第423話 そういう自由さ

 トランスフォームスライム戦の余韻をしばし味わっていると、魔石とドロップ品が出現。


「わぁ~っ、おっきい魔石だねぇ」

「もしかしたら、キングやエンペラーの魔石より大きいかもしれませんわね」

「厄介さではたぶん、それらを超えていただろうから当然」


 まあ、ダンジョン外の地上だったら撤退という選択肢があるからなぁ。

 学習するだけして、ヤバくなったらバイバイを繰り返しているうちに、かなりの武芸者に成長していたことだろう。

 今回のトランスフォームスライムにしろ、10階のユニオンスライムにしろ、ダンジョンのボス部屋故にその脅威度が下がったという感じだな。

 でも、彼らとは地上で出会わなくて、ある意味よかったといえるかもしれない。

 なぜなら、再戦を期待して見逃したくなったかもしれないからね。

 なんとなくだけど、モンスターたちがこちらの言葉というか意思を理解してそうなそぶりはある。

 しかし、それも絶対ではない。

 ゲンのようにこちらの言葉を理解して完全に意思疎通が可能なら、俺だけをターゲットにしてくれといって、喜んで見逃すのだが……

 ゲンが特別だっただけで、たぶんそんなわけにはいかないだろうから、涙を呑んで始末せねばならんかったかもしれない。


『もっと自由に生きてよ』


 ……ふと、あのうさんくさい導き手の言葉が脳裏をよぎった。

 自由か……そういう自由さっていうのはなぁ……

 俺が見逃したモンスターのせいで村や街が壊滅したってなったら、精神的に耐えられなくなりそうだし……

 まったく、奴の言葉は折に触れてジワジワと俺を誘惑しようとしてくるな……困ったものだ。

 もしかすると、奴の言葉に乗ったときこそが、俺の悪役としての破滅がスタートするときなのかもしれん。

 どうせ奴のことだから、どっかで見ているのだろうし、気を付けねば。

 なんて思っていると……


「もしアレス様がモンスターを生かしたいと思ったときは、ご相談ください」


 ギドめ、また俺の心を読みよったな。

 とはいえ、今回はトランスフォームスライムの亡骸があったところをずっと見ていたからな、割と読みやすかったかもしれん。


「モンスターの飼育かぁ、なかなか難しいって話だよね?」

「難しいことは難しいが、モンスターを使役して軍を編成している国もあったはずだから、可能ではあるはず」

「そこまでいくとさすがに、その国秘伝の技術となるのでしょうけれど……それはそれとして、カイラスエント王国には他種族の排斥を強く訴える方たちがいますし……そういった点においての難しさのほうがむしろ大きいかもしれませんわね」


 ……そうだろうな。


「まあ、かつての人魔戦争において、モンスターの多くが魔族に使役されていたという話ですからね……モンスターと魔族を同一視して敵とみなしている方も少なくないでしょう」

「ああ、人間族至上主義の人たちねぇ……あの人たちもなかなか声が大きいから……」

「ええ、徐々に人魔融和派が増えてきているとはいえ、勢力としては無視できませんものね」

「どちらにせよ、極端なのは困る」

「ま、とりあえず、何かあったらみんなに相談させてもらうさ」

「ええ、そうなさってください」

「アレス君の相談なら、私なんでも聞いちゃうよっ!」

「いつでも待ってる」

「微力ながら、お力になりますわ」

「みんな、ありがとう……おっと、ドロップ品の回収が途中だったな、続きといこうか」


 そうしてドロップ品を回収し終え、内容を確認。


「どうやら、今まで出てきたお菓子の詰め合わせといったところですね」

「それも、種類ごとにたくさんっ!」

「加えて、ひとつひとつがビッグサイズ……これは食べ応えがありますわね」

「ここでもう一度フルーツゼリーに会えるとは……感無量」


 というわけで、お菓子については大満足といえるだろう。

 ただ、このダンジョンは11階からネタ装備が連発しているからね……


「そしてこちらは……手袋と靴下ですか」

「ご丁寧に、人数分ありますわね」

「そして『平静』ブランドも健在みたいだね」

「……これで全身そろったというべき?」


 うん、そんな感じだね。

 全身を平静ブランドで固める……ダセェけど、学園ではアリかもしれん。

 それって……新しい学園のファッションリーダー爆誕?

 フッ、本物の流行っていうのは、ひとりのカリスマから始まるものだからね。

 といいつつ、ロイターとかサンズに着させたらどうなるだろう、ファンクラブの連中もマネしようとするかな?

 ナウな貴族子女にバカ受け! ってなったら、必然的にこのスライムダンジョンも活気づくかもしれん。

 よし、手袋と靴下はやれんが、それ以外はウチのパーティメンバーへのお土産にしよう。

 あ、ついでだからソイルたちにもプレゼントしよう。

 それに、無口なヴィーンが平静シリーズを身に纏ったら、それこそ「平静」の体現者となるかもしれん、これは面白い。


「俺は決めたぞ! 新しい学園のファッションリーダーとなるッ!!」

「それって……まさかこれでっ!?」

「え、ええと………………はい、アレス様がそうおっしゃられるのなら、お止め致しません! わたくしたちもお供いたしますわ!!」

「………………覚悟は決まった」

「そういうことでしたら、ほかのアレス様付きの使用人たちにも着てもらいましょうか。ソエラルタウト領に帰ったら、さっそく皆に配るとしましょう」

「あはは……はは……この流れは止められそうにないなぁ……」


 ソエラルタウト領の一部で「平静ブーム」の到来が確定した瞬間である。

 さて、学園では果たして……

 それと、ダンジョン攻略おめでとうといわんばかりに宝箱が出現し、中にはポーションの詰め合わせが5セット入っていた。

 ……詰め合わせ好きだね。

 とりあえずこれは、1人1セットずつで分配。


「さて、これでもう忘れ物はないかな? それじゃあ、転移陣で1階に戻ろうか」


 こうしてスライムダンジョンの攻略を終えたのだった。

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