第422話 持久戦は敗北を意味する

 4体の分身スライムたちを見てみると、それぞれ持っている武器が違う。


「へぇ~それって、私たちのマネってことかな?」


 おそらくノムルのいうとおりで、剣はギド、メイスはノムル、レイピアはヨリ、そしてナイフ2本はサナを意識してのものなのだろう。


「そういうことですと、必然的に相手は決まりますわね?」

「同じ武器で私たちに挑もうとするとは、実に生意気」

「そして、核持ちの大将殿はアレス様を御指名のようですね」

「フッ、嬉しいじゃないか、トランスフォームスライム……好きになれそうだよ」


 そして各々相手が決定したところで、戦闘開始。


「先手必勝! そ~れっ!!」

「核がないとはいえ、本体から指令を受ける中枢はあるはず」

「あなたの腕前がナイトやジェネラル以上であることを期待いたしますわ」

「やれやれ、私はサポートが中心なのですがねぇ」


 こうして4人と4体がそれぞれの戦闘に集中していく。

 そして俺はといえば、核持ちの大将殿を見据えながらゆっくりとミキジ君とミキゾウ君を抜いて構える。


「別に手加減しようってわけじゃないんだ。ミキオ君は相手の技量なんて関係なしで粉砕しにいこうとするし、俺も相手が強いほど制御する余裕がなくなってしまうからね……純粋に戦闘を味わうならこっちかなって」


 まあ、もともとミキジ君とミキゾウ君は相手の命まで奪ってしまわないための対人戦用に用意した武器なのは確かだ。

 しかしながら、それがイコール武器として弱いというわけではない。

 その証拠に、蹂躙モードをイメージして魔力を込めれば、同じことが可能だ。

 ただ、ミキオ君のように何も考えず魔力を込めただけでできるっていう標準設定になってないだけの話。

 まあ、そのイメージが必要なぶん手間が増えることになるんだけどね。

 そして基本は打撃武器となるわけだが、イメージを持って魔力をとおせば、先端から魔力による刃を出すこともできる。

 これにより前世のアニメや漫画などの創作物にあったような、普段は柄だけで、戦闘時に炎や光の刃を出すみたいなことを再現できるわけだ。

 ……いや、正直にいえば、柄がなくても魔纏の要領でどこからでも出せるけどね。


「……ギュ」


 おっと、御託はいいからさっさと来いといわれてしまった。


「隙があると思ったのなら、攻めて来てくれてもよかったんだが……なかなか紳士的なんだな?」

「……ギュ」


 ふむ、「カウンターの準備をしていただろうに、冗談はよせ」とでもいいたげである。


「フフッ、さすがといっておこうか……それじゃあ、おしゃべりはこの辺にして、さっそく!」

「ギュッ!」


 風歩で一気に距離を詰め、両腕をクロスした状態から左右に振り抜く。

 それを大将殿は、後方に大きく反ることで避けるとともに、反動を利用して俺のガラ空きの胴体めがけて蹴り上げてくる。


「ッぶねッ!」


 すかさず斜め後方に跳び退く。

 だが、それで終わらず大将殿は、両手だった部分を足に変形させ、足のバネを利用して追撃を敢行。


「なんのッ!」


 大将殿が蹴り足だった部分を槍状に変形させて繰り出してきた突きに対し、両手のミキジ君とミキゾウ君によって打ち合わせることで威力を相殺。

 そして着地でもって仕切り直し。


「やるねぇ」

「ギュ」


 俺の言葉に対し、「当然だ」といわんばかりの大将殿。


「なら、もっともっとギアを上げて行こうじゃないか! レミリネ流の真骨頂をお前にも見せてやるよォ!!」

「ギュワァツ!!」


 全身に魔力を流すことで身体能力を上げ、高速戦闘を可能にする。

 そして、二刀流かつほぼ重量ナシといっても過言ではないマラカスで手数をどんどん増やしていく。

 それに対し大将殿は、盾のような腕を増やすことで対処。

 また、俺の隙を冷静に判断して、レイピア状に鋭く尖らせた腕を生成して突き込んでくる。

 ……コイツこそまさにクラーケン流の使い手か?

 なんて思いつつ、周囲から聞こえてくる言葉を耳が拾った。


「武器だけじゃなくって……私の戦い方までマネされてるっ!?」

「まるで、鏡のようですわっ!」

「……うっとうしい」

「なるほど、戦闘を続けながら学習をしているようですね……実に勤勉なスライムです」


 ということは、さっきのレイピア状の突きはヨリから学習したのか?

 そう考えると、大将殿の動きが序盤はどちらかというと回避や盾による防御を主体とした戦闘方法だったのが、時間の経過とともに攻撃の手数が増えてきているような気もする。

 そこで、八方目により周囲の状況をうっすらと観察してみるに、分身たちは学習用とでもいうのだろうか、対戦相手の動きだけをトレースしているように感じる。

 あの様子からおそらく、情報は本体にだけ送って、分身同士で情報の共有はしていないのだろう。

 いや、その余裕がない可能性もあるな。

 もしくは、分身たちはそもそもコピーが目的で、勝つことを狙っていないのかもしれない。


「ハハッ、思い出すなぁ……俺もレミリネ師匠から実戦的な稽古の中で剣術を学んだ……お前と一緒さ」


 トランスフォームといわれて、外見の変化ばかりを考えていたが、学習による戦闘スタイルの変化も意味していたんだなぁって感じだ。

 そして、持久戦になればなるほど、コイツは技量を上げていくのだろう。

 現に、徐々にではあるが、動きが洗練されてきているように感じる。

 だが、ここはボス部屋……本来なら、適当なところで切り上げて撤退を図るのかもしれないが、それも不可能。

 それがどういうことかというと……


「残念ながら、この場で俺相手に持久戦は敗北を意味する……なぜなら、お前の魔力が目に見えて減ってきているからだ」

「……ギュゥ」


 本来、鈍重なスライムボディを機敏に動かすにはそれ相応の魔力が必要だったのだろう。

 そしてもちろん、要所要所で魔法も使っていたしな。


「ふむ、刃筋の立て方など、技量そのものは悪くない。だが、動きに先ほどまでの精彩がなくなってきている、ピークは過ぎたようだな……お前が学ぶべきは、戦闘技術より先に魔力操作だったのかもしれん」

「……ギュ……ウゥ……ッ」

「だが、俺はまだまだ戦えるぞ! なんだったら、このダンジョンが内包する魔素を使い果たすまで戦い続ける……のは途中で飽きるかもしれんが、とにかくこのままでは魔力切れでお前の負けは確定だ! それが嫌なら、残りのありったけの魔力を燃やして、全力で来いッ!!」

「……ギュウッ!!」


 その掛け声とともに一瞬の閃光。

 光属性の魔法による目くらましか。

 そしてその隙に、4体の分身体が大将殿のボディに戻り、一体化。


「う~ん、私たちの出番はここまでかな?」

「何度か手応えはあったのですが……倒し切れませんでしたわね」

「……悔しい」

「まあまあ、アレス様が楽しそうにしているのですから、それでいいではありませんか」

「……そだね」

「……ですわね」

「それなら……仕方ない」


 ふむ、分身体に割いていたぶんの魔力を回復したか。

 いいだろう、最終ラウンドだ!


「お前の青春の煌めきを全部出し尽くせ!!」

「ギュワァッ!!」


 全力の攻防、そして速度、重量ともに申し分なし。


「燃えろ! もっとだ! 魔力が足りないなら、お前の命を燃やせぇッ!!」

「ギュ……ウガァァァァッ!!」


 それは真っ赤に燃える輝きだった、トランスフォームスライム最期の変形ともいうべき輝きだった。

 だから、俺も燃えた、全力で燃えた。

 そして、トランスフォームスライムは燃え尽きた。


「俺はお前と会えたことを誇りに思う……今は安らかに眠れ」


 そう言葉をかけて、戦いは終わった。

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