第335話 この調子なら無理そうだねぇ

 マヌケ族探しおよびクソ親父派狩りであるが、結局昨日もマヌケ族を見つけられなかった。

 なんというか、クソ親父の原作アレス君への態度に感化されてというか便乗してというか、とにかくそんな感じで調子に乗って俺に対する悪口を仲間内でいっぱいいってるんだけど、逆にいうとそれだけって感じ。

 それに、俺がちょっと魔力で圧力をかけたぐらいでアッサリ気絶するような、全体的に実力不足が多い。

 正直、もう少しぐらい耐えろといいたい。

 とはいえ、ほとんどが武闘派ではない使用人だし、騎士や魔法士を含んだ領兵のほうも必要最低限の屋敷の警護以外は他家の貴族を見送りに出せないレベルの新人が多いからね。

 ……いや、ある程度年齢を重ねてそうなのに練度不足の奴もいるけどさ。

 とまあ、そんなことを思いながら今日も日中は、俺に否定的な感情を持ってそうな奴を探しながら訓練をしていた。

 その訓練にはもちろん、アレス付きの使用人たちも一緒だ。

 彼らにはぜひとも魔力操作をしっかりと練習してもらって、クソ親父派のような情けない奴らにだけはならないでもらいたい。

 ……まあ、同じクソ親父派でも、有能そうな奴はクソ親父に付いて王都に行ってる可能性は否定できないけどね。

 じゃあ、マヌケ族もその中に……って考えなくもないけど、あんまりクソ親父に近過ぎると下手に暗躍できなくなりそうな気もするんだよな。

 それなら、クソ親父を誘導すりゃ早いじゃんって思うかもしれないが、腐っても武系侯爵……それも母上に大きく劣るものの世代ナンバー2の実力者であるクソ親父がマヌケ族なんかの誘導に乗るわけがない……という変な確信がある。

 それに原作ゲームにおいても、原作アレス君が悪役であることを明確化するためなのか、ご丁寧にクソ親父とマヌケ族の関わりも否定されていたし……

 ただ、だからといって絶対にクソ親父の周りにいないとも限らないからね、その場合のこともそろそろ考えなきゃかもしれん……

 それだとこの夏休み中に始末してしまうのは無理かな……めんどくせぇ。


「アレス様、今日も夜の散歩に出られるのですね?」

「ああ、まあな……」

「今日こそ、アレス様のお眼鏡にかなう人材の発掘ができるといいですね」

「そう……だな」


 ある意味においては合っているといえるかもしれないが、たぶんギドは勘違いをしている。

 俺は別に、クソ親父派から魔力操作に優れた人材の引き抜きをしたいわけじゃないんだ。

 でも、さすがに「魔族を探してる」と本当のことをいったら止められるかもしれない……

 それとも、「ザコ魔族ぐらいならオッケー!」っていってくれるかな?

 それはともかくとして、今日もこれからマヌケ族探しを始めよう。


「……あの方の剣術を見たか?」

「うん、見た見た……ああいう通ぶってマイナーなものをあえて選択しちゃうっていうの? いるんだよねぇ……」

「まったく、誉れ高きソエラルタウト家には王国式こそが正統な剣術だというのに……」

「やっぱ、その辺も後継者にふさわしくないところだよな!」

「だよねぇ」

「セス様の手解きを受けたことで、今日からは王国式に戻られることを期待していたのだが……嘆かわしいことだ……」


 あぁ!? レミリネ師匠の剣術を愚弄する気か!!


「アレス様、抑えて、抑えてください……もう彼らは気絶しています……」

「……フゥ……すまんな」

「レミリネ様でしたか……彼女を敬愛するお気持ちは承知しておりますが……それが強すぎるあまりに我を忘れてしまうのは考えものです」

「ああ、そうだな……お前のいうとおりだ」

「それから、この際だから申し上げますが……ソレス様の呼び方も……『クソ』といいそうになっているのを堪えているのはお察ししますが、あれもいけません……リューネ様やセス様が聞き流してくれている今のうちに改めましょう」

「むむっ……そう……だな……」


 でもさ、自然と出ちゃうんだよねぇ……

 とはいえ、ギドのいうことはもっともだし、気を付けなきゃだな。

 つーか、心の中で「クソ親父」って読んでるから、そのまま出ちゃうのだろう……

 親父殿……親父殿……うん、これからは親父殿だ!


「ギドよ……お前の忠告に感謝する」

「いえ、お聞き届けくださり、ありがたく存じます」

「よし、それじゃあ、気を取り直して次にいくぞ!」

「かしこまりました」


 そうして今晩も、結局マヌケ族は見つけられなかった……

 う~ん、やっぱ親父殿の周りにいるのかな?


「アレス様、護衛を兼ねて見送りに出ていた実力派の騎士や魔法士もそろそろ帰ってくる頃でしょう……そうなると、この活動もおそらく明日が限度かと思います……それに、アレス様を護衛していた彼女たちがこの人材発掘活動を知れば、勝手に集め始めてしまうかもしれませんし……」

「そ、そうか……」


 確かに、学園からここまでの移動中にも、俺にその気があるなら推すといってくれてたしな……

 そんなお姉さんたちなら、やりかねんぞ。


「仕方ない……この活動は明日までとするか」

「どうしてもというなら、私が水面下で探しておきましょうか?」

「いや、それはいらない」

「そうですか……かしこまりました」


 こうして、明日の予定を立てたところでギドと別れ、バルコニーから部屋に戻る。

 明日で駄目ならほかの手を考えなきゃいけなくなるな……


「ふぅむ、明日で見つかるといいのだが……」

「この調子なら無理そうだねぇ」

「……ッ!?」

「やあ、来ちゃった」


 あのうさんくさい導き手……ゼンが来た。

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