉっ、さすがロイターだ!

 俺の言いたかったことを、そのままズバリと言ってくれた!!

 やはり、タイマンを張って分かり合えた男は一味も二味も違うな……フフフフフ……


「アレス……そのネットリとした笑みを私に向けてくるのはヤメロ……」

「えっ……え? アレスさんがネットリとした笑みを……?」

「いや……いつもどおりの表情だと思うのだが……」

「う、うぅ~ん……気持ち、普段より瞳が優しめ?」

「そうかぁ? 俺には、キリリとした鋭い眼光に見えるんだけどなぁ?」

「以前見たことがある……ソエラルタウト侯爵そっくりの眼だ……」

「あっ! バカ!!」

「アレッサンの前で、オヤッサンのことは禁句だろ!!」

「ひぇぇ……」

「うむ……今『ピリッ』ときたのは我にも理解できたぞ……」


 母上に似ているというのは、いくらでも言ってもらいたいことだが……親父殿に似ていると言われるのは、気に入らないものである。

 とはいえ、武闘大会の表彰式のとき国王陛下にも言われたし……やっぱり、目の感じは親父殿に似ちゃってるんだろうなぁ……クソが!


「スンマセン、アレスさん! コイツはバカなだけなんで、許してやってください! ほら、お前も謝っとけ!!」

「も、申し訳ありませんでした……」

「……ああ、いや……次から気を付けてくれればいい」


 とりあえず、この一言だけを絞り出しておいた。

 まあ、それでキレ散らかすのもどうかと思うし……かといって、親父殿と似ていると言われるのも気分がいいものではないからさ……


「ふぅむ……真偽不明のウワサが数多くある中でも、お父上との不仲説は本当だったようだ……」

「ワイも、そこだけは気を付けとこ……」

「まっ! 俺もクソ親父とは気が合わねぇからなぁ……」

「僕は兄がウザくてウザくて……」

「俺んとこなんて、母親が違うせいか、10歳になったばっかの妹がいつの間にか敵対心をバッチバチに向けてくるようになったから困ったもんだよ……10歳だぞ? 10歳……はぁ~あ、昔はかわいかった妹が……義母さんも余計なことを吹き込むのはやめてくれっつぅの!」

「まあなぁ……兄弟姉妹は後継者争いで一番のライバルになるんだから、仕方ない部分もあるわなぁ……」

「兄弟姉妹どころか、こっちは叔父さんが一度父さんに負けてるクセに諦め悪く当主の座を狙ってるみたいでさ、ホントやんなっちゃうよ……」

「へぇ……五男ということで早々に後継者争いを降りる決断ができたボクは……意外とラッキーだった?」

「我関せずで、騎士団なり魔法士団に入るつもりでいたほうが、気楽ではあるだろうな……」

「下手したら、血みどろの後継者争いになる可能性もあるわけだしなぁ……そういうのは、マジ勘弁」

「私たちの愚痴はひとまず脇に置いておきましょうか……それでワイズ君、ロイター君の言うように何かほかに君を悩ませる理由があるのですか?」


 脱線しかけた話題の軌道が修正された。

 そして思案顔だったワイズも、意を決した様子で話の続きを始めた。


「……さすがロイター殿だ……あなたの言うとおり、決して結ばれることはなくとも、私はミカルのことを遠くから見守る覚悟を固めておりました……ただし、その相手がミカルのことを託すに値する人物であれば……」

「読めた! その相手が成金の肥え太ったオヤジなんだな!?」

「ああ、まぐれ当たりをした商人とかが特に、そんな感じのムチャを言うんだよなぁ……」

「そうそう! 金貨を積めば誰だって言うことを聞くと思っちゃってる残念なオツムをしたのがいるんだよねぇ!!」

「とはいえ、いくらか運の要素があったとしても、そこまで上り詰めることができたこと自体は決してバカにはできんだろうがな……」

「それに、我々は恵まれた貴族だからこそ『金貨を積めばいいと思っている』などと上から目線で商人連中を批判することもできるが……彼らの財力を前に膝を屈する者が少なくないのも事実だ……」

「商家の中には、たまに没落寸前の貴族家を乗っ取ろうだなんて不届きなことを考える輩もおるぐらいだからな……そういった手合いと比べれば、村娘に入れあげる色ボケというのも、多少かわいげがあると言えるかもしれん……」

「いやいや、第三者から見ればそうかもしんないけど! 実際に狙われたほうはたまったもんじゃないでしょ!!」

「きっと、いやらしい視線で舐め回すようにミカルって子を見てたんだろうなぁ……あぁ、キモッ!!」

「ミカルちゃん……かわいそう……」

「……ちょっと待ってくれ、確かにミカルに求婚しているのは商家の人間だが、成人して間もない息子のほうで、大幅に年上というわけではないらしい」

「あ、そうなの?」

「ほっ……ギットギトに脂ぎったトードみたいなオジサンに嫁ぐことになる憐れな少女はいなかったんだね……」

「お前の想像……エグ過ぎでしょ……」

「商人の妻っていうのも、それはそれで苦労もありそうだけど……とりあえず食べていくのには困らなさそうだし、平民としてはいい縁談なんじゃないの?」

「そうだなぁ……農家だと、今年みたいな不作の年は大変なことになるだろうしなぁ……」

「まあ、うちの領地で買い占めを図った商人共には殺意を覚えたけどな……」

「お前んとこの話はまたの機会にするとして……ワイズは商人の倅のどこに悩んでるんだ?」

「それが……その男、なかなかの放蕩息子だったようで……」


 あぁ……そっちのパティーンね……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る